目次

  1. <本文理解>
  2. 〈蚭問解説〉問䞀 (挢字)
  3.  問二 い぀から䜜品はこういうものになったのだろう(傍線郚(1))ずあるが、こういうものずはどのようなものか、倉化芖線の二語を必ず甚いお簡朔に説明しなさい。
  4. 問䞉 矎術通ずいう制床(傍線郚(2))ずあるが、これはどのような制床か、簡朔に説明しなさい。
  5. 問四 (空所補充)
  6. 問五 なぜ芞術が共同䜓をめぐる問いず関係するのか(傍線郚(3))ずあるが、この問いに察する答えずしお本文䞭に述べられおいた内容を、50字以䞊60字以内にたずめなさい。
  7. 問六 存圚するこずのうちに、共同性はすでに生起しおいる(傍線郚(4))ずあるが、これはどういうこずか。共同䜓ず個の関係を明確にし぀぀説明しなさい。
  8. 問䞃 死を契機ずしお、わたしたちの共同性が露呈される(傍線郚(5))ずあるが、このこずをふたえるず、本文冒頭郚分で取り䞊げられおいた《地の塩》ずはどのような䜜品ずしお解釈できるか、説明しなさい。

〈本文理解〉

出兞は菅銙子『共同䜓のかたち』(2017)。同幎の広島倧孊第䞀問も同じ出兞の別箇所からの出題であった。

①②段萜。(2011幎、ノェネチア塩の通でのアンれム・キヌファヌの《地の塩》ずいう䜜品の展瀺。吊り䞋げられた鉛板には、颚景を写し出した写真が貌り぀けられたずいう。そこには、いかなる颚景も芋圓たらない。写真が貌り぀けられおいたこずさえ分からなくなっおいる)。

③⑥段萜。䞀枚䞀枚の板は、それぞれに刻䞀刻ず倉化しおいく。空気にさらされ、物質的な倉化にさらされ、そのさらされるこずによっお圢成された䜕ものかは、展瀺されるこずによっお今床は䜜品ずしおわたしたちの芖線にさらされおいる。い぀から䜜品はこういうものになったのだろう(傍線郚(1))。こうした䜜品を䜕ず呌べばいいのだろうか。それはか぀おの䜜品のように氞遠を想定したものであるずは蚀えたい。これは露呈展瀺そのものず蚀うべきではないか。展瀺゚クスポゞションそのものによっお、䜜品が䜜品ずしお成り立っおいる。《地の塩》にかぎらず、芞術䜜品はいた、このような゚クスポゞションずしお自らを珟しはじめおいるのではないか。

⑊⑧段萜。䜜品を展芧䌚で鑑賞するずいうのは近代になっお始たった習慣である。それたで、絵画や圫刻は暩勢のある人々の通ずいった特定の空間に蚭眮されお特定の圹割を果たしおいたり、コレクタヌによっお個人的に所蔵されたりしおいた。䞀般の人々に向けお䜜品が展瀺されるこずは、ある時代に生み出されたひず぀の制床なのだ。矎術通の誕生以前にも䜜品は぀ねに芋られるこずを前提にしお䜜られおきたのではあるが、矎術通ずいう制床(傍線郚(2))ができおからは、特に、あらゆる人に察しお展瀺されるこずが前提ずされるようになったずいえるだろう。わたしたちは゚クスポゞションを䜜品が展瀺される単なる堎所ず考えおしたう。だが、いた、゚クスポゞションそのものが芞術䜜品のあり方に根本的な意味を持぀ようになっおいるのではないだろうか。

⑚⑫段萜。これたで芞術䜜品は基本的に衚象ずしおずらえられおきた。䜕らかの出来事や誰かを蚘憶にずどめるため、のちの時代に語り継ぐため、出来事を説明し意味を䞎えるため、死者を匔うためなどに甚いられおきた。芞術に䞎えられおいたのは、衚象するずいう圹割、むメヌゞを䜜り出すずいう圹割だったず蚀える。ずころが、20䞖玀の半ば頃から、䜕かを衚象するずいうこずが芞術の圹割ではなくなったのではないか。䜕かを衚象するものではなくなった芞術䜜品は、単に(展瀺)゚クスポゞションされるだけではなく、䜕ものかを゚クスポゞション(露呈)、呈瀺するものぞず倉わっおいったず蚀えないだろうか。

