目次
- 〈本文理解〉
- 問1「学際的な方法」(傍線部A)とあるが、どのような方法か、説明しなさい。(三行)
- 問2「あきらめられない場合がある」(傍線部B)とあるが、それはなぜなのか、説明しなさい。(三行)
- 問3「私の態度を科学、つまり厳密な知識のみ基づいて決めることは、不可能」(傍線部C)とあるが、科学的な知識にはどのような限界があるか、説明しなさい。(三行)
- 問4「人間というものはだいたいそういうもの」(傍線部D)とあるが、「ヴェトナム戦争」と「彼女」の例を通じて、人間とはどのようなものだと考えられているか、説明しなさい。(三行)
- 問5「たとえば戦争についての、あるいは社会についての、全体的な「イメージ」をつくって、それに対して態度を決定する。そういう方法しかない」(傍線部E)とあるが、こうした「方法」が求められるのは、どのような事態を避けるためか、説明しなさい。(四行)
- 問6「「信じる」という行為」(傍線部F)とあるが、この行為を実現するためには何が必要か、説明しなさい。(四行)
〈本文理解〉
問1「学際的な方法」(傍線部A)とあるが、どのような方法か、説明しなさい。(三行)
内容説明問題。「学際的な/方法」が傍線部一文より3文前の「inter-disciplinaryな/接近法」(X)と対応するのは明らか。あとは、そこから遡り「一つの複雑な現象があるときに、その現象が持つそれぞれの性質に対応して、その性質iによって定義される現象のクラースiを扱う科学の部門disciplineiある」という記述から、Xを含む「現象1から現象nまでは、科学的disciplineの1からnまでを附け足すことで、つまりXで描き出すことができる」という記述につなぎ、順を追って説明するとよい。
解答は「複雑な現象をそれが持つ各性質に即してクラース(階級)に分け/そのクラース(階級)に応じた科学の部門(←discipline)で専門的に追究した知識を/総合することで(←学際)/現象の全体像に接近しようとする方法」となる。
〈GV解答例〉
複雑な現象をそれがもつ各性質に即して階級に分け、その階級に応じた科学の部門で専門的に追究した知識を総合することで、現象の全体像に接近しようとする方法。(75)
〈参考 S台解答例〉
一つの複雑な現象を理解するために、その現象がもつそれぞれの性質に対応して、その性質によって定義される現象のクラースを扱う科学の部門を、領域を超えて、その数だけ附け足していくという方法。(92)
〈参考 K塾解答例〉
複雑な現象の全体をつかむために、自分の分野に関する正確な知識を提供するそれぞれの科学の分野が協力し合うという方法。(57)
〈参考 Yゼミ解答例〉
複雑な現象を理解するために、その現象を様々な性質に分け、各性質によって定義されるクラースを扱う専門家が連携し、それぞれの領域の専門的な知識を総合していくという方法。(82)
〈参考 T進解答例〉
複雑な現象には多くの性質があり、科学の各部門はその一つ一つを個別に扱っているので、それらを足しあわせることで複雑な現象の全体に接近しようとする方法。(74)
問2「あきらめられない場合がある」(傍線部B)とあるが、それはなぜなのか、説明しなさい。(三行)
理由説明問題。解答の核となるのは、傍線部直後の記述「われわれの日常生活というものは、絶えず複雑な現象との対決であって(a)/その全体に対して態度決定をしなければならない(b)」(a→b)である。ここから2つ留意点。1つは、「あきらめられない場合」というのは、逆に「あきらめ」ざるをえないような状況が現にあるわけだから、それを踏まえる。つまり、傍線部の前段、①段落の冒頭と末尾で繰り返されている主旨「複雑な現象の全体は科学的知識としてつかまえることは困難である(c)」という状況が、傍線部の前提としてある。以上より「cであっても/(a→b)だから」という形で解答できる。
