〈本文理解〉

出兞は安藀宏『私を぀くる 近代小説の詊み』。

①段萜。今日ごくあたり前に䜿われおいる蚀文䞀臎䜓は、明治二〇幎頃から明治四〇幎近くたで、およそ二〇幎かけおようやく䞀般化しおいった。(具䜓)。

②段萜。蚀文䞀臎の利点は、なんず蚀っおもその平明なわかりやすさにあったのだが、これず䞊び、圓時しばし長所ずされたのが、蚘述の正確さであった。物事を正確に写し取っおいく写実䞻矩にずもない、蚀文䞀臎䜓は日垞のできごずをありのたたに描写しおいくのにもっずもふさわしい手立おであるず考えられたのである。

③段萜。だが、考えおみるずこれはそもそもおかしなこずではないだろうか(傍線郚(1))。

④段萜。口語(䌚話)は、本来きわめお䞻芳的なものであるはずだ。衚情やみぶりで内容を補うこずもできるし、あらかじめ共有されおいる共有されおいる話題であれば、自由に内容を省略するこずもできる。圓時の描写論議、あるいは蚀文䞀臎論議を芋おいお奇劙に思われるのは、䞻芳的な口語を暡したこの文䜓がもっずも客芳的で现密である、ずたじめに信じられおいた圢跡のあるこずだ。急速に広たっおいく写実䞻矩の颚朮の䞭で、過床に客芳性が期埅されおしたった点にこそ、おそらくはこの文䜓のもっずも倧きな䞍幞ず矛盟、同時にたた、それゆえの面癜さがあったのではないだろうか。

⑀段萜。田山花袋の平面描写論(明治四䞀幎)は、客芳の事象に察しおも少しもその内郚に立ち入らず、又自分の内郚粟神にも立ち入らず、ただ芋たたた聎いたたた觊れたたたの珟象をさながらに描くこずをめざしたもので、蚀文䞀臎䜓にいかに客芳的なよそおいを凝らしおいくか、ずいう課題から生み出された、圓時を代衚する描写論である。蚀い換えるなら、客芳ぞの信仰があったからこそこうしたよそおいも可胜になったわけで、ここから話者である私を隠しおいくためのさたざたな技術が発達しおいくこずにもなったのだった。結果的に叙述に空癜──目隠し──が生み出され、読者の想像の自由が膚らんでいくこずになったのは倧倉興味深いパラドックスであったず蚀わなければならない(傍線郚(2))。

⑥段萜。䞀方で、こうした話者の顔の芋えない話し蚀葉の持぀欺瞞に察する疑問も、同時にわき起こっおくるこずになる。特に次にあげる岩野泡鳎の䞀元描写論は、花袋の平面描写論ずは正反察の立堎に立぀考え方なのだった。(以䞋匕甚文)。

䜜者が自分の独存ずしお自分の実人生に挑む劂く、創䜜に斌いおは䜜者の䞻芳を移入した人物を若しくは䞻芳に盎接共通の人物䞀人に定めなければならぬ。 その䞀人(甲なら甲)の気ぶんになっおその甲が芋た通りの人生を描写しなければならぬ。 (倧正䞃幎)

⑊段萜。話者の顔の芋えない話し蚀葉に察しお、はっきりず䞀人の人物の芖点に立ち、その刀断で統䞀を図れ、ずいう䞻匵である。この䞻匵をさらにおし぀めれば、明確に顔の芋える私を衚に出すのが䞀番明快である、ずいう考えに行き着くこずになるだろう(傍線郚(3))。それを極端な圢で実践したのが明治の末から倧正初頭にかけ、反自然䞻矩ずしお鮮烈なデビュヌをかざった癜暺掟の若者たちなのだった。圌らは䞀人称の自分を倧胆に打ち出し、䜜䞭䞖界のすべおをその自分の刀断ずしお統括しようず䌁おるこずになる。

〈蚭問解説〉問䞀 これはそもそもおかしなこずなのではないだろうか(傍線郚(1))に぀いお、筆者がこのように考えるのはなぜか、説明せよ。(䞉行䞀行25字皋床)

理由説明問題。たずこれの指瀺内容を明確にする。盎接的には、文前圓時 その(=蚀文䞀臎の)利点ずされたのが、蚘述の正確さであった(A)こずを指す。加えお、④段文目(圓時の 蚀文䞀臎論議を芋おいお)奇劙に思われるのはに続く郚分䞻芳的な口語を暡したこの文䜓がもっずも客芳的で现密であるず 信じられおいた圢跡のあるこず(B)も、これ(→おかしなこず)の指す内容ず察応する。より、これの指瀺内容を口語を暡した蚀文䞀臎の文䜓の利点が/圓時/正確さや客芳性にあるず/信じられおいたこず(C)ずたずめる。

その䞊で、のおかしさはどこか。これは④段・文目より、口語は本来きわめお䞻芳的/衚情やみぶりで内容を補うこずができる/あらかじめ共有された話題ならば内容を省略できる(D)。ずを぀なぎ、口語を暡した蚀文䞀臎の文䜓の利点はず考えられおいたが(C)/本来口語は䞻芳的でだから(D)ず重文圢匏でたずめるこずができるが、くどいので䞻語を口語(による衚珟)ず統䞀しお耇文化し、の埌半郚を簡朔か぀明確にしお以䞋のようにたずめる。明治の蚀文䞀臎論議で客芳性・正確性に利点をも぀ずされた口語による衚珟は(C)//本来きわめお䞻芳的で/非蚀語的手段や/話題の共有により補完される必芁があるから(D)(→おかしい)。

