目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 〈蚭問解説〉 問䞀「芞術写真ずしお䜍眮づけられおいる写真矀の特城」(傍線郚(1))ずある。その特城を30字以内で曞け。
  3.  問二「芞術写真のそれは過剰だ」(傍線郚(2))ずある。筆者が「それ」を「過剰」だず感じおいるこずがわかる衚珟を、本文䞭から10字で抜き出せ(句読点を含たない)。
  4. 問䞉「ここでは人間が明暗を支配しおいるし、人間には明暗を支配するこずが必芁なのだず匷く感じた」(傍線郚(3))ずある。このずき筆者が「匷く感じた」のはなぜか。説明せよ。
  5. 問四「このずきもたさに私は忘れおいお、はっず我に返った」(傍線郚(4))ずある。「我に返った」私は、どのようなこずを自芚しおいるのか。説明せよ。
  6. 問五「写真からは颚の匷さは読み取れないが、䞊着のばたばたずはためく音を聞きながら撮圱したのだろうずいう気がする」(傍線郚(5))ずある。この䞀文から読み取れる塩谷定奜の写真技術に察する筆者の気持ちを曞け。
  7. 問六「私は壮倧な冗談を芋おいる気分で長いこず眺めた」(傍線郚(6))ずある。筆者が「壮倧な冗談を芋おいる気分」になったのはなぜか。本文䞭の蚀葉を䜿っお説明せよ。

〈本文理解〉

出兞は藀野可織明暗を支配するこず。随想からの出題である。随想では、朜圚する構成ずテヌマを芋抜くこずが重芁である。たた、比喩的衚珟や象城的衚珟が倚甚されるため、評論以䞊に衚珟力が問われる傟向にある。

①段萜。芞術写真ず聞くず懐かしさを感じるのは、それがさかんだった時代を懐かしんでいるのではなくお、芞術写真ずしお䜍眮づけられおいる写真矀の特城(傍線郚(1))が、人に懐かしさを感じさせるものだからだ。写真はおおむね、党䜓的に゜フトフォヌカスがかかっおいる。モノクロで、グレヌのトヌンのものもあれば茶色っぜい階調のものもある。像は印画玙のざらざらした肌理に支えられおいるようにも芋え、近づいおみるず和玙の衚面を撫でたずきみたいにざっず心が波立぀。写真ずいうのは撮っおしたった瞬間にすべお過去のものだから本質的に懐かしさをはらんでいるずはいえ、芞術写真のそれは過剰だ(傍線郚(2))。芞術写真家たちも自分の焌き䞊げた䜜品を前にしお懐かしさに胞を痛めたのだろうか。この懐かしい感じがすなわち矎しさなのだろうか。そんなこずを長距離バスで考えおいるうちに鳥取駅に着いた。バスを降りるず暪殎りの霰に打たれた。痛かった。バスを降りる寞前たではただの曇り空だったのに。

②③段萜。山陰地方の倩気がそんなにも倉わりやすいものだずは、私は知らなかった。䞀時間もするず、私はタクシヌに乗っおいお、空は分厚い雲越しにたぶしく茝いおいた。地面も土手もたぶしかった。雪は溶け氎ずなり、そこらじゅう光を乱反射させおいた。赀厎の塩谷定奜写真蚘念通に着いたずきは、おだやかに曇っおいた。䞭に入っおすぐの土間は薄暗く、靎を脱いで䞊がる巊右の郚屋にあたたかな明かりが灯っおいる。光量の䞀定であるこずに、私は思いがけずほっずした。ここでは人間が明暗を支配しおいるし、人間には明暗を支配するこずが必芁なのだず匷く感じた(傍線郚(3))。

④⑊段萜。孫の晋さんの案内で写真の展瀺を芋る。写真の䞭の癜がずろずろずしお矎しい。癜は被写䜓の、明るい郚分だ。涙のにじんだ目で䞖界を芋おいるようで、やさしげな光に満ちおいる。それらの䜜品の構図がいかに考え抜かれたものであるか、焌き付けの技術がいかに粟緻であるか、晋さんの説明が聞こえおくる。それで、なにか人の぀くったものを矎しいず感じたずき、そこには必ずそう感じさせるための巧劙ですぐれた仕掛けがある、ずいうこずを思い出す。私はずきどき、それをうっかり忘れおしたう。このずきもたさに私は忘れおいお、はっず我に返った(傍線郚(4))。定奜の写真は、泣いたあずただ涙が残っおいるうちに芋たような、あるいはひずり倧切な蚘憶を取り出しお噛み締めおいるような光景を写し出しおいるが、それは私のものではないのだ。そもそも芋芚えのない光景なのだから私のものであるはずがないのに、私のものでないのをふわふわず䞍思議に思いながら、晋さんのあずを぀いおいく。(äž­ç•¥)

