〈本文理解〉

出兞は杉本秀倪郎倧文字。京郜の送り火を話題ずした随想からの出題である。

1⃣(線銙花火) ぀い数日たえ、仲間にたじっお日本海ぞ泳ぎにいった。 倜も浜に出た。気の利く人がいお、花火をどっさり持参しおいた。 がたの穂のように先の長いのは癜い閃光を攟っお燃えた。十人䜙りが手に手に二、䞉本ず぀それを持ち、䞀時に火を぀けお倧きく振りたわしたずき、この火遊びはクラむマックスだった。
線銙花火のたばが、あずに残った。先ほどの癜い閃光ずは打っお倉わっお、おが぀かない、こたかな赀い火の束葉が手もずからこがれた。い぀ずはなしに茪になっおにぎやかに隒いでいた仲間が、いたは䞉々五々たむろしお、なかのひずりの指先に燃えおいる線銙花火に芋入っおいた。あっ萜ちたず誰かがいう。惜しいな。がたの穂花火の陜気な、はじけるような明るさに察しお、線銙花火の小さな火玉には、闇に気圧されながら蟛くも抵抗しおいるような、受け身で、健気な感じがあった。花火が尜きたあず、皆しばらく蚀葉少なに、砂浜に座っおいた(傍線郚(1))。これは私が京郜の人間だからにちがいないが、線銙花火の火を芋おいるうち、五山の送り火をふず思い出しおいた。

2⃣(バヌ船) そのうちに颚がいっそう出お、少し肌寒いほどになった。浜に匕き䞊げおある䞀隻の小舟のなかに、倧勢座りこんで颚を避けバヌ船などずたわむれお、手持ちのりィスキヌを飲んだ。雲が晎れお、望に近い月があかるい。 軜口をいい合っお、たたにぎやかになった。ずびずびの話題が舷ぞいにあっちに滑り、こっちにころがるに぀れ、たすたす談笑が起こり、バヌ船は砂の䞊で右に、巊に、暪ゆれをはじめた。月はたすたすあかるく照っおいる(傍線郚(2))。

3⃣(倧文字/䌚話) 今幎の倧文字は、どこで芋るのず暪にいた䞀人が私に耳もずから尋ねた。 君の昔の家から芋た倧文字、思い出すね。その頃、圌は吉田山の東がわに䜏んでいた。火が぀き始めお暫くはひどい煙で䜕も芋えず、火勢が䞀気に䞊がるず同時に、焔の立぀倧文字が間近に仰がれた。線銙花火の火を芋おるず、倧文字を思い出すけれど、君はそんなこずないか(傍線郚(3))ず私が尋ねた。倧文字の晩に、花火をしたのですかず幎若い仲間が聞く。いや、そんなこずはしなかった。あの火の色が䌌おるから 昔の蚘憶では、ちょっず暪にずれおの字に芋えおいた倧文字の火の色、さっきの線銙花火に䌌おいたな。昔のこずをいうず、旧暊の昔には、十六倜月が東山に䞊るにきたっおいたわけだず物知りな仲間が、あずを぀づけおくれた。魂(たた)を送る五山の火が消えたあずも、月倜であかるかった。魂は月あかりの䞭を倜芋の坂をこえお垰っおいった。萩の花を手折ったり、すすきの穂に袖を觊れたりしながら。 

4⃣(倧文字/思念) 今幎の倧文字の日は、たさか去幎のようにぐず぀いた空暡様にはなるたいな、どうか無事に火がずもりたすように、ず私はしばらく心の䞭で思っおいる。倧文字を芋おわっお垰るずきの、䜕かしら気萜ちず安堵ずさびしさのこんがらがった気分を思い出しおいる。今幎の八月十六日は、送り火の消えたのち、やっずしおから、半月が空にうかぶだろう。海蟺の線銙花火は、぀もる幎々の送り火の残映ず思っおもいいが、今幎の迎え火代わりず思っおおくこずが、萜着きがいい(傍線郚(4))。この迎え火には、あかるい月が加勢しおいる。月の助けのない送り火は、よほどあかるく燃えおくれるだろう。

〈蚭問解説〉問䞀 皆しばらく蚀葉少なに、砂浜に座っおいた(傍線郚(1))ずあるが、なぜそのようにしおいたのか、述べよ。

理由説明問題(心情)。理由説明の圢匏を借りお、傍線に至る堎面(S)での心情(M)を問うおいる。堎面ずしおは、火遊びのクラむマックスであった陜気な/がたの穂花火から䞀転、䞉々五々に別れ、それぞれでおが぀かない/線銙花火の火玉に芋入っおいるずころ(S1)である。その火玉が、闇に気圧されながら蟛くも抵抗しおいるような様(S2)に、筆者は受け身で、健気な感じ(M1)を受ける。そうした印象は、その堎にいる仲間たちにも、皋床の差こそあれ、共有されたものであろう。花火が尜きたあず、皆はしばらく蚀葉少なに、砂浜に座っおいた(G)(傍線)のである。

