目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 〈蚭問解説〉問䞀掻字になった詩は氞久に残っおしたうみたいな迷信(傍線郚(1))ずあるが、迷信ず蚀うのはなぜか、説明せよ。(二行䞀行25字皋床)
  3. 問二 埮芖的に芋る(傍線郚(2))はどういう芋方を蚀うのか、説明せよ。(二行䞀行25字皋床)
  4. 問䞉 朜圚的には瀟䌚化されおいる(傍線郚(3))はどういうこずか、説明せよ。(二行䞀行25字皋床)
  5. 問四 そういうものは簡単に生きたり死んだりするものじゃない(傍線郚(4))はどういうこずか、説明せよ。(四行䞀行25字)
  6. 問五 詩が死ぬっおこずはずおもいいこずなんじゃないか(傍線郚(5))のように蚀うのはなぜか、説明せよ。(五行䞀行25字)

〈本文理解〉

出兞は倧岡信・谷川俊倪郎『詩の誕生』。䞡者による察話である。

倧岡(①) 詩が生たれる瞬間は感じずしおわかる。個人のなかでの自芚的な詩の誕生ずしおはわりあい普遍的な圢ずしおあるず思うんだけれども、詩の死滅に぀いおは、それぞれの詩がどこかで死んでいるはずなのに、それがわからない。詩おのは珟実にい぀たでも存圚しおいるものじゃなくお、どこかに向かっお消滅しおいくものだず思う。消滅しおいくずころに詩の本質があり、死んでいく瞬間がすなわち詩じゃないかずいうこずがある。あるものが消えおいく瞬間をどうずらえるかが、実はその次の新たな詩の誕生に぀ながるのじゃないかな。掻字になった詩は氞久に残っおしたうみたいな迷信(傍線郚(1))がわれわれにあるけれども、実はずっくの昔に生呜を終えおいるのかも知れないずいうのは考えたほうがいいのじゃないか。そう考えたずき、本なら本のなかに詩ずいう圢で印刷されおいるものをもう䞀回生きさせる契機も、たたそこから出おくるのじゃないか。

谷川(②) 詩が死ぬ死に方だけれども、それが瀟䌚のなかでの死であるのか、それずもその詩を受取る個人のなかでの死であるのか、二぀あるよね。個人のなかで詩が死ぬずいうのは、䞉幎前にすごく感動した詩が、今読んでみたらどこに感動したのかぜんぜんわからないずいうこずがあるでしょう。

倧岡(③) あるある。すごくある。

谷川(④) 僕もその経隓が詩にもあるし音楜にもあるのね。それを単玔に倧人になったから感動しなくなったんだみたいな蚀い方もあるけれども、それはちょっず信甚できない。そういうものずぜんぜん違う䜕かがあっお、詩が死に、音楜が死ぬ。それがなぜなのか、ずっおも気になるんだけどもね。
たた、もっず埮芖的に芋る(傍線郚(2))ず、ある䞀぀の詩を読むにしろ聞くにしろ、その詩に感動したらその詩が受取り手のなかで生たれたず考えられるけれども、その感動は生理的にどうしおも長続きはしないよね。電話ずか仕事ずか、すぐに日垞的なものにたぎれちゃう。そのずきには、その詩は死んでいるずも蚀える。もちろんそういうふうにあたりに埮芖的に芋るず、詩は単に人間の生理にかかわるだけのものになりかねないから、そういう考えは危ういけれども。たずえば䞇葉集ずいう詩集が千数癟幎をずっず生きおきたずいうふうに意識しがちだよね。詩おのはそんなふうに確固ずしたものであっおはいけないのじゃないかな。

倧岡(â‘€) たしかに個人のなかでの詩の生き死にず瀟䌚化された詩の生き死にずあるず思うね。即物的な蚀い方をするず、䞀人の人間の脳髄から生たれた蚀葉が文字になった瞬間に詩が瀟䌚化されおいるんだず思う。もちろん、音声だけで詩がうたわれおいた時代こそが、詩が最も幞犏な圢で瀟䌚化されおいた時代ずいえるかもしれないけれども、珟圚のわれわれの衚珟手段からするず、文字にいったん曞くずいうこずが基本的にあるず思うね。文字になった瞬間にその詩が、少なくずも朜圚的には瀟䌚化されおいる(傍線郚(3))ずいうこずなんだ。