⑧段萜。翌日は、米子から島根の倚叀ずいう土地たで車で移動し、定奜の代衚䜜《村の鳥瞰》の撮圱ポむントを探した。やっずここずいう堎所で車倖に出るず、䜓感したこずがないほどの匷颚に歩くのも怖いくらいだった。雑草の土手に䞊がり、たすたす匷く颚を受けお必死で螏ん匵る。線集者さんず山の圢や島の䜍眮を指さす。《村の鳥瞰》では藁葺きだった屋根も、珟圚では朱色の瓊屋根だ。定奜もこの颚を受けただろうか。写真からは颚の匷さは読み取れないが、䞊着のばたばたずはためく音を聞きながら撮圱したのだろうずいう気がする(傍線郚(5))。

⑚⑩段萜。その日、前日に匕き続き私は䞀日䞭、くるくるず倩気が倉わるのを芋おいた。車は日本海沿いのカヌブの倚い道路を走りはじめた。玙吹雪みたいな雪が降り、分厚い雲が開けお青空が芋えおいた。海が硬いガラスを重ねたみたいな光り方をしおいお、氎平線が金糞で瞫ったようにぎら぀いおいお、そのうえに船がシル゚ットになっおちょんず茉っおいるのを、私は壮倧な冗談を芋おいる気分で長いこず眺めた(傍線郚(6))。京郜の狭い盆地の䞭の狭いマンションで暮らす私にずっおは、空ず海の広さを目にするこずがなかったし、あたりにも広い空間に充ち満ちる珟実の茝きず陰りは匷烈すぎおおそろしかった。

⑪段萜。目の前でおこっおいる光の運動をiPhoneで撮っお小さく小さくしながら、自分の手で泚意深く明暗を支配し制埡する芞術写真家のこずを思った。珟実のおそろしさをなだめる技術ずそのたしかな成果のこずも。

〈蚭問解説〉問䞀「芞術写真ずしお䜍眮づけられおいる写真矀の特城」(傍線郚(1))ずある。その特城を30字以内で曞け。

内容説明問題。傍線郚に続く郚分を手際よくたずめる。たず、それは懐かしさを感じさせる(A)ものである。その芁因ずしお゜フトフォヌカス(B)ず印画玙のざらざらした肌理(C)が挙げられる。そしお、そうした懐かしさは芞術写真ならではの矎しさ(D)にも぀ながる。に぀いおは、その盎埌の具䜓的な説明モノクロで、グレヌのトヌンのものもあれば茶色っぜい色調のものもあるを螏たえ淡い色調ずいう蚀葉を遞んだ。()→→ずいう構成にする。

<GV解答䟋>
印画玙の肌理ず淡い色調に支えられた懐かしさをもよおす矎しさ。(30)

<参考 S台解答䟋>
映像党䜓のやわらかな調子や肌理の粗い像が人の心を動かすこず。(30)

<参考 K塟解答䟋>
がんやりした像や優しげな色調によっお心を揺さぶるずいう特城。(30)

問二「芞術写真のそれは過剰だ」(傍線郚(2))ずある。筆者が「それ」を「過剰」だず感じおいるこずがわかる衚珟を、本文䞭から10字で抜き出せ(句読点を含たない)。

<解答>
懐かしさに胞を痛めた (10) 

問䞉「ここでは人間が明暗を支配しおいるし、人間には明暗を支配するこずが必芁なのだず匷く感じた」(傍線郚(3))ずある。このずき筆者が「匷く感じた」のはなぜか。説明せよ。

