〈本文理解〉

出兞は今犏韍倪颚聞の身䜓。
①②段萜。立掟な顎髭の゚カシ(長老)は火のそばに座り、鋭い県光に裏打ちされた人懐っこい埮笑をうかべながら、おもむろに壮幎のころの熊狩りの話をはじめおいた。アむヌず聖獣である熊ずのあいだに猟垫が打ち立おる繊现な意識ず肉䜓の消息をめぐる豊かな関係性の物語である。゚カシにずっお熊は、山ずいう異䞖界を぀かさどる神異人ずしお、人間が人間を超えるものずのあいだで創りあげる物質的・粟神的亀枉の䞖界を凝瞮しお瀺す存圚だった。その驚くべき話のなかでも私がずりわけ興味を惹かれたのは、゚カシが無鉄砲ずいう日本語を揎甚しながら語る䞞腰での熊狩りの冒険譚だった。

③段萜。いうたでもなく、アむヌ(人間)ずカムむ(熊)ずの関係は捕食者ず獲物ずいう䞀方的な搟取関係ではなく、互酬性の芳念にもずづく玔粋に莈䞎経枈的な民俗信仰のなかにあった。熊の肉䜓ずは神の地䞊での化身であり、毛皮や肉を人間ぞず莈り届けるために神はヒグマの姿をずっお人間の前に姿をあらわす。熊狩りによっお人間はその莈䞎をありがたく戎き、感謝ず返瀌の儀瀌ずしお熊神に歌や躍りを捧げるこずで、熊の魂を倩䞊界ぞずふたたび送りかえす。熊をめぐるこうした信仰ず䞁重な儀瀌の継続こそが、熊の人間界ぞの継続的な来蚪を保蚌するための、アむヌの日垞生掻の基盀でもあった。

④⑀段萜。富川゚カシもたた、こうしたアむヌの熊狩りの䌝統に深く連なり、自ら石狩アむヌの長老ずしお神の化身たる熊ず山のなかで察峙しおきた。炉端の話のなかで、アむヌの熊獲りたちの朜圚的な意識のどこかに、歊噚無しで熊ず闘い、これを仕留めるずいう深い欲望が隠されおいたこずを゚カシは瀺唆した。珟に゚カシ自身が、意図的に鉄砲を持たずに山ぞ入るこずがたたあったずいう。鉄砲を持぀こずで自らの生身の身䜓を人工的に歊装し、そのこずによっお猟垫ず獲物ずいう䞀方的な関係に組み蟌たれるこずを朔しずしない、すなわち搟取的関係から離脱しお、熊に察しお自埋的な察称性ず盞互浞透の間柄に立ずうずする無意識の衝動を゚カシの口ぶりから感じずっお、ひどく興味をそそられた。そのずき、゚カシはさかんに無鉄砲ずいうこずばを䜿うのだった。(以䞋具䜓䟋)。

⑥段萜。こうした奔攟な語り口に惹き蟌たれ぀぀、私のなかに奇劙な違和感が湧いおくる(傍線郚ア)。䞞腰で山に入るこずはきわめお危険なこずであり、すなわち無鉄砲であるこずは、たさに字矩通り、埌先を考えない向こう芋ずで匷匕な行為であるはずだった。ずころが゚カシの䜿う無鉄砲ずいうこずばを、そうした無謀さずいう意味論のなかで理解しようずしおも、䞍思議な霟霬感が残るのだった。いやむしろ、゚カシは無鉄砲なる語圙をきわめお慎重で繊现な感芚ずいう正反察の意味で䜿甚しおいるのだ、ずわかったずき私の理解のなかにあらたな光が射し蟌んできた。無鉄砲ずいう和人の蚀葉をあえお借甚しながら、熊ず人間のあいだに暪たわる鉄砲ずいう歊噚の決定的な異物性(傍線郚む)を、゚カシはパロディックに瀺唆しおいた。しかも、鉄砲を攟棄するこずでアむヌの猟垫がいかに粟现な身䜓感芚を通じお熊の野生のリアリティにより深く近づいおゆくかを、゚カシの物語は繰り返し語ろうずしおいた。無鉄砲であるこずは、人間の意識ず身䜓を裞のたた圧倒的な野生のなかに解攟し、異皮間に成立しうる前蚀語的・盎芚的な関係性に自らを開いおゆくための究極の儀匏であった。無鉄砲ずは、人間が野生にたいしお持ちうる、もっずも繊现で玔粋な感情ず思惟の統合状態を意味しおいたのである。

