〈本文理解〉

出兞は氎村矎苗『日本語が亡びるずき──英語の䞖玀の䞭で』。

(前曞き) 次の文章は、ベネディクト・アンダヌ゜ン『想像の共同䜓』を玠材ずしお、著者が蚀語に぀いお考察したものである。

①段萜。今人類の倚くは、自分たちの〈囜語〉を、おのが民族が倪叀から䜿っおきた蚀葉だず思いこむにいたっおいる。ずころが、『想像の共同䜓』によれば、〈囜語〉ずはいく぀かの歎史的条件が重なっお生たれたものでしかない。

②段萜。〈囜語〉の成立にかんしおのアンダヌ゜ンの歎史的分析が画期的なのは、資本䞻矩の発達ずいう䞋郚組織のノェクトルを入れたこずにある。 アンダヌ゜ンによれば、グヌテンベルク印刷機の発明がのちの〈囜語〉の成立に意味をもったのは、そのずきペヌロッパでは資本䞻矩がすでに十分に発達しおおり、曞物が商品ずしお垂堎で流通する䞋地ができおいたからだずいう。曞物が商品ずしお垂堎で流通するこずによっお、垂堎原理が働き、それが最終的には〈囜語〉の成立を可胜にしおいったのであった(傍線郚A)。

③段萜。グヌテンベルク印刷機が発明される前、ペヌロッパの曞物は、僧䟶が䞀語䞀語矊皮玙に写しずる聖兞や教矩曞でしかなかった。そしおそれらは、圓時ほが唯䞀の〈曞き蚀葉〉であったラテン語で曞かれたものであった。ラテン語ずは、二重蚀語者の蚀葉であり、二重蚀語者は極めお限られた数しかいなかった。だが、䞀語䞀語そのラテン語を矊皮玙に写しずるのでは、そうした二重蚀語者にさえ最沢に行き枡るだけの曞物も䜜れない。そこぞ、グヌテンベルク印刷機の発明ずずもにラテン語の聖曞がたず印刷され、垂堎に出回るようになったのである。だが、それが商品ずしお垂堎に出れば、それを買っお読みたいずいう二重蚀語者の読者がすでに存圚しおいたずいうこずであり、すでに䟛絊に芋合うだけの需芁があったのであった。

④段萜。のちに〈囜語〉を可胜にした〈俗語革呜〉は、アンダヌ゜ンによれば、需芁ず䟛絊ずいう同じ垂堎原理によっお、その次の段階におこるべくしおおこった。

⑀段萜。聖曞に続き、さたざたな本がラテン語で出版されるようになるが、ラテン語を読めるのは薄い局に限られ、垂堎はじきに飜和する。新たな垂堎を開発するために、人々が巷で話す〈自分たちの蚀葉〉で曞かれた本が、たさに垂堎原理によっお出回るようになる必然性があったのである。かくしお〈俗語革呜〉が起こる。

⑥段萜。出版語ずは、〈曞き蚀葉〉に昇栌した口語俗語を指す抂念である。人々が巷で䜿う口語俗語は地域、階玚で数限りなくあるのに察し、出版語は自然に数が限られおこざるをえない。本が倧量生産工業補品ずしお利最を生むには、ある皋床の芏暡で出版されなくおはならないからである。かくしお〈俗語革呜〉を経たあず、ペヌロッパ党土にあった口語俗語が、いく぀かの出版語に吞収された。これらの出版語を地域別に共有するうちに〈囜民囜家〉の基瀎ができおいったのである。

⑊⑧段萜 (略)。

⑚段萜。䞍思議なこずがある。ここたで圱響力をもった本、しかも〈囜語〉にかんしお深く広く述べおいる本に、すべおの〈囜語〉を越える〈普遍語〉ずしおの英語にかんする考察がたったく欠萜しおいるずいう点である。『想像の共同䜓』では英語ずいう蚀葉はあたたある〈囜語〉の䞀぀ずしおしか出おこない。アンダヌ゜ンには、英語がふ぀うの〈囜語〉ずはたったく別のレベルで機胜する蚀葉ずなり぀぀あるずいう珟実は、たるで芋えおいないのである。

⑩段萜。なぜ、アンダヌ゜ンには、英語がほかの〈囜語〉ずはちがうずいうこずが芋えなかったのか。

⑪段萜。それは、䜕よりもたず、かれが英語を〈母語〉ずする人間だからだずしか考えられない。 英語を〈母語〉ずする人間は、自分が〈母語〉を曞いおいるずき、実は自分が〈普遍語〉でも曞いおいるこずに、しばしば気づかないものである。 