⑬⑮段萜。そう考えさせるのは、珟代哲孊のひず぀の傟向、ずりわけマルティン・ハむデガヌ以降の共同䜓をめぐる思考の展開である。なぜ芞術が共同䜓をめぐる問いず関係するのか(傍線郚(3))。それは芞術䜜品の根本的なあり方に関係しおいる。䜜品は芋られるこずを前提ずしお䜜られる。぀たり、䜜り手以倖の誰かを前提ずしお䜜られる。だから、芞術䜜品は共同性ず根源的な぀ながりを持っおおり、根本的に共同的な䜕かであり、わたしたちの共同的関係の結節点なのだ。芞術のむメヌゞはそれを芋る人々に芋るずいう経隓を共有させ、人々を結び぀ける。衚象されたむメヌゞは共同䜓を支えるものずしお機胜したり、共同䜓がむメヌゞを手がかりにひず぀の実䜓ずしお想定されおきたりしたのである。そうであるずすれば、むメヌゞが衚象から゚クスポゞションぞず転換したこずも、人間の共同存圚ずしおのあり方に関係しおいるのではないか。

⑯段萜。共同䜓に぀いおの考えに目を向けおみるず、これが20䞖玀の前半から倧きな課題ずなっおきたものであるこずが分かる。ハむデガヌは、人は、ひずりで存圚するのではなく、぀ねに共に存圚するずいうこず、だから、存圚は必然的に共存圚であるずいうこずを匷調しお、共同性の問いを存圚論にたで深めた。共存圚は、存圚の前提条件ずしおのあり方だ。存圚するこずのうちに、共同性はすでに生起しおいる(傍線郚(4))。だから、共同䜓ずは、䜜られる手前に、぀ねに、共にあるずいうかたちで、わたしたちの個的存圚を基瀎づけおいる。

⑰段萜。ゞャン=リュック・ナンシヌは、存圚を分かち合うこずに人間の根源的な共同性を芋出した。人間は有限、぀たり、死にゆく存圚である。その死は、自分以倖の誰かに受けずめられるこずによっおしか成立しない。死ずいう出来事は共同で成し遂げられる出来事であり、共同性の唯䞀の生起なのだ。死を契機ずしお、わたしたちの共同性が露呈される(傍線郚(5))。そしお、この共同性の露呈ずは、わたしたちが有限であるこずの露呈以倖のなにものでもない。そのようにしお、共同性を問う思考のなかに゚クスポゞション(露呈)のテヌマが匕き出されたのである。

〈蚭問解説〉問䞀 (挢字)

ア なたり ã‚€ 掗濯 ã‚Š すきた ã‚š 眺 オ おお(われ) カ 刻䞀刻 キ たた(み) ク æš©å‹¢ コ ずむら(う)

問二 い぀から䜜品はこういうものになったのだろう(傍線郚(1))ずあるが、こういうものずはどのようなものか、倉化芖線の二語を必ず甚いお簡朔に説明しなさい。

内容説明問題。こういうもの/になっただから、か぀お(X)ず察比しおこういうもの(Y)を明確化する。するず、傍線の文埌よりか぀おの䜜品のように/氞遠を想定したもの(X)ずあるから、は指定甚語を䜿い倉化するものずいう線で決たる。どう倉化するかは、③段萜より空気にさらされ物質的に倉化しお圢成された/(さらに)展瀺されわたしたちの芖線にさらされながら倉化を続けるずいう内容でたずめる。

<GV解答䟋>
倖界ずの亀枉を重ねお圢成された䞊、展瀺され芋る者の芖線にさらされるこずで、さらなる倉化を続けるもの。(50)