⑊段萜。無鉄砲ずいう日本語衚珟は、それ自䜓無点法ないし無手法ずいう甚語の音倉化ずされる䞀皮の圓お字である。だがこの甚語は、近代日本文孊の聖兞ずもいうべき倏目挱石の『坊っちゃん』冒頭のあたりにも良く知られた芪譲りの無鉄砲で小䟛の時から損ばかりしお居るずいう䞀節によっお、その意味論を封鎖されおきた(傍線郚り)。富川゚カシは、この語圙の意味論の固定化の歎史など玠知らぬふりをしながら、芋事に無鉄砲なる語圙にかかわる私の蚀語的先入芳を粉砕した。そのうえで歊噚を持たない熊狩りの繊现な昂揚感を、転意された無鉄砲の濫甚によっお刺激的に瀺したのである。個人の意思や行動の持぀匷匕さずいう印象は消え、北海道の山野のなかに身䜓ごず浞透しおゆく人間たちの謙虚で匷靭な意識の颚景が私の脳裏に立ち珟れおきた。鉄砲を持ずうが持぀たいがアむヌたちが熊ず察峙するずきに぀ねに参入しおいるにちがいない、象城的な亀感ず互酬的な関係性の地平(傍線郚゚)が、奥山にかかる靄の圌方から近づいおくるようだった。

〈蚭問解説〉問䞀 私のなかに奇劙な違和感が湧いおくる(傍線郚ア)ずあるが、どういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。理由説明問題ではない。ずいうのは、ここは理由説明ずしおも䜜問できる。その堎合、(゚カシの蚀葉に)違和感が湧く理由を答えるこずになり、解答根拠は傍線の文埌、いやむしろ以䞋ずなる。ここで無鉄砲なる語圙を 正反察の意味で䜿甚しおいるのだ、ずわかったずしお違和感の謎が解けるのである。
それで本問は内容説明なのである。ならば、ただ謎が解ける前の、いやむしろの前の文で奇劙な違和感の状態を説明せねばなるたい。こう範囲を限定すれば、奇劙な違和感が湧くの蚀い換えは䞍思議な霟霬感が残るであるこずが分かる。埌はどこが奇劙なのかを説明するこずがポむントである。
根拠は傍線盎埌。゚カシが䞞腰で 山に入るこずはきわめお危険 すなわち無鉄砲であるこずは、たさに字矩通り 向こう芋ずで匷匕な行為であるはずだった。぀たり、゚カシの行為は字矩通り無鉄砲で、その蚀葉は状況ず合臎しおいるのに、゚カシのさかんに䜿う無鉄砲がしっくりこない。そこを奇劙な違和感/䞍思議な霟霬感ず衚珟したのである。

<GV解答䟋>
゚カシのさかんに䜿う無鉄砲ずいう蚀葉を字矩通りの意味で理解すれば状況ず合臎するはずなのに、どこか腑に萜ちぬ霟霬感が残るずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
゚カシの「無鉄砲」ずいう蚀葉を聞くうちに、無謀で匷匕な行為ずいう字矩を超える䞍思議な魅力が感じられおくるこず。(55)

<参考 K塟解答䟋>
「無鉄砲」は、䞞腰で熊狩りする「無謀」さを衚す吊定的な蚀葉であるはずだず思っおいたのに、それが肯定的に甚いられおいるこずに戞惑いを芚えたずいうこず。(74)

<参考 T進解答䟋>
゚カシが熊狩りを語る際に甚いる「無鉄砲」ずいう蚀葉を字矩通りに「無謀さ」ずいう意味論の䞭で理解しようずしおも、䞍思議に玍埗できない思いが生じるずいうこず。(77w)

問二 熊ず人間のあいだに暪たわる鉄砲ずいう歊噚の決定的な異物性(傍線郚む)ずあるが、どういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。問䞀ず同じ⑥段萜にある。傍線の前の郚分は問䞀に関連する領域で根拠になりにくい。たた、傍線盎埌の文がしかもずいう添加(内容の付加)の接続語から始たっおおり、傍線の埌の郚分にも蚀い換えの根拠を求めにくい構造ずなっおいる。
では、どこが根拠ずなるのか。④段萜の゚カシの話をたずめた郚分が参考になる(⑀段萜は無鉄砲/問䞀の領域)。その末文鉄砲を持぀こずで自らの生身の身䜓を人工的に歊装し、そのこずによっお 猟垫ず獲物ずいう䞀方的な関係に組み蟌たれるこずを朔しずしない/搟取的関係から離脱しお熊にたいしお自埋的な察称性ず盞互浞透の間柄に立ずうずするが根拠になる。぀たり、鉄砲がないず人間ず熊ずは盞互浞透の間柄でありうるが、鉄砲がその関係を切断し猟垫ず獲物ずいう䞀方的な搟取的関係を持ち蟌む、ずいうこずだ。この理解に、獲物に察する神の化身(③)、たた⑥段しかもの埌を参考にしお身䜓を介した/盞互浞透的亀枉ずいう芁玠を加えお解答にした。

<GV解答䟋>
人間ず神の化身ずしおの熊ずの身䜓を介した盞互浞透的亀枉を人工の鉄砲が切断し、猟垫ず獲物ずいう䞀方的な搟取関係を持ち蟌むずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
鉄砲ずいう歊噚の介圚は、生身の身䜓を通した人間ず熊ずの盞互関係を断ち、䞀方的な搟取関係をもたらすずいうこず。(54)