⑫段萜。〈普遍語〉にかんしおの思考の欠萜。

⑬段萜。それが顕著に珟れるのは『想像の共同䜓』にある聖なる蚀語ずいうもののアンダヌ゜ンの理解(傍線郚C)である。 

⑭段萜 (略)。

⑮段萜。聖なる蚀語をもっずも特城づけるこずは䜕か

⑯段萜。それは、それらの蚀葉が、二重蚀語者が䜿う蚀葉であったずいう点にある。 アンダヌ゜ンにずっお聖なる蚀語が二重蚀語者が䜿う蚀葉だったずいう認識は、それらの蚀葉が、ごく少数の人間が䜿う蚀葉であったずいう認識にすぐ぀ながる。しかしながら、聖なる蚀語の第䞀矩は、ごく少数の人間が䜿う蚀葉であったこずにはなく、䜕よりも、それが異なった蚀葉を話す二重蚀語者たちのあいだでの亀流を可胜にする〈曞き蚀葉〉だったこずにある。聖なる蚀語は、無数の口語俗語しかない䞖界での〈普遍語〉だったのである。

⑰段萜。事実、聖なる蚀語が少数の人間の蚀葉であったこずに匷調を眮くアンダヌ゜ンが、聖なる蚀語にかんしお、くり返し䜿う圢容詞がある。Arcane──日本語で秘儀的ず蚳されおいる圢容詞である。聖なる蚀語が秘儀的だずいうこずは、倧倚数にずっおはアクセスがないものであるこずを意味する。だからこそ、聖なる蚀語は、その秘儀的性栌ゆえに、少数者にずっお悪甚されるものずなる。かれらは、読み曞きを秘儀的なものにずどめるこずによっお、自分の暩力を守ろうずする。事実䞀千幎にわたっお、ラテン語の聖曞はほかの蚀葉に翻蚳するのを犁じられおいた。俗語の出版物が増え、宗教改革が広がるのを芋たロヌマ法王庁は、ラテン語の砊を守ろうずし『犁曞目録』を䜜ったりもする。聖なる蚀語は、圧制者が倚数を無知のなかに閉じこめるための蚀葉だず糟匟されるに至るのである。

〈蚭問解説〉問䞀 傍線郚に関しお、著者はアンダヌ゜ンによる分析ずしお、グヌテンベルク印刷機の発明から出版語の成立に至る過皋においお資本䞻矩の存圚が倧きな圹割を果たしおいるず説明しおいる。どのような圹割を果たしたず説明しおいるか、150字以内で説明しなさい。

内容説明問題(郚分芁玄)。グヌテンベルク印刷機の発明(S)から出版語の成立(G)に至る過皋における、資本䞻矩の圹割に぀いおの説明が求められおいる。泚意しなければならないのは傍線郚にそのずき(=印刷機の発明時)ペヌロッパでは資本䞻矩が十分に発達しおおり、曞物が商品ずしお垂堎で流通する䞋地ができおいたずあるように、始点(S)ず合わせお資本䞻矩が起動しおいるずいうこずである。これを螏たえ、④段萜のその次の段階 /〈俗語革呜〉を境に、ずずもに起動する資本䞻矩の圹割の第䞀段階(X)ず、を導く第二段萜(Y)をそれぞれ、③段萜ず⑀⑥段萜を根拠にたずめればよい。

は印刷機の発明に合わせラテン語の聖曞が出回る条件ずしお/二重蚀語者の需芁が予め存圚した、はラテン語の曞物だけでは垂堎が飜和するずいう資本の郜合により/口語俗語が曞き蚀葉ずなり/出版の利最に芋合うよう統合され出版語が成立したずいう趣旚にする。

<GV解答䟋>
印刷機の発明に合わせラテン語の聖曞、他が垂堎に出回る条件ずしお、聖曞などの写本に察する二重蚀語者の超過需芁が欧州垂堎に予め存圚した。さらに、ラテン語の曞物だけでは垂堎が飜和するずいう資本の郜合により、各地域の口語俗語が曞き蚀葉に倉換され、出版の利最に芋合うよう統合を進めながら「出版語」を成立させた。(150)

<参考 S台解答䟋>
ラテン語の本が流通し、少数のラテン語読者たちの垂堎が飜和した埌、新たな垂堎を開発するために、口語俗語で曞かれた本が流通し、さらに、ペヌロッパ党土で倚数あった口語俗語を䞀定芏暡のいく぀かの重芁な出版語に吞収されおいく過皋においお、資本䞻矩は需芁ず䟛絊ずいう垂堎原理による商品の流通を促す圹割を果たした。(150)

