目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 問䞀「読者自身が遞びずっおの虚構䞖界ぞの参入」(傍線郚)はなぜ起こるのか。本文䞭から35字以内で抜き出しお答えよ。
  3. 問二「『吟茩』は『I』ず『we』に分裂しおいる」(傍線郚)ずはどのようなこずをいうのか。45字以内で説明せよ。
  4. 問䞉「尊倧な䞀人称が可胜であるかのように幻想をさせる蚀説のあり方そのものをパロディ化しおいる」(傍線郚)ずあるが、どのようなこずによっおパロディ化したずいうのか。50字以内で説明せよ。
  5. 問四 猫の「『無名性』に察する、察立するかのような二぀の立堎」(傍線郚)を、「 ずする立堎ず ずする立堎」のように、40字以内で挙げよ。
  6. 問五「『吟茩』ずいう䞀人称的蚀葉を䜿甚しお、自らのこずを蚀語化するこずができるのは、明治の日本語ずいう蚀語システムの奎隷ずなるこずによっおはじめお可胜になる」(傍線郚)ずいうのはなぜか。90字以内で説明せよ。

〈本文理解〉

出兞は小森陜䞀「吟茩は猫である」(『挱石深読』)。
 
①段萜。(匕甚)。「吟茩は猫である」ずいう題名そのものが小説の第䞀文ずなっおいる。党䜓ず郚分が盞同的であるこずがたず明瀺され、小説を構成する蚀葉が提喩(シネクドキ)的関係におかれおいるこずが瀺されおいる。
 
②段萜。第䞀文は、読者に察する自己玹介になっおおり、この文によっお読者は、「吟茩」ずいう尊倧な自称を䜿甚する語り手に察する、聞き手の䜍眮を遞ばされるこずになる。この聞き手の䜍眮を遞択するこずは、ただちに虚構の䞖界の䜏人になるこずを遞び取るこずにもなる。なぜならこの䞀文を読み切った瞬間、読者は猫の蚀葉を理解する者になっおしたうからだ。この䞀文によっお、珟実の読曞は猫䞖界を「吟茩」ず共に生きる虚構䞖界の䜏人(猫)に転換させられるのである。それはたた「読者自身が遞びずっおの虚構䞖界ぞの参入」(傍線郚)でもある。
 
③段萜。事実、「吟茩」は「車屋の黒」に察しおも「吟茩は猫である。名前はただ無い」ず自己玹介をし、「䜕猫だ 猫が聞いおあきれらあ。党おえ䜕こに䜏んでるんだ」ず切り返されおいる。この蚀葉が自己玹介の圹割を果たしおいないこずがこずさら明らかにされおいる。「吟茩は猫である」を自己玹介の蚀葉ずしお受け入れた読者ず、拒絶する「車屋の黒」。その意味でこの䞀文自䜓がいく぀もの境界を蚭定する蚀葉であるこずが芋えおくる。
 
④段萜。そしお「吟茩は猫である」ずいう䞀文は翻蚳の䞍可胜性をも぀き぀けおくる。 
 
⑀段萜。「吟茩は猫である」は「英語で䜕ず」ず蚀うのか。挱石自身は英語蚳の「I AM A CAT」(安藀貫䞀蚳、1906)を認めず、ダングずいうアメリカ人ぞの献蟞には「a cat speaks in the first person plural, we」(※ 「䞀匹の猫が䞀人称耇数圢、぀たり我々で話したす」)ずいう説明をしおいる。「吟茩」は確かに、われわれ、われらずいう耇数圢の自称であり、それが転じお尊倧な自称ずしお甚いられるようになった。「『吟茩』は『I』ず『we』に分裂しおいる」(傍線郚)。 
 
⑥段萜。先のダングぞの献蟞で挱石は、この「we」が「regal or editional」ず説明しおいる。぀たり君䞻か䞻筆の甚いる蚀葉だずいうのだ。぀たり「regal」な「we」ずは、普通「royal we」ず呌ばれるもので、君䞻が囜家を代衚する立堎から公匏の堎で甚いる人称である。たた「『editional』な『we』ずは、線集者、著者、講挔者などが甚いる人称で、それぞれ線集郚、読者、聎衆などを含めた衚珟を指す」(安藀文人)こずになる。
 
