目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 〈蚭問解説〉問䞀
  3.  問二 傍線郚(ア)フィクションの認知的䟡倀ずあるが、これは具䜓的にはフィクションのどのような䟡倀を指しおいるか。80字以内で説明しなさい。
  4. 問䞉 問䞉 傍線郚(ã‚€)もう䞀぀の事実ずSF的創䜜は比范できるものではないずあるが、筆者の解釈によれば、ル=グりィンがマヌセス(投皿者)ぞの返答に察しおこのように䞻匵するのはなぜか。80字以内で説明しなさい。
  5. 問四 傍線郚(ã‚Š)氎平的慣習ずは、蚀葉ず珟実を瞊に繋ぐこうしたコミットメントの糞を、いわば暪の運動によっお裁ち切っおゆく瀟䌚的な力であるずあるが、これは具䜓的にどのような慣習を指しおいるか。80字以内で説明しなさい。
  6. 傍線郚(ã‚š)ポスト・トゥルヌス的政治がもたらす珟代フィクションの条件の䞀぀ずなっおいるずあるが、フィクションが成立する条件ずは䜕であり、珟代ではその条件がポスト・トゥルヌス的政治によっおどのような圱響を受けおいるず筆者は論じおいるか。本文党䜓の論旚を螏たえたうえで、160字以内で説明しなさい。

〈本文芁玄〉

出兞は久保昭博ポスト・トゥルヌスあるいは珟代フィクションの条件。長い本文ず長い蚘述解答が神戞倧の特城。蚭問は意味ブロックごずに聞いおくる傟向がある。本問は、重芁箇所の絞りこみずブロック分けが比范的容易であった。
①④段萜(意味ブロック)。2017幎ドナルド・トランプの倧統領就任匏でのホワむトハりス報道官の発蚀に察し、なぜ虚停を発信するのか、ずのむンタビュアヌの問いに倧統領顧問は、もう䞀぀の(オルタナティノ)事実ず蚀っおのけた。

その発蚀は文孊フィクションに二぀の反響をもたらした。䞀぀はオヌりェルの『䞀九八四』(1949)が再び泚目を集めたこず。なぜこのような時に人はフィクションを求めるのか。䜜家の衚珟力が珟実を拡倧鏡に映したように芋せおくれるから。では、そのようなフィクションは、我々に䜕をもたらすのか。それをフィクションの認知的䟡倀(傍線郚ア)ず考えたい。オヌりェルは、珟実を暡倣し、それずの類䌌に基づくフィクションの䞖界を読者に提瀺した。モデル化によっお真実らしさのレベルに匕き䞊げられた20䞖玀の歎史、それぞの没入を媒介ずしお、珟実の深局構造を再垰的に認識するこずを可胜にした。それがフィクションの力である。

⑀⑊段萜(意味ブロック)。もう䞀぀。もう䞀぀の䞖界などSF䞖界にありふれたものだずいう投曞に察しおSFのレゞェンドル=グりィンのマゞレス。圌女は蚀う。もう䞀぀の事実ずSF的創䜜は比范できるものではない(傍線郚む)。我々のもう䞀぀の䞖界は想像の産物で、事実を暙抜するこずはない。
ル=グりィンのマゞレスから感じ取れるのは、ポスト・トゥルヌス的政治状況ぞ圌女が抱く危機感である。それは虚停が真実ずしおたかり通る党䜓䞻矩的状況ぞの怖れに根ざしたものだ。だがそれに加え、圌女は、嘘ずフィクションを峻別するこずでフィクション固有の領域を守るこずが、芞術の䞊でも政治の䞊でも必芁であるず考えたからではないだろうか。

⑧⑪段萜(意味ブロック)。発話者の意図ならびに発話ず珟実ずの関わり方ずいう二点で嘘ずフィクションを区別するル=グりィンの手続きは、サヌルによるフィクションの手続きを想起させる。圌によれば、フィクション的発話ずは、欺くずいう意図なしになされる停装(ふり)である。ポむントは二぀。第䞀は停装が、䜜者ず読者に共有されねばフィクションは発生しないずいう点。フィクションずは、ひろく瀟䌚的な合意の産物である。
第二の点は、フィクションが珟実に関䞎しない仕方に関わっおいる。フィクションにはそれを成立させる独自の慣習が存圚する。サヌルはそれを氎平的慣習ず呌ぶ。これは垂盎的芏則ず察抂念である。埌者では、発話者が呜題の真理倀ないし誠実さに関する芏則を遵守し、珟実ず瞊の関係を結ぶこずで、珟実䞖界にコミットする。他方氎平的慣習ずは、蚀葉ず珟実を瞊に繋ぐこうしたコミットメントの糞を、いわば暪の運動によっお裁ち切っおゆく瀟䌚的力である(傍線郚り)。珟実にコミットせず、その原則が宙づりになったフィクションをごっこ遊びず定矩するこずができる。フィクションには遊戯的な偎面が備わるのだ。

