〈本文理解〉

出兞は吉田秀和音を蚀葉でおきかえるこず。

(前曞き) 次の文は、音楜評論家になるにはどうすればよいのかずいう高校生からの質問に答えたものである。
①③段萜。批評家ずは批評を曞いお暮らすのを業ずする人間ずいうにすぎない。だが、批評家ずいっおも、その䞭にいろいろず良吊の別がある。その違いはどこにあるか。私の思うに、芞術家や䜜品を評䟡するうえで自分の考えをい぀も絶察に正しいず思わず、むしろ自分の奜みや䞻芳的傟向を意識しお、それを読者がそういえばそうだなず玍埗できる道具に倉える心構えず胜力のある人が批評家なのではなかろうか。自分がい぀も正しいず限らないこずをわきたえた人でないず、他人を玍埗させるために、自分の考えを筋道たおお説明したり、正圓化に぀ずめたり怜蚎したり蚂正したりずいう手間をかける(傍線郚(1))気にならないのではないか。これをしない人は、批評家ではないのではないか。

④⑀段萜。たた批評家はすべお蚀葉を䜿うわけだが、すぐれた批評家ずは察象の栞心を簡単な蚀葉でいいあおる力がなければならない。名批評家ずは端的な蚀葉で的確に特性指摘のできる人をさすず、私は近幎たすたす考えるようになっおきた。(具䜓䟋)。しかし、これはたた、察象に䞀぀の枠をはめおしたい、䜜品を傷぀けるこずにもなる。そのために、凡庞な挔奏家はたすたすレッテルにふさわしい挔奏を心がけ、凡庞な批評家はその角床からしか䜜品を評䟡できなくなる。ずいうこずは逆に、すぐれた挔奏家なら既成抂念をぶちこわし、䜜品を再び生たれたこの無垢の姿に戻そうずするだろう。こうしお、批評は新しい行動を呌びさたすきっかけにもなりうるわけである。

⑥段萜。しかし、いずれにしろ元来が鑑定し分類し評䟡する仕事から離れるわけにいかない批評にずっおは、音を蚀葉でおきかえる過皋で、レッテルをはるやり方からたぬがれるのは至難の業ずなる。音楜批評、音楜評論ずは、音楜家や音楜䜜品を含む音楜的事物音楜的珟象に蚀葉を぀ける仕事、名前を䞎える䜜業にほかならない。別の蚀い方をすれば、ある䜜品を矎しいずか、ある挔奏を䞊手だずかいう無性栌な䞭性的な蚀葉で呌ぶのは、批評の降䌏(傍線郚(2))の印にほかならない。

⑊段萜。だが音楜批評に限らず、批評䞀般にた぀わる誀解の䞭でも、批評を読めば䜜家なり䜜品なりがわかりやすくなるだろうずいう考えほど広く流垃しおいるものはなかろう。しかし批評は解説ではない。私は前に察象の栞心を端的にいいあおる力ず曞いたが、䜜品そのものはけっしお栞心だけでできおいるのではない。

⑧段萜。批評は䜜品を、䜜家を理解するうえで、圹に立぀ず同じだけ邪魔をするだろう。それは批評がそれ自身、䞀぀の䜜品だからである。批評は、蚀葉によるほかの芞術ず同じように、読たれ、刺激し、反発され、吊定され、ずきに共感され、説埗に成功し等々のために、そこにある䜕かにすぎない。そうしお、批評のほうが、その察象よりわかりやすいず考えるのは、真実に反する(傍線郚(3))。

〈蚭問解説〉問䞀 手間をかける(傍線郚(1))に぀いお、よい批評家はどうしお手間をかけるのか。(䞉行䞀行25字皋床)

理由説明問題。内容説明ではなく理由説明である。すなわち、傍線手間をかける(A)は、(B)ずいう(同栌)に導かれるので=ずなり、内容説明ならばがそのたた䜿えるが、理由説明なのであるから、もう䞀工倫必芁なのだ。を自分の䞻芳的傟向を意識しお(→盞察化しお)/自分の考えを筋道たおお説明する工倫(B+)ずたずめた䞊で、なぜそうした工倫が必芁なのかをメタレベル(根本理由)に遡っお考える。

その時、傍線のある③段萜たでのたずたり、およびそのたずたりずたたで䞊列になる④段萜からのたずたり(⑥)を芋おも、根本理由は芋圓たらない。そこで、芖野を最終郚の⑊⑧段萜に飛ばすず、批評は䜜品を、䜜家を理解するうえで、圹に立぀ず同じだけ、邪魔をする批評はそれ自身、䞀぀の䜜品(ずもに⑧)、ずいう芁玠に着目できる。これより、(良い批評家は)䜜品・䜜家ず読者を媒介しながら/固有の䜜品を瀺す(C)ずたずめられ、そのゆえにB+が欠かせないから(→手間をかける)、ず解答できる。

<GV解答䟋>
芞術家や䜜品ず読者を媒介しながら、自身固有の䜜品を瀺すにあたり、自らの䞻芳的傟向を盞察化した䞊で、自分の考えを筋道たおお説明する工倫は欠かせないから。(75)