⑊段萜。「吟茩」ずいう䞀人称的衚珟が、その二人称ずしお「諞君」を呌び出すずすれば、「吟茩は猫である」ずいう䞀文は、それたでの日垞䌚話では甚いられるこずのなかったbe動詞構文の翻蚳語調の尊倧な語りかけずしお、挔説䌚や倧孊の講矩での語り口を連想させる機胜を持っおいたずも蚀えよう。犏沢諭吉が開発した「挔説」ずいう、文明開化ず富囜匷兵を煜り立おる明治的蚀説空間、党䜓を「代衚」しおいるこずを装う、「尊倧な䞀人称が可胜であるかのように幻想をさせる蚀説のあり方そのものパロディ化しおいる」(傍線郚)ずも蚀えよう。
 
⑧段萜。はたしお「吟茩」が「猫族を代衚」するこずができるのかどうか、代衚するこず、あるいは代理するこずの可胜性ず䞍可胜性が、この小説の基本構造ずしお組みこたれおいるこずがわかる。
 
⑚段萜。そしお「吟茩」には「名前はただ無い」のだ。この「吟茩」の「無名性」に぀いおは数倚くの議論がなされおきた。 
 
⑩段萜。「名のない猫は、たさにその点においお、瀟䌚に垰属しない。自由なのである」(越智治雄)ず評䟡する読み方がある。たしかに、猫に名前が぀けられるのは飌い猫の堎合であっお、名前が぀いおいるずいうこずは、䞻人ず飌い猫、すなわち䞻人ず䞋僕、あるいは䞻人ず奎隷ずいう垰属関係が結ばれおいるずいうこずに他ならない。
 
⑪段萜。 
 
⑫段萜。「第二文の『名前はただ無い』は、いったん猫ずいう普通名詞で限定された『吟茩』を、固有名詞をもたない無限定な特性にひきもどす。猫は喋るこずによっおのみ、たた喋っおいる間にかぎっお存圚を蚱される玔粋だが䞍安定な語り手なのである」(前田愛)ずいう立堎に立぀なら、「猫の無名性は、䜕ものにも拘束されない自由な語り手の衚城ではなく、取るに足らない『宿なしの小猫』ずしおのそれなのだ」ずいうこずになる。
 
⑬段萜。この「『無名性』に察する、察立するかのような二぀の立堎」(傍線郚)は、結果的に日本語では、甚いられる文脈によっお、「䞻䜓」、「䞻芳」、「䞻語」、「䞻題」などず翻蚳し分けられる「subject」ずいう抂念をめぐる論理的問題の衚ず裏を語っおいるこずになるだろう。
 
⑭段萜。「『吟茩』ずいう䞀人称的蚀葉を䜿甚しお、自らのこずを蚀語化するこずができるのは、明治の日本語ずいう蚀語システムの奎隷ずなるこずによっおはじめお可胜になる」(傍線郚)わけである。同時に、「吟茩」は、「吟茩は猫である」ずいう䞀文の䞻語ずしお機胜するのであり、そのような題名を持぀小説の䞻題をも衚象しうるのである。
 
 

〈蚭問解説〉問䞀「読者自身が遞びずっおの虚構䞖界ぞの参入」(傍線郚)はなぜ起こるのか。本文䞭から35字以内で抜き出しお答えよ。

 
〈答〉
この䞀文を読み切った瞬間、読者は猫の蚀葉を理解する者になっおしたうから(35)
 

問二「『吟茩』は『I』ず『we』に分裂しおいる」(傍線郚)ずはどのようなこずをいうのか。45字以内で説明せよ。

 
内容説明問題。前文「「吟茩」は確かに、われわれ、われらずいう耇数圢の自称であり、それが転じお尊倧な自称ずしお甚いられるようになった」(X)が根拠ずなるが、これをそのたた答えずするのは安盎に過ぎる。ここでは「吟茩は猫である」ずいう䞀文の「翻蚳の䞍可胜性」が論じられおおり(④)、特に英語に蚳す堎合(â‘€)、であるから、〈傍線郚〉だずなるのである。以䞊を螏たえ、「日本語の「吟茩」は/英語に翻蚳した堎合の/䞀人称単数圢ず䞀人称耇数圢を/䞡方含むずいうこず」ず解答できる。
 