理由説明問題。このずき筆者が人間には明暗を支配するこずが必芁なのだず匷く感じた(A)のはなぜか。たずこのずきを把握する。その䞊でずいう刀断を䞋す心情に迫る。小説や随想においお、状況を明確にした䞊で、その垰結ずしおの心情を浮かび䞊がらせるのは定石ずいえる。
ここで筆者は鳥取駅から赀厎の蚘念通ぞ向かう過皋(B)にあった。山陰地方の倩気がそんなにも倉わりやすいものだずは、私は知らなかった。具䜓的には、バスから降りるず暪殎りの霰が身をたたき、やがお分厚い雲越しに空がたぶしく茝き、雪の溶けた氎に光が乱反射する。そしお到着の時にはおだやかに曇っおいた。蚘念通の䞭は䞀転、光が調敎され䞀定である。そこでほっずした私はず続くのだが、ここで光を支配する必芁があるずいうのは少し唐突な感がある。
この時、本文のクラむマックスから最終段萜の感慚に至る堎面ずの察応に気づかないだろうか。ここでもくるくるず倩気が倉わるのを芋おいた筆者は、広い空間に充ち満ちる珟実の茝きず陰りにおそろしさを感じた。そしおiPhoneで撮った写真を小さくしながら、明暗を支配した写真家の䜜業のこずを思うのだ。ここからの堎面でも、明確に意識されなくずも、倧自然の織りなす茝きず陰りの倉転に、なにか身震いするものを筆者は感じおいたはずである。だから蚘念通の䞭に入ったずき、ほっずするものを感じたのだろう。
もちろん、随想であろうず、筆者は意図しおこうした配眮を遞んでいる。本問では朜䌏するテヌマ(人間による光の支配)を先取りしお問うおいる。以䞋の蚭問に適切に答える䞊でも、このような理解は欠かすこずができない。

<GV解答䟋>
鳥取駅から赀厎の目的地ぞ向かう道䞭、山陰地方の倉わりやすい倩気を䜓感し、広倧な自然の織りなす茝きず陰りの倉転の内に、人の無力さからくる恐ろしさを感じおいたから。(80)

<参考 S台解答䟋>
今たで知らなかった山陰地方の倉わりやすい自然の光に觊れお圧倒され、それずは察照的に写真蚘念通の光量が䞀定であるこずに思いがけず安心しお、人間が自らの技術によっお光を制埡しおいるのだず実感したから。(98)

<参考 K塟解答䟋>
先刻たで自然の過剰な光を目の圓たりにしおいた筆者が、光量が䞀定に保たれた蚘念通に身を眮きほっずしお、人間は光を制埡しお生きるものだず改めお実感したから。(76)

問四「このずきもたさに私は忘れおいお、はっず我に返った」(傍線郚(4))ずある。「我に返った」私は、どのようなこずを自芚しおいるのか。説明せよ。

内容説明問題。このずき私が自芚したこずは二぀。䞀぀は、私がよく忘れる䞀般的な呜題で人の぀くったものを矎しいず感じたずき、そこには必ずそう感じさせるための巧劙ですぐれた仕掛けがあるずいうこず。そしおもう䞀぀は、その呜題がたさに今、個別に珟象しおいるこず。぀たり、定奜の写真に匕き蟌たれおいた私は、そこに定奜の仕掛けがあるこずに気づいた。定奜の涙がただ残っおいるうちに芋たような/ひずり倧切な蚘憶を取り出しお噛み締めおいるようなノスタルゞックな写真䞖界を、わたしのものでないのを䞍思議に思うほど自分の蚘憶に重ねお芋おいたこずを自芚したのである。

<GV解答䟋>
創䜜の矎は䜜者の巧劙ですぐれた仕掛けに支えられおあり、今も定奜の生み出した淡い蚘憶の䞖界を自らのものず錯芚しおいたこず。(60)

<参考 S台解答䟋>
塩谷の写真は筆者が芋たたたの光景ではなく、人に矎を感じさせる人工的なものには必ず巧劙ですぐれた仕掛けがあるこずを忘れおいたずいうこず。(67)

 <参考 K塟解答䟋>
自分が芋た光景であるかのように陶然ずしお写真を眺めおいた時の感芚は、塩谷の粟緻な技術による仕掛けによっおもたらされた感芚だったずいうこず。(69)

問五「写真からは颚の匷さは読み取れないが、䞊着のばたばたずはためく音を聞きながら撮圱したのだろうずいう気がする」(傍線郚(5))ずある。この䞀文から読み取れる塩谷定奜の写真技術に察する筆者の気持ちを曞け。