<参考 K塟解答䟋>
資本䞻矩は、需芁ず䟛絊の関係を基にした垂堎原理を駆動力ずし぀぀、印刷術の発達ずも盞俟っお、商品化されたラテン語の本が垂堎で飜和するず、新たな需芁を喚起さるために倧衆の「口語俗語」で曞かれた本の出版を促し、さらには効率的に利最を生み出すために、数倚の「口語俗語」を収斂した「出版語」の成立をもたらした。(150)

問二 (誀答遞択)

<答>,

問䞉 (空欄補充)

<答>â‘ ã‚€ ②ア ③゚

問四 傍線郚に関しお、次の(1)(2)に答えなさい。(1) 聖なる蚀語の本質に぀いおのアンダヌ゜ンの理解ず著者の理解の違いに぀いお、100字皋床で説明しなさい。

内容説明問題(察比)。⑮段萜聖なる蚀語をもっずも特城づけるこずは䜕か(Q)ずいう疑問を承ける、⑯段萜が解答根拠になる。に察する答えは、⑯冒頭それらが、二重蚀語者が䜿う蚀葉であった(X1)ずいうこずだが、アンダヌ゜ンの堎合は、その認識をごく少数の人間が䜿う蚀葉であった(X2)ずいう認識に盎結させる。それに察し筆者は、聖なる蚀語の第䞀矩を二重蚀語者たちのあいだでの亀流を可胜にする〈曞き蚀葉〉だったこず(Y1)ずし、それゆえ聖なる蚀語は〈普遍語〉だった(Y2)ず捉える。X1─X2/Y1─Y2ずたずめる。

<GV解答䟋>
(1)「聖なる蚀語」の本質は、前者にずっおは二重蚀語者が䜿う点にあり、故に垌少な人間の蚀葉ずなるが、筆者にずっおは異なる蚀葉を話す二重蚀語者の亀流を可胜にする曞き蚀葉ずいう点にあり、故に普遍語の性質をも぀。(100)

<参考 S台解答䟋>
(1)曞き蚀葉である「聖なる蚀葉」の本質を、アンダヌ゜ンは二重蚀語者ずいうごく少数の人間が䜿う秘儀的な文明の蚀葉であるず理解しおいるが、著者は異なった蚀葉を話す二重蚀語者のあいだでの亀流を可胜にする普遍語であるず理解しおいる。(110)

<参考 K塟解答䟋>
(1)アンダヌ゜ンは、少数の特暩的人間だけに䜿われる点に「聖なる蚀語」の本質を芋出すが、筆者は、無数の「口語俗語」しかない䞖界で、二重蚀語者の亀流を可胜にする曞き蚀葉ずしお普遍性を持぀点にその本質を芋出しおいる。(104)

(2) アンダヌ゜ンがそのような理解に至った理由に぀いお、筆者はどのように考えおいるか。80字皋床で説明しなさい。

理由説明問題。アンダヌ゜ンは聖なる蚀語を少数者の蚀葉ずみなし(X)、普遍語ずしおの性質を芋萜ずす(Y)が、その理由はどこにあるか。に぀いおは、⑩段なぜ、アンダヌ゜ンには、英語がほかの〈囜語〉ずはちがうずいうこず(→〈普遍語〉ずしおの性栌)が芋えなかったのかに察する答え、かれが英語を〈母語〉ずする人間だからだずしか考えられない(⑪段冒頭)が根拠ずする。そしお英語を母語ずしたゆえに普遍語ぞの芖点を欠萜させた(Y+)ずたずめる。に぀いおは、⑰段萜よりアンダヌ゜ンが、聖なる蚀語にかんしお、くり返し䜿う圢容詞/秘儀的ず蚳される圢容詞/倧倚数にずっおは アクセスがないものである/少数によっお悪甚されるを根拠に、聖なる蚀語に芋られる少数者による秘儀的性栌に固執した(X+)ずたずめる。以䞊より+に加え/+からず仕䞊げる。

<GV解答䟋>
(2)アンダヌ゜ンが珟代の普遍語ずしおの英語を母語ずした故に普遍語ぞの芖点を欠萜させおいたのに加え、「聖なる蚀語」に芋られる少数者による秘儀的性栌に固執しおいたから。(80)

<参考 S台解答䟋>
(2)英語を母語ずするアンダヌ゜ンには、自分の曞き蚀葉である英語がすべおの囜語を越える普遍語ずなり぀぀ある珟実が党く芋えず、そのような普遍語に関する思考が欠萜しおいるから。(83)

<参考 K塟解答䟋>
(2)珟代の〈普遍語〉たる英語を〈母語〉ずするアンダヌ゜ンは〈普遍語〉に察する思考を欠いおいるうえに、「聖なる蚀語」を占有する少数者の特暩性のみを焊点化しおもいたから。(81)