ただ「われわれの日常が複雑さとの対決であり(a)/全体像がつかめなくとも(c)/態度決定しなければならない(b)」として、やはりなぜ「あきらめられない」のか、なぜ「複雑さと対決して/態度決定しなければならないのか」についてはしっくりこない部分が残る。ここが留意点の2点目。本文では②段落、傍線部の後に「一人の婦人と結婚するかしないかということを決めなければならない」ケース(a’)が「あきらめられない場合」の例として挙げられる。そして、こうした例は「政府に対しても/社会の全体に対しても/歴史に対しても」敷衍される(a”)と言う。要はここで自明となっているのは、人が自分の望む生き方を実現するには(d)、現象の全体が分からなくとも(c)、よりよいと思われる選択をする必要がある(b)、ということだろう。この自明のd要素を解答の最後に置くことで「あきらめられない」に優しく着地することが可能になるのである。
以上より、解答は「個々の日常生活は絶えず複雑な現象との対決であり(a)/現象全体が把握できなくとも(c)/その全体に対して態度決定をしていかなければ(b)/自らの望む生き方が叶わないから(d)(→あきらめられない)」となる。
〈GV解答例〉
個々の日常生活は絶えず複雑な現象との対決であり、現象全体が把握できなくとも、その全体に対して態度決定をしていかなければ自らの望む生き方が叶わないから。(75)
〈参考 S台解答例〉
現象の全体は厳密な科学的知識としてつかまえることは極めて困難であっても、日常生活において直面する複雑な現象に対して、わからないなりに自己の態度を決定しなければならないから。(86)
〈参考 K塾解答例〉
絶えず複雑な現象との対決が人間の日常生活そのものであり、それぞれの科学の分野の糾合による解決が困難だとしても、その日常生活自体は避けられないから。(73)
〈参考 Yゼミ解答例〉
複雑な現象の全体を科学的な知識でとらえつくすことが困難だとしても、われわれは日常生活のなかで、複雑な現象や問題と対決し態度を決定しなければならない場面に、必ず遭遇するから。(86)
〈参考 T進解答例〉
人は複雑な現象の全体に対する態度決定を絶えず迫られており、とくに政府や社会全体や歴史的事件への態度は、好き嫌いのような感情的反応だけで偶然的に決めるわけにはいかないから。(85)
問3「私の態度を科学、つまり厳密な知識のみ基づいて決めることは、不可能」(傍線部C)とあるが、科学的な知識にはどのような限界があるか、説明しなさい。(三行)
内容説明問題。傍線部自体の内容を問うのではなくて、傍線部から一部の内容を引き出し、それについて問う問題。傍線部は②段落の後半にあるが、解答の根拠は問1と同じく①段落、問1で問うた「学際的な方法」の限界面を問うている。このように、九大では設問順によらず解答根拠が前後することが度々見られる。
ともあれ解答根拠が①段落にあることを見抜くと、あとは容易。解答の核となるのは、「限定された領域で専門化された知識(←科学的な知識)と同じ程度の正確さで(a)/全体を一挙にとらえるということは、つまるところできない相談です(b)」。なぜ「できないか」については、科学の部門disciplineに対して、複雑な現象の全体のもつ性質は「実際には無限に違い、数えきれないほどの性質がある」(c)からである。これに加え、西洋科学の要素還元主義では「全体性」はとらえきれない(ホーリズム)という含みもあると考えられるが、これについて特別に言及することまでは求められないだろう。
解答は「科学的な知識は複雑な現象の部分の性質を厳密に説明するだけで(a)/その性質は無限であるため(c)/性質ごとの知識を合わせても現象全体の厳密さには及ばないという限界(b)」となる。
〈GV解答例〉
科学的な知識は複雑な現象の部分の性質を厳密に説明するだけで、その性質は無限にあるため性質ごとの知識を合わせても現象全体の厳密さには及ばないという限界。(75)
〈参考 S台解答例〉
日常生活において個人的な態度決定をしなければならないにもかかわらず、限定された領域で専門化された知識と同じ程度の正確さで、複雑な現象の全体を一挙にとらえることはできないという限界。(90)
〈参考 K塾解答例〉
複雑性を有する日常生活上の問題の一側面について正しい答えは出せたとしても、当該の問題自体に適切に対処する態度の根拠を出すことができないという限界。(73)
〈参考 Yゼミ解答例〉