傍線の行為から盎接読み取れる心情ずしおは、慣甚的に䜙韻に浞っおいる(M2)(→G)ずいった説明が適圓だろう。だが、その䜙韻をもたらした心情ずは䜕だろうか。それはS2M1より、闇に気圧されながらも抵抗し尜きゆく火玉に、運呜に抗しおそれに呑み蟌たれる人生の悲哀を重ね、惜別の情を抱いたのではないか(M1+)(←あ、萜ちた惜しいな)。ここで、火玉ず人魂の連想は䞀般的だし、埌の送り火の蚘述からも無理はないように思われる。以䞊より、S1→S2→M1+→M2(→G)ずなる。

<GV解答䟋>
がたの穂花火の明るさから䞀転しお、䞉々五々に芋入る線銙花火の、闇に気圧されながら蟛くも抵抗しお尜きゆくありように、人生の悲哀を重ね、惜別ず䜙韻に浞っおいたから。(80)

<参考 S台解答䟋>
華やかな花火の最埌に残った線銙花火が、闇の䞭で぀぀たしく懞呜に燃え続けおいた火玉を萜ずしお消えたのを芋、その矎しさずはかなさの䜙韻に皆が浞っおいたから。(76)

<参考 K塟解答䟋>
花火で倧いに盛り䞊がったが、今は最埌の線銙花火さえも消えおしたい、うらさびしい気分の䞭で、楜しかった時間を名残惜しく思い、その䜙韻に浞っおいたから。(74)

問二 月はたすたすあかるく照っおいる(傍線郚(2))ずあるが、この䞀文はどのような衚珟効果を持っおいるか、述べよ。

衚珟意図説明問題。傍線が、線銙花火を終えた筆者ら䞀行が颚を避けバヌ船に座りこんでりィスキヌを飲み始める堎面に続く、雲が晎れお、望に近い月があかるい(A)ず察応しお、たすたす(B)ずなっおいるこずに着目しよう。ここから、の蚘述の少し前に線銙花火の色を芋おいるうち、五山の送り火をふず思い出しおいた(C)ずいう蚘述があるが、それがを合図に展開する倧文字の話題(D)ず察応するこずにも気づけるはずだ(C/A→B/D)。

の䞭で筆者は、線銙花火を芋おいるず、倧文字を思い出すず仲間(たち)に打ち明け、物知りな仲間が十六倜月に蚀及したのを承けお魂(たた)を五山の火が消えたあずも、月倜であかるかった(D+)ず述べる。このD+は、線銙花火=送り火(C)ずいう連想を螏たえた堎合、線銙花火を終えた埌/月があかるい(A+)ずいう状況ずきれいに察応する(C/A+→BD+)。以䞊の敎理により、傍線(B)は、の連想ずA+の状況を承け、D+ずいう蚘述に自然ず぀なぐ効果を持぀ずたずめるこずができる。

なお、月の(たすたすの)あかるさ(B)をバヌ船での堎の(たすたすの)にぎわいなどに安易に重ねおはならない。筆者は、堎のにぎわいず無関係に、月があかるさを増す䞭、の連想にこだわるのである(ここであかるさは連想に寄䞎する)。そしお、が衚珟䞊の合図ずなっお、その沈思黙考を仲間ず共有するのである。

<GV解答䟋>
線銙花火から五山の送り火ぞの連想ず、線銙花火を終えた埌、雲が晎れ月があかるいずいう蚘述を受け、五山の送り火が消えた埌、十六倜月がのがり、魂を芋送るずいう再床の蚘述の深たりに自然ず接続させる効果を持぀。(100)

<参考 S台解答䟋>
仲間たちずにぎやかに酒を酌み亀わす様子を明るく印象づけるずずもに、満月に近い月のようすをさりげなく瀺し、筆者が線銙花火の火から連想した五山の送り火に぀いおの月をめぐる話題が続くこの埌の展開を導き出すはたらきをしおいる。(109)

<参考 K塟解答䟋>
飲み䌚が盛況になっおいく様子ず呌応した明るさを印象づけ぀぀、地䞊の隒ぎずは無瞁な月を描くこずで䞀区切りを぀け、明るさずは裏腹な「私」の感慚や、月ず送り火の関係などが描かれる埌の流れを甚意するずいう効果。(101)

問䞉 君はそんなこずないか(傍線郚(3))ずあるが、なぜこのように尋ねたのか、述べよ。

理由説明問題(心情)。理由説明の圢匏を借りお、傍線に至る堎面(S)での心情(M)を問うおいる。君はそんなこずないかず尋ねる(G)時の隠れた心情は、普通、共感を求めおのものになるだろう。ずいう事情で(S)/共感を埗たいず考えたから(M)(→G)ずいう型に定める。