⑬⑭段萜(意味ブロック)。以䞊のサヌルによるフィクションの定矩に照らしお、ル=グりィンのフィクション擁護の身振りが、いかなる射皋をも぀のかを考えおみたい。結論から蚀うず、(真性な)事実を擁護するこずずフィクションを擁護するこずずは裏衚の関係にあるずいうこずである。フィクションず珟実ずいう二぀の盞補的な䜓制、二元論を人間の蚀語ず思考のうちに保持せねばならない。なぜか。その厩壊が党䜓䞻矩ぞの道を開くからである。
そもそもフィクションによる珟実の棚䞊げが可胜になるには、棚䞊げされるべき珟実がそれずしお確立しおいるずいう信を必芁ずする。オヌりェルが描き出したのは、盞互に矛盟する信念を自己欺瞞の無限ルヌプによっお匕き受け぀づけるこずで、珟実ぞの信を厩壊させ、その結果ずしお氎平的慣習の停止を匕き起こす粟神的暎力であった。その䜏人はフィクションをごっこ遊びのフィクションずしお享受するこずができない。そしお、蚀語ず思考を操䜜する欲望に駆られた党䜓䞻矩暩力により、人間のフィクション胜力が抑圧される。オヌりェルが描き出したこのような状況は、ありうるこずずしおポスト・トゥルヌス的政治がもたらす珟代フィクションの条件の䞀぀ずなっおいる(傍線郚゚)。

〈蚭問解説〉問䞀

a. 参集 b. 反響 c. 喚起 d. 候補 e. 管蜄

問二 傍線郚(ア)フィクションの認知的䟡倀ずあるが、これは具䜓的にはフィクションのどのような䟡倀を指しおいるか。80字以内で説明しなさい。

意味ブロックのうち、傍線郚の盎前郚ず、盎埌の④段萜を参照し、認知的ずいう語に着目しお該圓箇所をたずめる。傍線郚はフィクション䞀般の䟡倀であるから、『䞀九八四』の内容に限定される蚘述(ex.党䜓䞻矩瀟䌚の到来を 想像するこずを可胜にする)は陀倖する。するず、珟実を暡倣/モデル化/真実らしらにたで匕き䞊げる/没入を媒介に/珟実の深局構造を再垰的に認識するこずを可胜にするがピックできる。

このうち、できればモデル化ず再垰的は蚀い換える。モデル化=単玔化しお/分かりやすく瀺すこず(←拡倧鏡③)、再垰的(に認識する)=(普段は意識されないたたに珟実を芏定する構造を)自芚的(に認識する)。

<GV解答䟋>
珟実を暡倣し単玔化しお分かりやすく提瀺した䜜品䞖界を、読者に真実らしく感じさせ、それぞの没入を促すこずにより、珟実の深局構造を自芚的に認識できるようにする䟡倀。(80字)

<参考 S台解答䟋>
珟実を暡倣し、モデル化によっお真実らしく提瀺したフィクション䞖界ぞず読者が没入するこずを媒介ずしお、珟実の深局構造を再垰的に認識するこずを可胜にするずいう䟡倀。(80字)

<参考 K塟解答䟋>
珟実を暡倣した䞖界に読者を没入させ、珟代の珟実の深局構造を認識させるこずで、虚停を事実ず匷匁する党䜓䞻矩䜓制が到来しおしたう可胜性を読者に想像させるずいう䟡倀。(80字)

問䞉 傍線郚(ã‚€)もう䞀぀の事実ずSF的創䜜は比范できるものではないずあるが、筆者の解釈によれば、ル=グりィンがマヌセス(投皿者)ぞの返答に察しおこのように䞻匵するのはなぜか。80字以内で説明しなさい。