無限に近い性質がある複雑な現象に対して、限定された領域で専門化された知識と同じ程度の正確さでしかとらえられず、日常生活での自分の態度を決める根拠にはならない、という限界。(85)
〈参考 T進解答例〉
複雑な現象がもつ性質の数は無限に近いが、科学の各部門は個々の性質を専門とし、部門の数は限られるため、各部門が提供する知識を足しあわせても現象の全体には届かないという限界。(85)
問4「人間というものはだいたいそういうもの」(傍線部D)とあるが、「ヴェトナム戦争」と「彼女」の例を通じて、人間とはどのようなものだと考えられているか、説明しなさい。(三行)
内容説明問題。ヌーヴェルヴァーグの旗手ゴダールの『彼女について私が知っている二、三の事柄』(1966)の「彼女」と「ヴェトナム戦争」の例を通じて、筆者が「人間」をどのように捉えているか、を問うている。「例」をベタに説明して解答欄を汚すのは遠慮したい。
解答の中心根拠は「われわれはヴェトナム戦争についても、何についても、到底全部を知らなかったのです(a)/それでも私は彼女を愛するし、それでも私はヴェトナム戦争を憎むわけです(b)」(③)。これに加えて、こうした反応は「感情」によって起こり、それは「その日の気分によってちがうかもしれない」不安定なものである(c)、という内容も加える(②)。
以上より、解答は「人間はえてして、自らをとりまく社会(←ヴェトナム戦争)や他人(←彼女)について全ての側面を把握しないまま(a)/不安定な感情的傾向に支配されて(c)/行動を決定するものだ(b)/と考えられている」となる。
〈GV解答例〉
人間はえてして、自らをとりまく社会や他人について全ての側面を把握しないまま、不安定な感情的傾向に支配されて態度や行動を決定するものだと考えられている。(75)
〈参考 S台解答例〉
「彼女」や「ヴェトナム戦争」の全部を知らないままに愛したり憎んだりするように、現象を理解するための考えが足りないまま、持続的ではない感情的反応からその都度の態度を決めているもの。(89)
〈参考 K塾解答例〉
彼女やヴェトナム戦争について全部を知りえないのに、彼女を愛したり戦争に組んだりするように、人間は自分の感情的反応によって態度を決めるものである。(72)
〈参考 Yゼミ解答例〉
ヴェトナム戦争の全部を知らないのに憎んだり、彼女の一部しか知らないのに愛したりするように、全体がわからない対象に感情的に反応し、その時の感情に基づいて態度を決定するもの。(85)
〈参考 T進解答例〉
ヴェトナム戦争の全体を知らずに憎んだり、妻の全体を知らずに愛したりするように、複雑な現象の全体に対して厳密な知識をもたずに、感情的反応によって態度決定をしているもの。(83)
問5「たとえば戦争についての、あるいは社会についての、全体的な「イメージ」をつくって、それに対して態度を決定する。そういう方法しかない」(傍線部E)とあるが、こうした「方法」が求められるのは、どのような事態を避けるためか、説明しなさい。(四行)
内容説明問題。これも問3と同じく、傍線部自体の内容を問うのではなく、傍線部から一部の内容を引き出し、それについて問う問題。傍線部は最終⑤段落にあるが、解答は、ほぼ④段落の要約である。
④段落には、設問で言うところの避けるべき「自体」が二つのケースに分けて述べられる。一つ目は「信じて知らざれば危うし」の「狂信家になる危険」(X)。もう一つは「知りて信じざれば暗し」の「専門馬鹿」のケース(Y)。Xについては「世間に迷惑をかける(a)」、Yについては「専門領域外の対象についての知識はないから何も行動しない(b)」と「(しかも)専門知識の全体が…どう意味をもつか、ということさえも考えようとしない(c)」を述部に加えるとよい。さらに、Yの「信じざれば暗し」の「信」の必然性は、Xの「知」の必然性ほど自明ではない(改めて言及されている)ので、説明を加えたい。根拠となるのは、⑤段落の記述、すなわち「一種の信条」である「価値」には知識を「統一された全体に向かって組織する」働きがある(d)、という内容。
以上より、解答は「信念はあっても専門知識を欠く者が(X)/狂信的に行動し世間に迷惑をかける事態や(a)//特定の専門知識はあっても信念に基づく知識の統合を欠く者が(Y,d)/専門領域以外では行動せず(b)/専門知識の全体がもつ意味を考えもしない事態(c)」となる。