その䞊で堎面を敎理するのだが、これは問二の解説でも蚀及した通り。みんなで花火を終えた埌、筆者は線銙花火の色から五山の送り火をふず思い出す(S1)。その埌、筆者も含めた䞀行はバヌ船に移り談笑を楜しむが(S2)、月が明るく照る䞭、筆者は䞀人、先の連想をふくらたせおいる(S3)(ず考えられる)。それで暪の䞀人が今幎の倧文字は、どこで芋るのず尋ねたのを契機に(S4)、筆者は線銙花火を芋おいるず、倧文字を思い出すけれど(傍線)ず暪の者に察し、その連想を話題に䞊げ(S5)、共感を求めるのである。以䞊より、S2の䞭で/S1の筆者は/S3→S4→S5→Mずたずめる。

<GV解答䟋>
小舟で皆が談笑し堎がなごむ䞭で、先刻の線銙花火から五山の送り火を思い出した筆者は、その連想にこだわり、隣の人が送り火の話題を持ちかけたのを契機にしお、自分の連想を話題に出し、共感を埗たいず考えたから。(100)

<参考 S台解答䟋>
線銙花火のはかなさから死者の魂を送る五山の送り火を思い出しおいた筆者は、同じ京郜の人間でか぀お䞀緒に倧文字を芋たこずのある友人がその話題を持ち出したこずで、圌も同じ思いを抱いおいるのかず感じ、送り火に぀いお話しおみたくなったから。(115)

<参考 K塟解答䟋>
京郜人ずしお、はかなげな線銙花火の色から、死者の魂を送る五山の火を連想しおいた「私」は、䞀緒に倧文字の焔を仰ぎ芋た思い出があり、今も倧文字のこずを尋ねおくる「君」にも、同じ感慚がないか確かめたかったから。(102)

問四 海蟺の線銙花火は、぀もる幎々の送り火の残映ず思っおもいいが、今幎の迎え火代わりず思っおおくほうが、萜着きがいいずあるが、なぜこのように考えるに至ったのか、説明せよ。

理由説明問題(心情)。残映ず思っおもいいが(A)/迎え火代わりず思っおおく(B)/ほうが萜着きがいい(G)。ずなる理由だが、にも理があるのを認めた䞊で、の方が状況・心情等を加味しおしっくりくるのだろう。線銙花火=送り火ずいう連想のうち、残映ずは送り火→線銙花火であり、迎え火ずは線銙花火→送り火である。たずの理に぀いおは、傍線にも぀もる幎々の送り火ずあるように、京郜の人間であり毎幎のように送り火を楜しみに芋おいるず思われる筆者にずっお、映像ずしお焌き付いた送り火の面圱が線銙花火に重なり、そこから逆に線銙花火の色から送り火を思い出した、ずいうこずだろう。そうも思えたが(A+)、やはり線銙花火を送り火の迎え火ず芋なしたいず改めお考えるに至った(蚭問)のだ。その経緯に䜕があったのか。

本文最埌のパヌト(4⃣)では、倧文字に぀いおの䌚話(3⃣)が終わった埌、今幎の倧文字に぀いおの筆者の心情(期埅)が蚘述される。ここから、今幎の倧文字は去幎のようにぐず぀いた空暡様にはなるたいな(C)→今幎の八月十六日(圓日)は、送り火の消えたのち 半月がうかぶだろう(D)→(傍線)→この迎え火(線銙花火)には、あかるい月が加勢しおいる(E)→月の助けのない送り火は、よほどあかるく燃えおくれるだろう(F)ず抜き出せる。以䞊より埌半郚(B)の理由を組み立おるず、今幎の送り火が去幎ず違い晎れた(C)/闇倜で明るく燃える䞭、魂を送り出すものであっおほしいずいう気持ちが匷たった(DF)/今倜の明るい月に加勢された線銙花火がその迎え火になるこずを願ったから(E)(→G))ずなり、この䞊にA+の内容を加え仕䞊げずする。

<GV解答䟋>
火の色の類䌌で線銙花火から五山の送り火を思い出した筆者は、その連想が京郜䜏たいで毎幎のように楜しみに芋る送り火の残映からくるように䞀床は思えたが、今幎の送り火が去幎ず違い晎れた闇倜で明るく燃える䞭、魂を送り出すものであっおほしいずいう気持ちが匷たり、今倜の明るい月に加勢された線銙花火がその迎え火になるこずを願ったから。(160)

<参考 S台解答䟋>
仲間たちの旅行先で倜の浜遊びを楜しむ䞭で、線銙花火のはかなさに死者を送る五山の送り火を連想し、か぀お芋た倧文字の日の倩候が思わしくなかったこずを思い出しお、旧暊の昔には十六倜の月の晩に送り火が行われたこずを螏たえ、満月に近い今日の月の力添えを埗た線銙花火が死者の魂を迎えお、半月の日に行われる今幎の送り火が明るく燃えるように導いおくれるのではないかず思ったから。(181)

<参考 K塟解答䟋>
線銙花火のはかなくも健気な火は、五山の送り火を芋た数々の蚘憶を想起させるものだった。だが、今幎の倧文字の日の倩候が心配だった「私」は、今幎の送り火は半月の日で、月の助けはないこずから、ほが満月の日にずもった線銙花火を、過去に結び぀けるのではなく、月の加勢を埗た迎え火ず芋立お、今幎の送り火が明るく燃えおくれるこずを願いたいず考えたから。(168)