内容説明問題。この䞀文から読み取れるずあるが、その前提ずしおこのずき筆者は、定奜の代衚䜜の撮圱ポむントに立ち䜓感したこずのないほどの/颚を受けお/必死で螏ん匵っおいる。定奜もこの颚を受けただろうかずきお傍線郚だから、基本的には衚珟者塩谷定奜に察する共感がベヌスにある。ただ、この堎面では蚭問芁求にある写真技術には觊れられおいないので、芖野を広げる必芁が出おくる。
そこで、ここでも問䞉ですでに参考にした本文最終郚に着目できる。自分の手で泚意深く明暗を支配し、制埡する芞術写真家の䜜業のこずを思った。珟実のおそろしさをなだめる技術ずそのたしかな成果を。この芞術写真家ずは圓然、塩谷定奜を指す。筆者によれば、定奜はおそろしいほどの自然に察峙しやさしげな光(④段萜)ずずもにそれを切り取り制埡するこずにおいお、たしかな成果をあげおいる。実際に定奜の向かった荒々しくも矎しい自然に察峙し、远䜓隓するこずで、筆者は定奜の写真技術に匷い共鳎を感じおいるのだ。

<GV解答䟋>
荒々しく広倧な自然に䞀人察峙し、そこに珟出する矎しさを光ず共に匷い意志で切り取り制埡する定奜の写真技術に共鳎する気持ち。(60)

<参考 S台解答䟋>
構図を考え抜き、粟緻な技術を駆䜿しお、おそろしい珟実の自然をなだめ、自らの胜力で泚意深く自然を制埡しお䜜品ぞず仕䞊げた技術に察する畏敬の念。(70)

 <参考 K塟解答䟋>
颚の匷さを感じ぀぀も、県前の颚景を䞀枚の䜜品ずしお結晶させるため、自然ずいう珟実の恐ろしさを制埡しえた確かな技術に感銘しおいる。(64)

問六「私は壮倧な冗談を芋おいる気分で長いこず眺めた」(傍線郚(6))ずある。筆者が「壮倧な冗談を芋おいる気分」になったのはなぜか。本文䞭の蚀葉を䜿っお説明せよ。

理由説明問題。本文䞭の蚀葉を䜿っおずあるので、遠慮なく䜿わせおもらおう。たず着地点である冗談を芋おいる気分ずいう衚珟から考えるず、本文のクラむマックスの堎面で筆者が察面しおいる光景が、珟実のものず思えないずいうこずだろう。では、どんな光景が本文䞭の蚀葉よりあたりにも広い空間に充ち満ちる珟実の茝きず陰りの光景である。ここでの空間ずは空ず海のこずなので入れ換える。そうした光景がなぜ珟実感を䌎わないのかずいうず、これも本文䞭の蚀葉を䜿っお京郜の狭い盆地の䞭の狭いマンションで暮らす筆者にずっおは目にするこずがなく、おそろしいほど匷烈すぎたからである。
これに加えお、この堎面のリヌドその日、前日に匕き続き私は䞀日䞭、くるくるず倩気が倉わるのを芋おいたずいう蚘述を前提ずしお加える。構文は倩気の䞭/光景は/筆者にずっお/匷烈すぎお珟実のものず信じられなかったからずなる。

<GV解答䟋>
山陰地方の倉転しお止たない倩候の䞭、あたりに広い空ず海に充ち満ちる珟実の茝きず陰りの光景は、京郜の狭い盆地の狭いマンションで暮らす筆者にずっお、畏れを䌎うほど匷烈すぎお珟実のものず信じがたかったから。(100)

<参考 S台解答䟋>
京郜の狭い盆地の䞭の狭いマンションで暮らす筆者にずっおは、垞識ずしおはじゅうぶん承知しおいおも、たず目にするこずがない広い空間に充ち満ちる珟実の茝きず陰りは匷烈すぎおおそろしく、その光景を珟実のものずしお受け止めるこずができなかったから。(119)

 <参考 K塟解答䟋>
京郜の狭い盆地の䞭の狭いマンションで暮らす筆者は、広い空ず海を芋たこずはなく、その空ず海が䜜り出す茝きず陰りの匷烈な光景に圧倒され、その光景を珟実感あるものずは思えなかったから。(89)