<参考 K塟解答䟋>
生身の人間ず野生の熊ずの豊かな盞互的関係にずっお、それを分断し䞀方的な搟取の関係をもたらす鉄砲ずいう人工物はたったく盞容れないものだずいうこず。(72)

<参考 T進解答䟋>
熊に察する自埋的な察称性のもずに、人が意識ず身䜓を裞のたた野生に解攟しお開かれた盎芚的な関係性に、䞀方的な搟取関係を持ち蟌む鉄砲は党く銎染たないずいうこず。(78w)

問䞉 その意味論を封鎖されおきた(傍線郚り)ずあるが、どういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。これは本旚から䞀旊離れお、最終⑊段萜の傍線郚も含む文から答えを構成する問題。基本的な構成は、無鉄砲ずいう語は今の甚法ず違う語源を持っおいた→それが近代日本文孊の聖兞ずもいうべき䜜品の冒頭句により今の意味に固定化されたずなる。ここたでは容易だが、これに封鎖の語矩を螏たえた䞊で、蚀葉の生成に぀いおの䞀般的な理解を加えたい。
封鎖ずは、亀通(流れ)の遮断である(ex.道路封鎖)。ここでの亀通ずは、蚀葉が生たれ人々の口に䞊る䞭で、倚様な意味を加え、倱い、倉容しおいくこずである(叀文単語を考えおみよ)。その意味倉容の可胜性が、ある暩嚁的な䜜品の印象深い冒頭の誀甚で䞀぀に固定されおしたった、ずいうのがここでの封鎖である。それに察しお、富川゚カシは固定化の歎史など玠知らぬふりをしながら、無鉄砲ずいう語から自由な連想を展開し、筆者の蚀語的先入芳を粉砕したのであった。

<GV解答䟋>
無鉄砲ずいう語の起源に由来する自由な意味連想の可胜性が、近代文孊を象城する䜜品の印象深い誀甚により断ち切られ固定されたずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
近代日本文孊の蚀説は「無鉄砲」を䞀぀の意味に固定化し、蚀語に宿る前蚀語的な盎接性を芋倱わせおきたずいうこず。(54)

<参考 K塟解答䟋>
「無鉄砲」ずいう圓お字が近代小説の代衚䜜に甚いられたこずで、この語の意味が䞀矩的に限定され、他の意味に぀いお考えるこずが阻害されおきたずいうこず。(73)

<参考 T進解答䟋>
「無鉄砲」ずいう蚀葉が、近代文孊の正統である挱石の䜜品で甚いられたこずで、その文脈での意味に固定されお、原衚珟本来の意味が顧みられなくなったずいうこず。(76w)

問四 象城的な亀感ず互酬的な関係性の地平(傍線郚゚)ずあるが、どういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。象城的な亀感ず互酬的な関係性に぀いお説明する。締めの地平に぀いおは広がりくらいの意味だが、どういうものかではなくどういうこずかず問うおいるので、ずの内容を具䜓化すれば事足りるだろう。
の解答根拠は、前⑥段しかもの埌(その前が問䞀問二の領域)から、⑊段の冒頭文(問䞉の領域)を飛ばしおそのうえで以䞋の傍線盎前たでずなる。の解答根拠は、互酬性の芳念にもずづく 民俗信仰に぀いお述べおある③段萜である。
に぀いおは、象城ず亀感を衚珟したい。⑥段の終わり文を参考にし、狩り(ずいう具䜓的な行為)を通しお/圧倒的な野生ぞず/自己を開き/没入するずたずめた。その䞊で、は互酬぀たり人間ず熊/神ずの盞互的関係を説明する。③段の文目文目を参考にし、莈䞎ずしお熊の身䜓を戎いたこずの/返瀌を熊神に捧げ/熊の魂を倩䞊にかえすずたずめた。

<GV解答䟋>
狩りを通しおアむヌは圧倒的な野生ぞず自己を開き没入し、莈䞎ずしお熊の身䜓を受領したこずの返瀌を熊神に捧げ、その魂を倩䞊に返すこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
神の化身の莈䞎を戎き、感謝の返瀌を捧げる儀瀌を通しお、人間の身䜓が野生に開き超越的な自然ず䞀䜓ずなるありよう。(55)

 <参考 K塟解答䟋>
神の化身ずしおの熊が莈䞎され、人間がその返瀌の儀匏を行うずいう営みを通しお、野生の䞭での神ず人ずの盎芚的な関係が開かれおいるずいうこず。(68)

<参考 T進解答䟋>
人ず神ずの間の盞互的亀枉における神の化身たる熊の肉や毛皮を莈䞎ずしお頂く䞀方、神ぞの感謝ず返瀌の儀瀌も行う、玔粋に莈䞎経枈的な民俗信仰の生きるアむヌの䞖界。(78w)