意味ブロックから、筆者の解釈によればずいう芁求を螏たえお、⑊段萜の内容を根拠にする。特に、その最終文だがそれに加え 嘘ずフィクションを峻別するこずでフィクション固有の領域を守るこずが 必芁ず考えたのではないだろうかが解答の䞭心ずなるのは芋やすい。これに盎前のポスト・トゥルヌス的政治状況/虚停が真実ずしおたかり通る党䜓䞻矩的状況に察する怖れずいう芁玠を加える。
たた⑥段萜、傍線郚(ã‚€)の盎埌フィクション䜜家が䜜るもう䞀぀の䞖界は 創造の産物/事実を暙抜するこずは決しおないずいう芁玠も、ル=グりィンが蚀うずころの(ã‚€)の理由だし、筆者の解釈もこれを排陀するものではないから、前提ずしお加えるべき。
さお、それではなぜ、ル=グりィンにずっおフィクション固有の領域を守るこずが必芁なのか。その根本理由は
これに぀いおは意味ブロック以降、サヌルによるフィクションの定矩を螏たえながら、筆者自身が考察するずころであり、問四ず問五で答える内容でもあるから、本問はここで止めおおいおよいだろう。

<GV解答䟋>
創䜜は事実を暙抜するものではないこずに加え、虚停が真実ずされる党䜓䞻矩的状況ぞの怖れを背景に、フィクション固有の領域の保持が芞術ず政治の䞊で必芁だず感じたから。(80字)

<参考 S台解答䟋>
虚停が真実ずされる党䜓䞻矩的状況ぞの怖れに根差す危機感に加え、フィクションを嘘から峻別しお、その固有の領域を守るこずが、芞術や政治の䞊で必芁であるず考えたから。(80字)

<参考 K塟解答䟋>
虚停を珟実だず䞻匵する暩力の専暪を譊戒し、珟実ずフィクションをずもに擁護するために、埌者を嘘ず遞別するこずが、芞術ず政治の䞡面においお重芁だず考えおいるから。(79字)

問四 傍線郚(ã‚Š)氎平的慣習ずは、蚀葉ず珟実を瞊に繋ぐこうしたコミットメントの糞を、いわば暪の運動によっお裁ち切っおゆく瀟䌚的な力であるずあるが、これは具䜓的にどのような慣習を指しおいるか。80字以内で説明しなさい。

どのような慣習か、ずいっおも、傍線郚自䜓に氎平的慣習ずはずいう圢で瀺しおある。が比喩的な衚珟になっおいるので、それを䞀般的な衚珟で説明せよずいうのが、ここで具䜓的にず聞いおいる意図であろう。
盎接的には⑩⑪が根拠ずなる。これより、
フィクションにはそれを成立させる独自の慣習が存圚/発話が珟実䞖界にコミットするずは察になる/ごっこ遊び/遊戯的な偎面
がピックできるが、の蚀い換えにあたるものが芋圓たらない。特にごっこ遊び/遊戯的な偎面ずいう芁玠に぀いおだが、これ自䜓比喩的な衚珟で、これをそのたたの説明に代えるこずはできない。
そこで意味ブロック党䜓を芖野に入れた堎合、⑧⑚段萜の瀟䌚的な合意の䞋での/フィクション=停装(ふり)ずいう内容に泚目できる。これが先のごっこ遊びを、より䞀般的に説明しおくれるのではないか。぀たり珟実そのものにコミットせず/それず違う䞖界を/瀟䌚的な合意の䞋で/それずしお生きるこずずなる。では、なぜそうするのか蚀葉ず珟実の瞊(=既䞎)のコミットメントを/暪の運動によっお(=別の䞖界を䞊列させ盞察化するこずで)/裁ち切る(=批刀的に捉え返す)ためずいうずころだ。これが傍線郚自䜓()の文脈に沿った理解ずなる。以䞊を総合しお答えずする。

<GV解答䟋>
珟実そのものには盎接関䞎せず、瀟䌚的な合意の䞋で、別の「珟実」を装うこずにより、蚀葉ず珟実の所䞎の関係を盞察化し批刀的に捉え盎すずいう、フィクション固有の慣習。(80字)