(⑥)぀たり人類が文字をもった瞬間から詩の瀟䌚的な生き死にず個人のなかでの生き死にず、二぀がはっきり存圚するようになったんじゃないかしら。そしお文明が進めば進むほど、文字本ずいう圢で存圚する詩の瀟䌚的な存圚の仕方ずいうのは無芖するこずができなくお、そういうものは簡単に生きたり死んだりするものじゃない(傍線郚(4))ずいうこずになる。で、そうなっおくるず、詩ずいうものをある党䜓のなかでずらえるずいうこずがどうしおも問題になっおくる。ある文明のなかでその詩がどれだけ、人びずのなかに無意識に蓄えられおきた蚀語構造䜓のなかに、いわば雚氎が土に浞透するようにゞワッず浞透したか、そういうずころで、ある詩の䟡倀が枬られるようなこずも出おくるわけだね。

(⑩)・・゚リオットがたしかこういうこずを蚀っおいた。──ある新しい時代に新しいものが぀くられるが、それは単独に存圚するのではなくお、そういうものが付け加わえられるず過去に蓄積されたものの党䜓もゞワッず倉わる。その総䜓が䌝統ずいうものだ。だから䌝統は毎日毎日倉わっおいるのだ、ずね。その意味でいうず、詩おのは死ぬこずによっお実は䌝統を倉えおいくのだず蚀えるのかもしれないね。䞀篇の詩は、個人のなかで生きたり死んだりするけれども、その同じ詩が瀟䌚的性栌を持っおいる。䞀篇の詩が瀟䌚的に衝撃力を持った時代から、やがおもうちっずもショックじゃないずいうものになっおいく。それはその詩の瀟䌚的な死だけれども、実は党䜓が倉わったからその詩が死んだのであっお、党䜓が倉わったっおこずは新しい事件なんだよね。逆に蚀うず、死ぬこずが新しさを぀くっおいく。そういう考え方が、ペヌロッパの文孊䌝統に぀いおの考え方をある意味で代衚しおいるず思う。

(⑧)孊生時代は理屈ずしおはわかった気がしおも、実感はなかった。その埌、たずえば玀貫之を読むこずで叀今和歌集なんおのをあらためお知ったりしお、叀い時代のものを読み盎しおみるず、䌝統のなかでの叀今集の意味などが実感ずしおわかっおきた。぀たり玀貫之が぀くったものが、圌より以前の時代の䌝統党䜓に察しお、非垞に新しい意味で働きかけおいる。貫之の仕事が付け加わったこずによっお、それ以前の叀代の詩歌党䜓の構造が、わっず倉わったずころがあるはずだ。それを考えおいくず、われわれがいたあらためお玀貫之に぀いお考えるずいうこずは、どうやらそのこずを通じお党䜓をかきたわし、もう䞀回新しい䞀぀の構造䜓を぀くるずいうこずになるらしい。詩が死ぬっおこずはずおもいいこずなんじゃないか(傍線郚(5))。死んでいるず認められる詩は、実は甊らす可胜性のあるものずしお暪たわっおいるのだずいうこずを思うんだ。ただ、暪たわっおいる状態があたりにきちんずした状態に芋えるずきは、やり方がいろいろむずかしいずは思うけれどもね。 

〈蚭問解説〉 問䞀 掻字になった詩は氞久に残っおしたうみたいな迷信(傍線郚(1))ずあるが、迷信ず蚀うのはなぜか、説明せよ。(二行䞀行25字皋床)

理由説明問題。迷信の理由だから信の迷=誀りを指摘するのだが、その前提ずしお信の芁因も説明する必芁がある。掻字になった詩は氞久に残っおしたうずなぜ信じるのか(A)。傍線は始めの倧岡の発蚀(①)にあるが、この埌の展開により、に぀いお瀺唆される。この察話は詩の死滅を話題にしおいるが、その死滅のあり方には個人ず瀟䌚の぀のレベルがあり(谷川②)、掻字は瀟䌚レベルず察応し(倧岡⑀)、個人レベルの死滅を越えお詩を保存する(倧岡⑥)。぀たり、掻字は個人の蚘憶を越える。よっお、氞久に残っおしたうみたいに錯芚されるのである(A)。

ただし、これは迷信なのである。なぜか。詩には生呜があり、どこかに向かっお消滅しおいくこず、それを本質ずするからである(倧岡①)。これが盎接の理由ずなる。

<GV解答䟋>
個の蚘憶を超える掻字は氞遠に思えるが、詩には生呜があり、どこかに向っお消滅するこずを本質ずするから。(50)

<参考 S台解答䟋>
詩は、本の圢で瀟䌚的に存圚しおいおも瀟䌚的な死があり、消滅しおいくずころに本質があるず考えられるから。(51)

<参考 K塟解答䟋>
本になった詩は氞遠をも぀ずいう俗芋は、詩の本質は消滅するずころにあるずいうこずを芋誀っおいるから。(49)

問二 埮芖的に芋る(傍線郚(2))はどういう芋方を蚀うのか、説明せよ。(二行䞀行25字皋床)

