こんにちは、GVの大岩です。東大国語第一問の解答解説をします。
東大第一問の解説をアップする理由は以下の三点です。

①難度は高いが良問であること。
②標準的な形式で他大学への応用がきくこと。
③公開されている解答に改善の余地が大きいこと。

それで、より良い解答を世に提起し議論の俎上に載せようと思っている訳です、が実際はなかなか反応がありせん。笑 解答を作成、提示するにあたり心掛けていることは以下の二点です。

①より洗練された解答であること。
②無理のない根拠より導かれた、生徒にも再現可能な解答であること。

できれば、こうした解答を提出することで、自らも含めて学ぶものの知の向上に寄与したいと思っています。

設問(一)「その痕跡が素粒子の『実在』を示す証拠であることを保証しているのは、量子力学を基盤とする現代の物理学理論にほかなりません」(傍線部ア)とは、どういうことか、説明せよ。(60字程度)

出典は野家啓一『歴史を哲学する~七日間の集中講義』。

内容説明問題。文が長いので時系列に整理して「…物理学理論(a)→{その痕跡(b)→素粒子の『実在』(c)}」。ここで、(b)は「素粒子の運動の痕跡」で実験により知覚できるが、(c)は知覚できないものである。ならば(a)が「保証」する必要があるのは、知覚できる(b)から、知覚できない(c)への「橋渡し」である(b→c)。では、どのようにして?同②段落最後の文「素粒子が『実在』することは…物理学理論のネットワークと不即不離」が根拠になるはずだが、「ネットワーク」のイメージがつかない。
そこで他「ネットワーク」を使っている箇所を探すと 、最終⑦段落「『物語り』のネットワーク」とある。全文を通して「理論」と「物語り」は相似形にあるので、ここを参考にできるはず。ここでは「物語りのネットワークの中に歴史的事象が位置づけられる」という内容。ならば「理論のネットワークの中に『素粒子』が位置づけられる(その結果『実在』が保証される)」と言えよう。

<GV解答例>
ミクロ物理学の理論が提示する関係性により、実験を通し知覚できる運動の痕跡の主体が、知覚不能な素粒子として位置づけられるということ。(65字)

<参考 S台解答例>
素粒子は知覚的に観察できないが、理論に基づくことで実験を通して痕跡として認識可能になり、その実在を証明できるということ。(60字)

<参考 K塾解答例>
知覚できない素粒子の存在は、その運動の痕跡を観察する実験によって確証されるが、その作業は物理学理論に即してしかなされないということ。(66字)

<参考 T進解答例>
知覚しえない素粒子の「実在」を、素粒子の飛跡という知覚可能な実験的証拠によって確信できるのは、背景にある現代物理学の理論の支えがあるからだということ。(75字)

設問(二)「『理論的虚構』という意味はまったく含まれていない」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。主語は「理論的存在」(観察できない対象のこと)。それがザックリ「『理論的虚構』(a)/ではない」。否定の後の肯定を見ると次文「それは知覚的に観察できないというだけで、れっきとした『存在』であり」とあるが、これではまだ(a)に迫れない。他に、(a)の直接的言い換えを探しても無いようだ。この場合、「虚構」を辞書的に言い換える、では安易すぎ。もう一つ、「対比から迫る」手法がある。そこで同③段落最後の文「『実在』の意味は理論的『探究』の手続きと表裏一体」に着目。「探究」というからには、本来的に実在しており、それを実験などの理論的手続きで確認するのである(③段落4文目)(b)。
逆に考えて「理論的虚構」とは「理論の都合で事後的に構築されたもの」(a´)と言えるのではないか。「(理論的存在は)~(b)という点で(a´)ではない」とまとめた。主語は、自明な場合、字数の都合上カットして良いだろう。

<GV解答例>
知覚的に観察不能だが、実験を伴う理論的手続きを踏めばその実在性が再現できるという点で、理論による事後的な構築物ではないということ。(65字)

<参考 S台解答例>
理論的存在とは、証拠に基づく理論的探究を通じて構成されたものであり、それを無視した恣意的な構築物ではないということ。(58字)

<参考 K塾解答例>
理論的手続きによって導き出されたものが直接知覚できないからといって、ありもしないものを捏造しているわけでは毛頭ないということ。(63字)

<参考 T進解答例>
直接知覚できないが、実在性に疑いの余地はなく、適切な実験装置と一連の理論的な手続きによってその証明は可能で、決して単なる観念的創造物ではないということ。(76字)

設問(三)「『フランス革命』や『明治維新』が抽象的概念であり、それらが『知覚』ではなく、『思考』の対象であること」(傍線部ウ)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。主語を一般化した上で、語順を変えて言い直すと「歴史的事実は/知覚の対象ではなく(a)/抽象的な概念であり(b)/思考の対象である(c)」。
(a)と(b)(c)は対比の内容なので、同⑤段落から分けてピック。すると「(a)/もの/個々/具体」に対し「(b)/こと/関係/抽象」となる。
また、(b)については同一意味段落④段落3文目4文目から「直接間接の証拠/史料批判や年代測定などの一連の理論的手続き」が「抽象」との関連で使えそう。(c)については、(b)の結果として思考の対象となる、という「因果的な関係」を示し適当な言葉で言い換えておけば良いだろう。

