〈本文理解〉

 
出典は高村光太郎「永遠の感覚」(1941)。筆者は詩人、彫刻家。
 

問一「至極当然なことである」(傍線部(1))はどういうことか、説明せよ。(三行)

 
〈GV解答例〉
無限の時間的表現としての永遠は非現実的な観念であるとしても、芸術家であるならば、自らの作品に永遠性を付与しようと志向するのは不可避の宿命だということ。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
芸術の究極的境地が無限の時間的表現としての永遠性である以上、芸術家が、この永遠性を尊崇し、一時的な芸術的生命からの脱却を願うことはきわめて理にかなっているということ。(83)
 
〈参考 K塾解答例〉
芸術の究極目的が、個人による創作という観念から切り離された永遠に自立する作品の創造である以上、芸術家が作品の有限性を超えようとするのは自明の理だということ。(78)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
芸術の究極の境とは、作者の手から離れてもなお、天地と共に悠久であるように思わせるものであり、芸術家である以上は誰しもそういった創作を目指そうとすること。(76)
 

問二「其処へニヒルが頭を出す」(傍線部(2))について、ここでの「ニヒル」とはどういうことか、説明せよ。(三行)

〈GV解答例〉
芸術家が永遠を志向したところで、天地の悠久に比してあらゆる創造物は卑小にすぎず、その天地でさえ壊滅を避けられず、有限な存在の虚栄にすぎないということ。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
制作時における作者内面の要求を考えるしかない芸術に、無限の時間的表現としての永遠性を求めることは、空虚なものを欲する芸術家の卑俗さであると冷めた見方をするということ。(83)
 
〈参考 K塾解答例〉
自らも含め全てが消滅を運命づけられている以上、自らの死後にも永遠に存在しつづける作品の創造をめざす芸術家の願望は、根拠のない愚かな虚栄だと批判すること。(76)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
人間とその創造物も含めて、すべては時間に侵食されて崩壊してゆくものであるため、芸術の永遠性の希求を、ありえないことを夢想する卑しい虚栄心の現れと皮肉ること。(78)
 

問三「芸術に於ける永遠とは感覚であって、時間ではない」(傍線部(3))はどういうことか、説明せよ。(三行)

〈GV解答例〉
芸術における永遠とは、物自体の時間的持続ではなく、むしろ即刻即時において作品の美の内奥に感受される、無限持続の不滅の性格に由来するものだということ。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
芸術作品における永遠性とは、作品が人々に無限の時間性を感じさせる性質をもつということであり、作品自体が時間を超えて不滅であるという事実の予定認識ではないということ。(82)
 
〈参考 K塾解答例〉
芸術作品の永遠性とは、時間における事実としての不滅を言うのではなく、その作品の内的価値が未来永劫に渡って享受されるだろうという予感を指しているということ。(77)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
芸術の永遠性とは、時間の進行や侵食に抗うことではなく、作品の美が持続的に享受されていくだろうという予感であり、その力の不滅性を感じることだということ。(75)
 

問四「ほろほろと山吹散るか滝の音」(傍線部(4))のような句はどのようにしてできたと考えられているか、説明せよ。(三行)

〈GV解答例〉
永遠の時間性を潜在する芸術作品は、その不可解さないし解り過ぎる性質のため受け手の執拗な抵抗をうけた上で、いつの間にか心の内にしみ渡り、特殊の美を脱して万人の美となり、空間的普遍性も実現するということ。
(100)
 
〈参考 S台解答例〉
真に固有の偉大さをもつ芸術作品は、最初は、不可解さや解りすぎるために必ず執拗な抵抗を受けるが、いつの間にか、人の心の内部に浸透し、やがて、人間精神に通底する照応により、時空を超えて普遍の感を持つ作品として万人に享受されるということ。(116)
 
〈参考 K塾解答例〉
その固有の価値が永遠に享受されるという予感を抱かせる芸術作品は、人類全体に感動を与える可能性を潜在させているが、多様な享受の仕方に基づく執拗な抵抗を経た後に、ようやく万人に受け入れられるようになるということ。(104)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
単なる通俗性とは違い、高度な普遍性は人間精神の本質に通じるがゆえに逆に、それを有する芸術作品は一見不可解なものとみなされたり、自明なものとみなされたりするため、万人に浸透するには時間がかかるということ。
 

問五「さういふ明滅の美こそ真に大なるものを生ましめる豊饒の場となる」(傍線部(5))はどういうことか。(四行)

〈GV解答例〉
永遠かつ普遍の美をもつ偉大な芸術作品は、特殊な美を放ちながらも万人の美になり損ねた無数の作品群の中から、人間精神と技術芸能との人知を超えた結合としか言いようのない偶然を経て、出現するものだということ。(100)
 
〈参考 S台解答例〉
悠久で普遍の感をもたない特殊な美や、永遠性をもたない偏った美や感傷的な美は、芸術上の偉大さをもたないが、世界に数多く存在し、そうしたつかのま現れては消えていく芸術の美が、真に偉大な芸術作品を生み出す豊かな環境となるということ。(113)
 
〈参考 K塾解答例〉
この世に存在する無数の芸術作品のほとんどは、一時で消え去る特殊な価値しか持っていないが、現実の作品の儚い美の数々こそが、永遠性と普遍性をかねそなえた万人の心を動かす芸術を産出する肥沃な基盤となるということ。(103)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
芸術における真の普遍性は、芸術家たちが独自に生み出してきた、独りよがりだったり感傷的だったりする一過的な数多の作品の累積の上で、人間精神を掘り下げ、技術を究める試行錯誤によって生まれるのだということ。(100)