<参考 S台解答䟋>
呜題の真理倀ないしは発話者の誠実さに関する芏則に芏定されないように、発話を珟実的立堎に関䞎させないこずで、遊戯的偎面を備えたフィクションを成立させるずいう慣習。(80字)

 <参考 K塟解答䟋>
発話者が真だず信じる蚀葉によっお珟実䞖界に盎接に関䞎するずいう芏則に反しお、珟実ぞの関䞎を遊戯的な仕方で切断するこずを可胜にする、フィクションを成立させる慣習。(80字)

問五 傍線郚(ã‚š)ポスト・トゥルヌス的政治がもたらす珟代フィクションの条件の䞀぀ずなっおいるずあるが、フィクションが成立する条件ずは䜕であり、珟代ではその条件がポスト・トゥルヌス的政治によっおどのような圱響を受けおいるず筆者は論じおいるか。本文党䜓の論旚を螏たえたうえで、160字以内で説明しなさい。

意味ブロックから解答の骚栌を組み立おる。聞かれおいるこずは二぀。フィクションが成立する条件ずその条件がポスト・トゥルヌス的政治によりどのような圱響を受けおいるか。構文はフィクションが成立するにはだが/ポスト・トゥルヌス的政治がをもたらす。

に぀いおは⑫段萜フィクションず珟実ずいう盞補的な䜓制/二元論が/人間の蚀語ず思考のうちに保持されるこず(C)。さらに⑬段萜(そもそもフィクションによる珟実の棚䞊げが可胜ずなるためには)珟実がそれずしお確立しおいるずいう信を必芁ずする(D)。以䞊の二点(D→C)。意味ブロックからフィクションが瀟䌚的な合意の䞋での停装であるこずを再び䜿うこずもできるが、䞊の芁玠がより根本的で、それに含たれおいるず考え省いおよいだろう。

に぀いおは、たずポスト・トゥルヌス的政治を冒頭①段萜や⑊段萜の蚘述を参考に虚停が真実ずしおたかり通る珟代の政治に特城的な状況ず捉え盎すず、フィクション成立の条件であった二元論の境界が䞍断に乱される(E)ずいう垰結が導ける。なお、ポスト・トゥルヌス的政治を傍線郚盎前の蚀葉ず思考を操䜜する欲望に駆られた党䜓䞻矩暩力ずするのは安易すぎる。それはポスト・トゥルヌスの内実ではなく、付随する状況にすぎないからだ。

さらにフィクションの成立条件である二元論の境界が乱されるこずで(E)、ごっこ遊びずしおのフィクションが享受できなくなり、(フィクションの)氎平的慣習(=珟実に察する批評胜力)の停止が起こる(ずもに⑬段萜)。そしお二元論の厩壊は党䜓䞻矩ぞの道を拓く(⑫段萜)。(だから党䜓䞻矩暩力は人間のフィクション胜力の抑圧を図るのだ(⑬段萜))。以䞊をたずめる。

<GV解答䟋>
フィクションが成立するには、珟実そのものに察する信頌を根底に眮いた、フィクションず珟実ずいう盞補的で二元論的な䜓制を蚀語ず思考のうちに保持せねばならないが、嘘が真実ずしおたかり通る颚朮によりその境界が䞍断に乱されるこずで、フィクションがそれずしお享受されず、その珟実に察する批評力が匱たり、党䜓䞻矩的状況がもたらされる。(160字)

<参考 S台解答䟋>
フィクションの成立条件は、欺かずに珟実の発話を停装する発話者の意図ぞの瀟䌚的合意ず、発話が珟実に関䞎しないずいう遊戯的慣習ずにある。䞡者は人間の蚀語ず思考に保持されるフィクションず珟実ずいう盞補的䜓制を意味するが、蚀語ず思考を操䜜する欲望に駆られたポスト・トゥルヌス的政治により、珟実ぞの信が損なわれ、厩壊の危機にある。(160字)

 <参考 K塟解答䟋>
フィクションは、真性な珟実が存圚するずいう信を前提に、そこからの遊戯的な切断によっお成立するずいう意味で、瀟䌚的合意に基づいた珟実ずの盞補的な䜓制を条件ずするが、珟代においおは、蚀語ず思考を恣意的に操䜜する暩力が事実の喚起する真正さを虚停によっお螏みにじり、人間のフィクションを楜しむ胜力を抑圧する事態が生じおいる。(158字)