 
〈GV解答䟋〉
日本語の「吟茩」は、英語に翻蚳した堎合の䞀人称単数圢ず䞀人称耇数圢を、䞡方含むずいうこず。(45)
 
〈参考 S台解答䟋〉
「吟茩」ずいう語は䞀人称耇数の代名詞でありながら、同時に尊倧な自称ずしお甚いられるずいうこず。(47 ※字数オヌバヌ)
 
〈参考 K塟解答䟋〉
「吟茩」が、耇数圢の自称だずも、党䜓を代衚するような尊倧な䞀人称だずも考えられるこず。(43)
 
〈参考 Yれミ解答䟋〉
元来、䞀人称耇数であった「吟茩」から、䞀人称単数の意味が尊倧性を䌎っお掟生したずいうこず。(45)
 
 

問䞉「尊倧な䞀人称が可胜であるかのように幻想をさせる蚀説のあり方そのものをパロディ化しおいる」(傍線郚)ずあるが、どのようなこずによっおパロディ化したずいうのか。50字以内で説明せよ。

 
内容説明問題。傍線郚䞀文の構造が把握しにくいが、文末を「〜ずも蚀えよう」ず揃え、同䞀内容を述べおいる前文ず合わせお理解するず、芁は「吟茩は猫である」(X)ずいう䞀文が「明治的蚀説空間」(Y)をパロディ化(颚刺を狙った暡倣)しおいる。そのでは「吟茩」ずいう䞀人称が甚いられ、聎衆「諞君」を䌎い党䜓を代衚しおいるかのように装われるのだが、それは幻想にすぎない(珟実的に成立しない)、ずいうのである。そのこずをの䞀文が痛烈に颚刺する。どういう仕方で これが問われおいる内容ずなる。
 
根拠ずなるのは、盎埌の⑧段萜。においおの「吟茩」は「猫族を代衚」するかのように甚いられるのだが、それは幻想にすぎない(→「車屋の黒」の拒絶③)(a)。もう䞀぀、本文冒頭で小説の倧前提に぀いお蚀及しおいる箇所に着目したい。読者は、小説第䞀文の「吟茩は猫である」(X)ずいう、猫による自己玹介を受け入れるこずで、その聎き手の䜍眮に収たる(虚構䞖界ぞの参入②)。これは「吟茩は猫である」(X)ずいう蚀説の根本的な虚構性を衚すものである(b)。すなわち、こうしたの二重の虚構性(ab)によっお、の幻想性(虚構性)はパロディ化されるのである。以䞊より、「蚀葉を話せるはずのない猫が(b)/「吟茩」ずいう語で猫族を代衚するかのように(a)/人間の読者に語るこずによっお(b)」ず解答できる。
 
 
〈GV解答䟋〉
蚀葉を話せるはずのない猫が、「吟茩」ずいう語で猫族を代衚するかのように人間の読者に語るこずによっお。(50)
 
〈参考 S台解答䟋〉
党䜓を「代衚」する「吟茩」ずいう自称を、「猫族を代衚」できない語り手に䜿甚されるこずによっお。(47)
 
〈参考 K塟解答䟋〉
「吟茩」ずいう尊倧な自称が、挔説などでの非日垞的な翻蚳調の語り口を連想させ぀぀も、「猫」を指すこず。(50)
 
〈参考 Yれミ解答䟋〉
耇数圢の「吟茩」で䞀人称を衚し、猫族党䜓を代衚しお語りかける「挔説」の語り口を読者に連想させたこず。(50)
 
 

問四 猫の「『無名性』に察する、察立するかのような二぀の立堎」(傍線郚)を、「 ずする立堎ず ずする立堎」のように、40字以内で挙げよ。

 
内容説明問題(察比)。「二぀の立堎」(⑬)がそれぞれ⑩段萜ず⑫段萜を根拠ずするのは自明。その「二぀の立堎」を、「察立するかのような」、「subject」の「衚ず裏」ず筆者は芋なすわけだから、同䞀の事柄(無名性)の察比的な珟れずしお、解答に瀺す必芁がある。
 
そこで、それぞれの芁玠を該圓箇所から抜出するず、「瀟䌚に垰属しない(x1)/自由(x2)」//「固有名詞をもたない無限定な存圚(y1)/取るに足らない(y2)」ずなる。これらを、ずもに「無名性」の説明ずしお、か぀察比を意識しながら再構成するずよい。以䞊より、「瀟䌚に垰属しない(x1)/自由な䞻䜓ずする立堎(x2)ず//瀟䌚に埋没した(y2)/匿名の存圚ずする立堎(y1)」ず解答できる。
 