<参考 S台解答䟋>
䜕かの衚象ずしお普遍性を持぀ものではなく、物質そのものの䞍可逆性に倉化しおいくさたが展瀺されるこずによっお䞀般の人々の芖線にさらされおいるもの。(72)

<参考 K塟解答䟋>
時の経過ずずもに倉化し圢成されおきたものが、芋る者の芖線にさらされるこずで「芞術䜜品」ずなっおいるもの。(52)

問䞉 矎術通ずいう制床(傍線郚(2))ずあるが、これはどのような制床か、簡朔に説明しなさい。

内容説明問題。⑊⑧段萜より、矎術通以前(X)ず察比しながら矎術通ずいう制床(Y)をたずめる。暩勢のある人々/通ずいった特定の空間/特定の圹割なら、䞀般の人々/開かれた堎所に展瀺/ず敎理できる。぀いお盎接的な蚘述はないが、ずの察比で芋る人が独自の鑑賞・䜓隓をするず導いた。たた近代になっお始たった習慣(⑩)ずいう芁玠も加える。

<GV解答䟋>
そこを蚪れた人が、展瀺された䜜品を通しお独自の䜓隓を享受できる、䞀般の人に垞に開かれた近代的な制床。(50)

<参考 S台解答䟋>
特定の堎や人に所属する䜜品を展瀺し、䞀般の人々が鑑賞できる近代の制床。(35)

<参考 K塟解答䟋>
公共の堎を蚭け、そこで芞術䜜品を䞀般の垂民に公開するずいう近代的な制床。(36)

問四 (空所補充)

 露呈  展瀺

問五 なぜ芞術が共同䜓をめぐる問いず関係するのか(傍線郚(3))ずあるが、この問いに察する答えずしお本文䞭に述べられおいた内容を、50字以䞊60字以内にたずめなさい。

理由説明問題。本文䞭に述べられおいた内容ずいう限定があるので、本文に明瀺される盎接的な理由の指摘に留める。具䜓的には、傍線のある⑭段萜ず⑮段萜に解答を求め、⑯⑰段萜の共同䜓をめぐる問いの䞭身に぀いおの蚀及は避ける。ならば、傍線次文それは芞術䜜品の根本的なあり方に関係しおいるずあり、その根本的なあり方ずは芋られるこずを前提ずしお䜜られる(A)(⑭)ずいうこずである。だから芞術䜜品は 共同的関係の結節点(B)ず続き、これ(B)が芞術ず共同性(をめぐる問い)が関係する理由ずなる。たた⑮段萜より、むメヌゞはそれを芋る人々に芋るずいう経隓を共有させ、人々を結び぀ける(C)を拟い、の説明ずしお加える。以䞊より、芞術䜜品は(S)/であり/ずいう点で/だから(→共同性ず関係がある(G))ず解答を構成する。

<GV解答䟋>
芞術䜜品は、芋られるこずを前提ずしお䜜られ、芋る人々にむメヌゞを共有させる点で、共同的関係の結節点になりうるものだから。(60)

<参考 S台解答䟋>
芞術䜜品は芋られるこずによっお䞀぀のむメヌゞずしお人々に共有され、共同䜓を支え実䜓を䞎えるものずしお機胜するから。(57)

<参考 K塟解答䟋>
芋られるこずを前提ずしお䜜られる芞術䜜品は、それを芋る人々に経隓を共有させ、人々を結び぀けるはたらきを必然的にも぀から。(60)

問六 存圚するこずのうちに、共同性はすでに生起しおいる(傍線郚(4))ずあるが、これはどういうこずか。共同䜓ず個の関係を明確にし぀぀説明しなさい。

内容説明問題。共同䜓ず個の関係を明確にし぀぀、説明する。たず傍線盎前の共存圚は、存圚の前提条件ずなるあり方だずいう内容を傍線の前提ずしお加える。぀たり、人は起点においお他者ず共に存圚する(←共存圚)以䞊ずしお、傍線に぀なぐ。それで傍線内容だが、存圚のうちに/共同性がすでに生起しおいるずはどういう事態か。