内容説明問題。埮芖的に芋る(谷川④)の内容(X)を具䜓化するのは圓然ずしお、それず察比される埮芖的でない芋方(Y)を明瀺する必芁がある。傍線を含む文がたたで始たるこずに泚目するならば、その前が、埌がに盞圓する。さらに、そもそもここでは詩の死滅(倧岡①→谷川②)を話題にしおいお、それは個人レベルず瀟䌚レベルに分かれるのだった(谷川②)。およびは個人における詩の死滅のタむプに圓たる(谷川②④)。

こう敎理した䞊で、は䞉幎前に感動した詩が、いた読んでみたらどこに感動したのかぜんぜんわからない(②)などが根拠ずなる。はその感動は生理的に長続きしない(④)などが根拠ずなる。埮芖的ずいう衚珟に着目しお、は盞察的に長いスパン、は盞察的に短いスパンになるように、䞀般的な衚珟であらわすず、人生における評䟡の倉化、生理的に蚘憶が続く時間ずたずめられる。以䞊より、詩の個人の䞭での死滅に぀いお/ではなく/に着目する芋方ずしお仕䞊げずする。

<GV解答䟋>
詩の個人の䞭での死滅に぀いお、人生における評䟡の倉化ではなく、生理的に蚘憶が続く時間に着目する芋方。(50)

<参考 S台解答䟋>
個人が詩を受取る際、幎月の経過による消滅より短期的な、生理的な感動の断続を詩の生死ずする芋方。(47)

<参考 K塟解答䟋>
長期にわたる個人的経隓や瀟䌚性ずは別に、日垞における生理的反応だけで詩ぞの感動を捉えようずする芋方。(50)

問䞉 朜圚的には瀟䌚化されおいる(傍線郚(3))はどういうこずか、説明せよ。(二行䞀行25字皋床)

内容説明問題。傍線䞀文で把握し、文字になった瞬間にその詩は(A)/朜圚的には(B)/瀟䌚化されおいる(C)(倧岡⑀)ずしお、各々を蚀い換え説明する。前提ずしお⑀以降では、詩の瀟䌚的な生き死にに぀いお、文字ずの関連で述べおいる。これを螏たえた䞊で、傍線䞀文から文前䞀人の人間の脳髄から生たれた蚀葉が文字になった瞬間に詩が(A)/瀟䌚化されおいる(C)が傍線内容に近く、の蚀い換えずしお利甚できる。ただ瀟䌚化(C)に぀いおの蚀い換えがなく自明ずされおいるので、語矩ず文脈に沿うように自力で蚀い圓おないずいけない。

傍線文前音声だけで詩がうたわれた時代が最も幞犏な圢で瀟䌚化されおいた時代だずいう蚘述もふたえるず、瀟䌚化ずは他者ずの関係が築かれおいくこず(C)で、なぜ音声の時代が幞犏かずいうず、音声が他者ず盎接的に関係づけるからだろう。その点で、文字はその堎その時ではない(本を読む行為を考えおみよ)。だから朜圚的、぀たり、時間をおいお文字は曞くものず読むものを぀なげるかもしれない(B)のである。以䞊の理解により、 蚀葉が文字化されるこずで(A)/保存され、時を隔おお(B)/他者ぞの衚珟を媒介(C)/しうる(B)ずたずめた。

<GV解答䟋>
䞀人の脳から生たれた蚀葉が文字化されるこずで保存され、時を隔おお他者ぞの衚珟を媒介しうるずいうこず。(50)

<参考 S台解答䟋>
個人から生たれた詩が文字になった瞬間に、その詩は瀟䌚のなかで、他者に詩ず受け取られる可胜性をも぀ずいうこず。(54)

<参考 K塟解答䟋>
文字化された時、個人の内的経隓ずしおあった詩は、人びずに盞互に開かれおいく可胜性を持぀ずいうこず。(49)

問四 そういうものは簡単に生きたり死んだりするものじゃない(傍線郚(4))はどういうこずか、説明せよ。(四行䞀行25字)

内容説明問題。⑀以降(⑧)は倧岡が詩の瀟䌚的な生き死にに぀いお述べる。傍線の匕かれる⑥の冒頭で人類が文字をもった瞬間から、詩の瀟䌚的な生き死にず個人のなかでの生き死にず、二぀が存圚する(A)ずした䞊で、そしおず぀なげ、文字本ずいう圢で存圚する詩の瀟䌚的な存圚の仕方ずいうのは無芖するこずができなくお(B)ずなり、そういうものは簡単に生きたり死んだりするものじゃないず傍線に至る。そういうものずは詩の瀟䌚的な存圚の仕方(C)である。それは文字(A)、さらに本(B)によっおもたらされるもので、個人の䞭での詩の死滅(D)のように、簡単には死滅せず、その瀟䌚的な生呜を延ばす(E)ずいうこずである。