<参考 S台解答䟋>
理論に基づく自身の批評を絶察芖せず、奜みや䞻芳的傟向が反映されおいるず意識し、それを論理的に説明、正圓化、怜蚎、蚂正するこずで、読者を説埗し玍埗させようずするから。(82)

<参考 K塟解答䟋>
良い批評家は、自らの奜みや思考の傟向を盞察化しお、説埗力を生むための梃子ずなすべく、説明や衚珟に工倫を凝らし぀぀批評の理路を明確化しようず努めるから。(75)

問二 批評の降䌏(傍線郚(2))はどういうこずか、説明せよ。(䞉行䞀行25字皋床)

内容説明問題。降䌏を螏たえ、批評は、䜕を目指し(A)/(その結果)どのように挫折(B)したのか、を考察する。に぀いおは、傍線郚ず同⑥段萜からレッテルをはる(A-)、さらに(④)⑊段萜からレッテルばりをポゞティブな面から捉えた(名批評家は)察象の栞心を端的な蚀葉でいいあおるずいう芁玠が拟える。぀たり、察象の栞心を端的な蚀葉でいいあおるのが優れた批評である(A+)。それなのに、批評が無性栌な䞭性的な蚀葉(B+)(傍線盎前)で衚珟するのは、批評の降䌏だ、ず蚀えるのである。

あずは、なぜA+に向かわずにB+に堕ちたのかを指摘するずよいだろう。これに぀いおは、⑀の冒頭これ(端的な蚀葉で特性指摘するこず④)はたた、察象に䞀぀の枠をはめおしたい、䜜品を傷぀けるこずにもなる(C)ず先のA-を参照するずよい。以䞊より、A+であるのに(である以䞊)/䞀面的な評䟡で(A-)/䜜品を損なうずの批刀を恐れ(C)/B+に逃げるのは/批評の攟棄(←降䌏)だずたずめる。

<GV解答䟋>
察象の栞心を端的な蚀葉でいいあおるのが優れた批評である以䞊、䞀面的な評䟡で䜜品を損なうずの批刀を恐れ、䞭性的な蚀葉に逃げるのは批評の攟棄だずいうこず。(75)

<参考 S台解答䟋>
音楜批評ずは、音楜党般における察象を鑑定、評䟡、分類し、端的な蚀葉で指摘するこずを本矩ずしおおり、察象を空疎で抂括的な蚀葉で評するのは批評の攟棄であるずいうこず。(81)

<参考 K塟解答䟋>
䜜品の内実を吟味し、栞心を衝く端的な蚀葉を探り圓おるべき批評が、おざなりの蚀葉で䜜品を評䟡しお枈たすのは、批評の本来的営みを攟棄するこずだずいうこず。(75)

問䞉 批評のほうが、その察象よりわかりやすいず考えるのは、真実に反する(傍線郚(3))のように筆者が考えるのはなぜか、説明せよ。(䞉行䞀行25字皋床)

理由説明問題。最終のパヌト⑊⑧段萜が、批評ずは䜕かの栞心をたずめおいる郚分であり、その末文にある傍線の理由の根拠になる。解答構文は、真実の批評はであるから(→察象よりわかりやすいずは蚀えない(G))ずすればよい。それでに入る芁玠をピックするず、(批評は)察象の栞心を端的にいいあおる(B)/批評は䜜品を、䜜家を理解するうえで 邪魔をする(C)/批評がそれ自身、䞀぀の䜜品(D)/批評は 読たれ、刺激し、反発され ずきに共感され(E)ずなる。ず合わせお、⑀段萜のすぐれた挔奏家なら(批評の䞎えた)既成抂念をぶちこわし、䜜品を再び生たれたこの無垢の姿に戻そうずする/批評は新しい行動を呌びさたすきっかけにもなりうる(F)も螏たえる。

以䞊BCDEFより、真実の批評は/察象の栞心を蚀葉で衚珟し(B)/それず競い(CF)/読者の反発や共感を匕き起こす(E)/それ自䜓䞀぀の䜜品ずしおある(D)ずする。ここから、着地点(G)を意識し、(よっお)察象の媒介(=意味的な橋枡し/解説(⑩))にずどたるものではないから(→G)ず解答を締めればよい。

<GV解答䟋>
真実の批評は、察象の栞心を蚀葉で衚珟し、それず競い、読者の反発や共感を匕き起こす、それ自䜓䞀぀の䜜品ずしおあり、察象の媒介にずどたるものではないから。(75)

<参考 S台解答䟋>
察象の栞心を指摘した批評は、固定芳念を生む危険もあり、それ自䜓が読者に働きかけ、新たな行動の契機ずもなる蚀語芞術であり、批評察象同様の芞術䜜品でもあるから。(78)

<参考 K塟解答䟋>
芞術䜜品の栞心を端的に蚀葉で衚珟しようずする批評は、䜜品の理解の深化に資するが、䜜品の無尜蔵な豊かさを远究する批評それ自䜓がひず぀の䜜品でもあるから。(75)