<GV解答例>
歴史的事実は、知覚できる事物の集合ではなく、直接間接の証拠から法則的理解に基づき抽出された事柄として思考の上で存在するということ。(65字)

<参考 S台解答例>
歴史的事実は、過去の事象から知覚可能な具体性を捨象し、特定の視点に基づき出来事を関係づけていく思考の産物だということ。(59字)

<参考 K塾解答例>
歴史的出来事は、具体的に知覚される個々の物ではなく、一連の事象を理論的に関連づけ、ひとまとまりの事柄として構成したものだということ。(66字)

<参考 T進解答例>
歴史記述の対象は、個々の具体的な事物を恣意的に関連づけた概念であり、直接観察することは不可能で、「理論的存在」として特徴づけられるものであるということ。(76字)

設問(四)「歴史的出来事の存在は『理論内在的』あるいは『物語り内在的』なのであり、フィクションといった誤解をあらかじめ防止しておくならば、それを『物語り的存在』と呼ぶこともできます」(傍線部エ)とあるが、「歴史的出来事の存在」はなぜ「物語り的存在」といえるのか、本文全体の論旨を踏まえた上で、100字以上120字以内で説明せよ。

理由説明型要約問題。基本的な手順は以下の通り。
(1)´ 傍線部自体の端的な理由をまとめる。(解答の足場)
(2)「足場」につながる必要な論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
(3)必要な要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(ディテール)

(1)´ まず、この問題は長い傍線部の中から、「歴史的出来事という存在」(S)と「物語り的存在」(G)だけを抜き出し、なぜSはGといえるのかを問う。この場合、傍線の全てを置き換え説明する必要はないということだろう。ここでは「フィクション…ならば」は解答に直接反映させなくて良い。設問(二)ですでに答えたからだ。ただし、Sが「『理論内在的』あるいは『物語り内在的』(A)なのであり」は踏まえる必要があろう。「それ(A)をGと呼ぶこともでき」ると、まさに、Aが中継点となってSとGをつなぐからだ。Gの「~的」には一般に「~のような、~についての」などの意味があるが、ここは歴史的出来事が「物語りのような」存在だ、という意味だろう。以上より「Sは/Aなので/(物語りとの重なりを指摘(b))から。(→Gといえる)」(X)とつないだら良さそうだ。

(2)傍線部(最終文)の近い所から視野を段落に広げる。まず、後ろ3文目で、それまでの長い例を受け、歴史的出来事は「『物語り』のコンテクストを前提」とするとし、それを後ろ2文目で「物語り的負荷」と、傍線部でAと言い換える。これより「歴史的出来事(S)は/物語りの文脈に位置づけられるので(a)/~(b)から」(X´)。
次に、後ろ2文目「(歴史的出来事の)存在性格は認識論的に見れば、素粒子(物理学)や赤道(地理学)などの『理論的存在』と異なるところはありません」に着目。これより「歴史的出来事(S)は/他の科学的事象が~(a´)なのと同じく/物語りの文脈に位置づけられ初めて認識される(a)ので/~(b)から」とアウトラインを決める。

(3)(a´)については、(a)と相似形になるように、関連段落の③④段落から「(他の科学的事象が)理論的探究の中で実在を認識(保証)される」とした。
(b)については、(a)からのつながりを意識し、科学理論について述べてある②③段落の「(実在と理論は)不即不離」「(実在と理論的探究は)表裏一体」を参考にし、「理論」と相似の関係にある「物語り」に援用した。
他、①段落より歴史的事実と科学的事象が「知覚できない」こと、④⑦段落から「物語り」の説明を加えた。

<GV解答例>
実在を確信されながらも知覚できない歴史的出来事は、他の科学的事象がその理論的探究の中で実在を保証されるのと同じく、直接間接の証拠を吟味し総合した物語りの文脈に位置づけて初めて認識されるという意味で、本質的に物語り行為と一体化して現れるから。(120)

<参考 S台解答例>
歴史的事実は、物理学における理論的存在と同様、直接知覚することはできないが、史料や調査といった証拠に基づく理論的な探究を通じて、恣意的に捏造された虚構を排し、諸々の出来事を特定のコンテクストにおいて再構成した物語りとして実在するものだから。(120)

<参考 K塾解答例>
過去の歴史的出来事は、現在の我々からは直接的に観察できず、その存在は、我々が文書史料の記述や絵画資料、発掘物を理論的に検証する手続きを通じて、個々の事象を関連づけ、一つのまとまった出来事として構成することではじめて確証されるものだから。(118)

<参考 T進解答例>
物理学や地理学における「理論的存在」と同様に、歴史的事実は過去のもので直接的な知覚が不可能であるため、歴史的事実の実在を確証するためには、史料批判や発掘物の調査といった、「物語り」行為をもとにした理論的「探究」の手続きが不可欠であるから。(120)

設問(五)

a. 蓋 b. 隣接 c. 呼称

 

東京大学 第一問(現代文)2018 解説講義①

東京大学 第一問(現代文)2018 解説講義②

東京大学 第一問(現代文)2018 解説講義③