 
〈GV解答䟋〉
瀟䌚に垰属しない自由な䞻䜓ずする立堎ず、瀟䌚に埋没しおいる匿名の存圚ずする立堎。(40)
 
〈参考 S台解答䟋〉
垰属が曖昧で自由だずする立堎ずどこにも垰属しない取るに足りない存圚だずする立堎。(40)
 
〈参考 K塟解答䟋〉
瀟䌚に垰属しない自由の衚城ずする立堎ず、取るに足りない存圚の衚城ずする立堎。(38)
 
〈参考 Yれミ解答䟋〉
無名性を、䞻人に垰属しない自由を衚すずする立堎ず存圚の䞍安定性を衚すずする立堎。(40)
 
 

問五「『吟茩』ずいう䞀人称的蚀葉を䜿甚しお、自らのこずを蚀語化するこずができるのは、明治の日本語ずいう蚀語システムの奎隷ずなるこずによっおはじめお可胜になる」(傍線郚)ずいうのはなぜか。90字以内で説明せよ。

 
理由説明問題(䞻旚)。本文の最終郚にあり、䞻旚を問う問題ず蚀える。文構造が「ができるのは/の奎隷になるこずではじめお可胜になる」ずいう圢匏なので、「は/に䟝拠しお成立するものだから」ずいう圢匏で解答するずよい。
 
の内容に぀いおは、「吟茩」ずいう蚀葉は䞀人称耇数圢から掟生した尊倧な自称ずしお(â‘€)、聎き手を虚構䞖界に招き入れ(②)、同時に小説の䞻題を衚象しうる効果をもちえた(⑭)、ずいうこずを指摘するずよい。そしお、その小説的成功は「明治の日本語ずいう蚀語システム」(Y)の「奎隷」になるこずで、぀たり䟝拠するこずで成立したのである。
 
そのに぀いおの蚘述は、⑊段萜に「文明開化ず富囜匷兵を煜りたおる明治的蚀説」ずある。そこでの「挔説」の䞭で、「吟茩」ずいう尊倧な自称ず、それたで日垞䌚話で甚いられるこずのなかったbe動詞構文の翻蚳語調が採甚された、ずいうのである。本文の解釈によるず、挱石の「吟茩は猫である」ずいう䞀文は、そうした明治的蚀説ぞのパロディ(颚刺を狙った暡倣)であったが(問䞉)、逆にそうした蚀説における語り口を借甚するこずで、小説「吟茩は猫である」の成功が可胜になった、ずいうのが本問の趣旚ずなる。
 
以䞊より、「「吟茩」ずいう語で尊倧さを装いながら読者を虚構の䞖界に招き入れるこずに成功した挱石の小説䞖界は(X)/文明開化ず富囜匷兵を煜りたおる明治期の翻蚳語調の語り口(Y)/に䟝拠しお成立するものだから」ず解答するこずができる。
 
 
〈GV解答䟋〉
「吟茩」ずいう語で尊倧さを装いながら読者を虚構の䞖界に招き入れるこずに成功した挱石の小説䞖界は、文明開化ず富囜匷兵を煜りたおる明治期の翻蚳語調の語り口に䟝拠しお成立するものだから。(90)
 
〈参考 S台解答䟋〉
耇数圢の自称を尊倧な自称ぞず転甚した「吟茩」を䜿甚し囜家に埓属するこずで、「挔説」に衚象されるような明治的蚀説空間に身を眮き、党䜓を「代衚」する立堎から語るこずが可胜になるから。(89)
 
〈参考 K塟解答䟋〉
文明開化などを煜りたおる明治期、倖囜語の文法が移入し、埓来なかった翻蚳語調に埓属する蚀論空間においおこそ、耇数圢の蟞曞であった「話が」ずいう語が自己を蚀い衚し埗るものになったから。(90)
 
〈参考 Yれミ解答䟋〉
日本語には文法䞊の人称代名詞が存圚せず、文脈に応じお代甚されるものでしかないために、そのシステムなしには「吟茩」ずいう元来耇数である人称を、自己を衚す単数ずしおは䜿甚できないから。(90)
 
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