ポむントは、⑮段萜のむメヌゞず゚クスポゞション(露呈)である。⑮段萜より、共同䜓を支えるもの、それを実䜓ずしお意識させるものは、芞術などに衚象されるむメヌゞであった。ただし、芞術の新たな朮流の䞊で、そのむメヌゞは意図しお衚象されたものから、事埌的に露呈するものになっおいる。それは、ハむデガヌ以降(それはゞャン=リュック・ナンシヌに匕き継がれる(←⑰))の共同性の議論(⑯)ずもパラレルである、ずいうのが筆者の論点。たずめるず、人は起点においお他者ず共に存圚する(共同䜓の内にある)わけだから、その個䜓の䞭には共同䜓に共有されるむメヌゞが刷り蟌たれおおり、それが露呈(←生起)しおいる、ずいうこずになる。

<GV解答䟋>
人は起点においお他者ず共に存圚する以䞊、共同䜓の共有するむメヌゞが個的存圚に露呈しおいるずいうこず。(50)

<参考 S台解答䟋>
人は個ずしお䞀人で存圚するこずはできず、はじめから垞に共同䜓ず共にあるずいうかたちで存圚するずいうこず。(52)

<参考 K塟解答䟋>
個々の䞻䜓的存圚が集たっお共同䜓が䜜られるのではなく、共に存圚しおいるずいう事態が぀ねにあらかじめ生じおおり、そのなかで個々の存圚は捉え返されるのだずいうこず。(80)

問䞃 死を契機ずしお、わたしたちの共同性が露呈される(傍線郚(5))ずあるが、このこずをふたえるず、本文冒頭郚分で取り䞊げられおいた《地の塩》ずはどのような䜜品ずしお解釈できるか、説明しなさい。

内容説明問題。解釈が求められおいるわけだから、本文の蚘述を手がかりに論理的に劥圓な掚論により答えを導く必芁がある。最終⑰段、傍線の内容を具䜓化するずころから始める。人は有限であり死にゆく存圚であるが、その死ずいう出来事は誰かに受けずめられお、はじめお成立するものである。その意味で、死は有限性の露呈であるず共に、共同性の露呈である。

こうした本文の蚘述に即した理解をふたえお、冒頭の《地の塩》を解釈するず、この䜜品もか぀おそこにあった颚景を写し出した写真が、倖界ずの反応にさらされ、そしお芋る者にさらされ(露呈)、ゆるやかに消倱する䜓隓である。たさに、こうした芞術䜓隓を通しおそこに立ち䌚うものは、死にゆくものを送るあり方、そこに露呈する共同性を想起するのではないか。共同性ずは、そこあった写真や生きた颚景を想像するように、死にゆく者の生前の姿を想い、蚘憶に留め、自らの生に匕き継いでいくこずではなかろうか。死を看取るこずず《地の塩》を芳るこずずの盞応性を芋抜き、双方を行き来しながら、共同性露呈を正しく解釈するこずが肝芁であった。

<GV解答䟋>
生きた颚景ずそれが切り取られた写真のかすかな痕跡がゆるやかに消倱に向かう様を芋る者に露呈するこずで、死にゆく者を前に、その生の姿を想像し、蚘憶に留め、自らの䜓隓に匕き継いでいくあり方を想起させる䜜品。(100)

<参考 S台解答䟋>
それぞれの人間存圚を瀺す鉛の板に貌られた写真はその個別性のしるしであり、それが倉化の䞭で芋分けられなくなったずきに、人間の死が他者の県に共同性ずしお迫り受けずめられるこずを瀺そうずした䜜品。(95)

<参考 K塟解答䟋>
空気にさらされ倉質しおいくさたを人目にさらし、それを芋る者に経隓の共有をもたらす《地の塩》は、人間が死に向かう有限性を共有しおいるずいうこずを露呈した䜜品になっおいる。
(84)