〈GV解答例〉
信念はあっても専門知識を欠く者が、狂信的に行動し世間に迷惑をかける事態や、特定の専門知識はあっても信念に基づく知識の統合を欠く者が、専門領域外では行動せず、専門知識の全体がもつ意味を考えもしない事態。(100)
〈参考 S台解答例〉
信念だけで知識がないために、陳腐なものを頑なにに信仰して周囲に迷惑をかけるという狂信家になる事態と、知識だけで信念がないために、専門領域外の対象について何も行動せず、専門知識の全体がその人や社会にもつ意味を考えようとしないという専門馬鹿になる事態。(124)
〈参考 K塾解答例〉
社会的な問題に対して、自分の感情的反応だけを頼りにして行動すれば周囲の人に迷惑をかけ、一方で、一面的な専門知識だけを獲得しても有益な行動をしないという事態。(78)
〈参考 Yゼミ解答例〉
信念だけあって知識に欠けるために、狂信的な行動をして人に迷惑をかける事態や、専門的な知識はもっていても信念がないために、その知識の個人的あるいは社会的な意義を考えようとしなかったり、専門領域外の問題については何も行動しなくなったりする事態。(120)
〈参考 T進解答例〉
信念はあるが知識のない狂信家となり、世間に迷惑をかける行動を起こすか、知識はあるが信念のない専門馬鹿となり、専門外のことには関知しないため何の行動も起こさず、専門知識の全体が当人や社会にとって持つ意味を考えようともしない事態。(113)
問6「「信じる」という行為」(傍線部F)とあるが、この行為を実現するためには何が必要か、説明しなさい。(四行)
内容説明問題。これも問3、問5同様、傍線部からテーマを抽出して問う問題。「何が必要か」を問うているわけだから、それに相当する名詞を抽出すると、「それ」と「そういう」という2つの指示語を遡って「信条体系」ということになる。あとは、その「信条体系」が作られる経緯を修飾として前に加え、「信条体系」に着地させ解答とすればよい。
「信条体系」が作られる経緯の説明としては、最終⑤段落の2〜4文目、そして傍線部E(問5)を挟み「そこで今お話ししたなかで鍵になる点は」以下の一文、これが2〜4文目の言い換えになっていることに着目する。これらを重なりがないように、より一般性のある言葉を選択してまとめるとよい。解答は以下の通りとなるが、どこから言葉を選び、どの順に並べたかは各自で確認してもらいたい。「内的で特殊な感情を/知りうるかぎりの事実を媒介としながら/普遍的な価値になるまで/客観化し/その価値を指導原理とした上で/並列的な個別的事実に関しての知識を/統一された全体に向かって組織して/作られる信条体系」。
〈GV解答例〉
内的で特殊な感情を知りうるかぎりの事実を媒介としながら普遍的な価値になるまで客観化し、その価値を指導原理とした上で、並列的な個別的事実に関しての知識を統一された全体に向かって組織して作られる信条体系。(100)
〈参考 S台解答例〉
社会的な環境において、全く内的で特殊な個人的な感情を、知ることができるかぎりでの事実についての専門の知識を媒介としながら普遍的な価値になるまで客観化し、その価値を中心にして、統一された全体に向かって組織して作られる信条体系。(112)
〈参考 K塾解答例〉
日常生活における全体的な現象に対する自分の個別的な諸感情を、それぞれ現象に関する専門的な知識を媒介にしながら、一つの普遍的な価値になるまで客観化し、統一された全体に向かって組織すること。(93)
〈参考 Yゼミ解答例〉
個別的事実に対して生じた、個人の内的で特殊な感情を、知りうる限りの知識を媒介として客観化・普遍化し、価値を形成する。その価値を指導原理として、並列的な個別的事実に関する知識を統一された全体的イメージとして組織しつくりあげた、信条体系。(117)
〈参考 T進解答例〉
全く特殊なものである感情を、事実についての知識を媒介にして、限られた普遍性である価値へと客観化し、その価値を指導原理として、並列的な個別的事実に関する知識を、統一された全体に向かって秩序立てることで、信条体系を組織すること。(112)