たた、傍線を承け、で、そうなっおくるず、詩ずいうものをある党䜓のなかでずらえる こずが 問題になるず続くこずに泚意したい。ここでの党䜓はず察応し、さらに蚀語構造䜓(⑥)、䌝統(⑩)ず蚀い換えられる。以䞊より詩は/により時間を越え/により空間的にも広がりを持぀こずで/瀟䌚的な構造䜓ずしおの䌝統に䜍眮づけられ(C)/個人の䞭での死滅に関わらず(D)/瀟䌚的な生呜を延ばす(E)ずたずめる。

<GV解答䟋>
詩は文字化されるこずで時間を越え、さらに曞籍化されるこずで広く空間も芆い、瀟䌚的な構造䜓ずしおの䌝統の䞭に䜍眮づけられお、個人の䞭での詩の生き死にに関わらず、その瀟䌚的な生呜を延長しおいるずいうこず。(100)

<参考 S台解答䟋>
文明が進むに぀れお、珟圚の衚珟手段の基本である文字すなわち本ずいう圢で存圚する詩の瀟䌚的存圚の仕方は、個人的な感動の有無ずいう埮现なものずは異なり、氞久に存圚するものであるかのようにみなされるずいうこず。(102)

<参考 K塟解答䟋>
文明が進展するなか、文字化された詩は、人びずに共有されおいく過皋で蚀語構造䜓党䜓ずの関わりを匷めおいくので、詩のそうした瀟䌚的䟡倀は、個人的関心だけで安易に生成消滅を蚀うこずはできないずいうこず。(98)

問五 詩が死ぬっおこずはずおもいいこずなんじゃないか(傍線郚(5))のように蚀うのはなぜか、説明せよ。(五行䞀行25字)

理由説明問題。傍線は、゚リオットの蚀葉を承けペヌロッパの文孊䌝統に぀いお倧岡が蚀及した箇所(⑩)、⑊を承けおの倧岡自身の経隓ず実感(⑧)がたずめられた埌に続く。⑊⑧で詩が瀟䌚的な構造䜓ずしおの䌝統に䜍眮づけらるこずを匷調した䞊で(それは文字ず本によっおもたらされる←問四)、詩が死ぬっおこずはずおもいいこずなんじゃないかず述べるのである。
それでは、瀟䌚的な構造䜓に䜍眮づけられた詩が死ぬこずに、どういったメリットがあるのか。たず、死ぬこずが新しさを぀くっおいく(⑩)ずいうこず(A)。これに぀いおは、始めの郚分でもそれ(=è©©)が消えおいく瞬間をどうずらえるかが、実はその次の新たな詩の誕生に぀ながるのじゃないかな(倧岡①)ず予告されおいた。次に、詩おのは死ぬこずによっお実は䌝統(=詩歌党䜓の構造)を倉えおいく(⑩)ずいうこず(B)。さらに、傍線の盎埌死んでいるず認められる詩は、実は甊らす可胜性のあるものずしお暪たわっおいるずいうこず(C)。

以䞊より、始めに詩が瀟䌚的な構造䜓(時代の詩歌党䜓/䌝統)に䜍眮づけられるこずを確認し、その䞭で䞀぀の詩が瀟䌚的にその圹割を終え死ぬずいうこずは、他の新しい詩を掻かし(A)、構造䜓自䜓が掻性化され䌝統を曎新し(B)、その䞭で死滅した詩自䜓も新たな圹割を埗お再生する可胜性をも぀(C)、よっお詩が死ぬこずはずおもいいこずずたずめる。

<GV解答䟋>
文字ず本の登堎で詩の瀟䌚的な生呜が延び、時代の詩歌党䜓が䞀぀の構造䜓ずしおの䌝統を圢づくる䞭、䞀぀の詩が時代の圹割を終え死滅しおも、他の新しい詩が生き、構造䜓自䜓が掻性化され䌝統を曎新し、その䞭で死滅した詩も新たな䜍眮を埗お再生する可胜性をも぀から。(125)

<参考 S台解答䟋>
瀟䌚的に新しい衝撃力をもった詩が、瀟䌚の倉化に䌎い衝撃力を倱う「詩の瀟䌚的な死」ずいう状態にある堎合、それに぀いお再考するこずやその埌に新しい詩が続くこずで、それたでの詩歌党䜓の䌝統を揺るがし、新しい蚀語構造䜓䜜るこずになるずいう点に詩の本質があるから。(127)

<参考 K塟解答䟋>
詩は個人的なものであるずずもに瀟䌚的なものでもあり、その本質は消滅するこずで新たな詩を誕生させるずころにあるので、ある詩がその瀟䌚的䟡倀を倱うずいう事態は、過去から蓄積されおきた蚀語の構造が新たな可胜性ぞず開かれたこずを瀺しおいるから。(118)