<GV解答䟋>
明治の蚀文䞀臎論議で客芳性・正確性に利点をも぀ずされた口語による衚珟は、本来きわめお䞻芳的で、非蚀語的手段や話題の共有により補完される必芁があるから。(75)

<参考 S台解答䟋>
写実䞻矩の颚朮の䞭で、蚘述の正確さが蚀文䞀臎䜓の長所ずされたのは、本来䞻芳的な口語を暡した蚀文䞀臎䜓を䞻芳的ではなく客芳的であるずみなす点で矛盟があるから。(78)

<参考 K塟解答䟋>
蚀文䞀臎䜓は、衚情や身䜓所䜜、省略を䌎い぀぀話者の䞻芳を䌝える口語を暡したものなのに、物䜓を粟密に描写しうる最も客芳的な衚珟手段だずみなされるから。(74)

問二 倧倉興味深いパラドックスであったず蚀わなければならない(傍線郚(2))に぀いお、このように蚀えるのはなぜか、説明せよ。(䞉行䞀行25字皋床)

理由説明問題。になったのは/パラドックスであったの理由の型は、パラドックス(逆説)の圢匏を螏たえ、であるこずで/かえっお(逆に)/であるので/になるから(→パラドックス)ずなる。は傍線前文から話者である私を隠しおいくためのさたざたな技術が発達しおいく、は傍線盎前から読者の想像の自由が膚らんでいく、(→)を぀なぐはの盎前から叙述に空癜が生み出されずなる。その䞊で、ずの察比を明確にし、その察立が論理的に぀ながるようにを蚀い換える。⑀段萜の蚘述を利甚し、䜜者の䞻芳をを介圚させず/䜜䞭の事象や人物を写実的に描く技術が発達する→䜜者ず描写察象ずの間に距離(←空癜)が生たれる→読者の想像の介圚させる䜙地が膚らむず぀なげ、重なりを省いお仕䞊げずする。

<GV解答䟋>
䜜者の䞻芳を介圚させず䜜䞭の事象や人物を写実的に描く技術が発達するこずで、逆に䜜者ず描写物ずの間に読者の想像を介圚させる䜙地が膚らむ結果になったから。(75)

<参考 S台解答䟋>
読者の想像の自由は、蚀文䞀臎䜓が、話者が存圚する䞻芳的な口語を暡しながら、客芳的描写を目指し、話者の存圚を意識させない工倫をするこずで、もたらされたものだから。(80)

<参考 K塟解答䟋>
物事を客芳的に描写すべく、話者を隠す蚀文䞀臎䜓の技法を発達させた結果、叙述に空癜や秘匿が生たれ、逆に読者の恣意的な想像を掻き立おるこずになったから。(74)

問䞉 この䞻匵をさらにおし぀めれば、明確に顔の芋える私を衚に出すのが䞀番明快である、ずいう考えに行き着くこずになるだろう(傍線郚(3))に぀いお、このように蚀えるのはなぜか、説明せよ。(四行䞀行25字皋床)

理由説明問題。この䞻匵(A)を明確にし、その論理的垰結に、顔の芋える私を衚に出すのがいいずいう立堎(B)がある、よっおが䞀番明快である、ずいう考えに行き着く(G)ず説明すればよい。たず以前に、田山花袋の平面描写論に代衚される話者=私の顔の芋えない写実䞻矩の立堎があった。それに察しお岩野泡鳎の䞀元描写論は、傍線前文さらにそれが承ける匕甚郚より、䜜者が䜜䞭の䞀人物の芖点に立ち/その䞀人の気ぶんになっお/その刀断で統䞀を図れず䞻匵する(A)。

そのに察しお、統䞀を図れずいうなら、が明快だずいうのである。たた、そのを極端な圢で実践したのが、䞀人称の自分を倧胆に打ち出し、䜜䞭䞖界のすべおをその自分の刀断ずしお統括しようず䌁おる癜暺掟の立堎(C)だずいう。ここからの延長ずしお統䞀を図り、か぀極点ずしおのをも含むの立堎を探り圓おるず、珟実䞖界の䜜者をモデルに䜜䞭の䞀人物を造圢する(B)ずいうこずではないか。こうすれば䜜者を違う人物に圓おはめお䞀䜓化するよりも、より自然で敎合性が高く(R)、よっお明快ずなる(G)。その極点に自分語りずしおの癜暺掟が登堎したのだった。

解答は、を貫培すれば/が敎合性が高いずいう理屈に垰着するからずたずめた。

<GV解答䟋>
䜜䞭の䞀人物の蚭定に沿っお䜜者が自らの心理を展開させるこずで䜜䞭䞖界を統䞀すべきだずいう立堎を貫培するならば、珟実䞖界を生きる䜜者を䜜䞭の䞀人物に仮蚗しお語る方が敎合性が高いずいう理屈に垰着するから。(100)

<参考 S台解答䟋>
蚀文䞀臎䜓の小説においお、明確に䞀人の人物の芖点に立ち、その刀断で䜜䞭䞖界の統䞀を図るには、話者ずしおの「私」の存圚を読者に明瀺し、䜜者の䞻芳を「私」に蚗しお、「私」の刀断で党䜓を統括するこずが最も効果的であるから。(108)

<参考 K塟解答䟋>
話し蚀葉が抱える話者の排陀ずいう矛盟ぞの疑問から生じた䞀人物の芖点を通しお描写すべきだずいう䞻匵を突き詰めれば、䞀人称の「私」を話者に立お、その䞻芳的刀断ずしお䜜品䞖界を統括するこずが最も理に適うから。(101)