〈本文理解〉

出典は大浦康介『対面的 〈見つめ合い〉の人間学』

①段落。生きている人間の身体はつねに動いている。(まばたき、呼吸、脈、震え)。「「動物」とはよくいったものだ」(傍線部A)。動物とは、他者に動かされるのではなく、みずから、ひとりでに動くもののことである。
 
②段落。ロボット学者の石黒浩によると、人間に似たロボットを作ろうとするときに重要なのは〈見かけ〉に劣らず〈動き〉なのだという。…
 
③段落。アンドロイドという、人間に限りなく近いロボットを作ろうとする石黒が直面したもっとも難しい問題が、何もしていないときの人間のかすかな動きをいかに再現するかという問題だった。彼はこれを「無意識的微小運動」と呼んでいる。…彼は何十本もの「空気圧アクチュエータ」をロボットの上半身に埋め込んでこれを実現しようとした。その結果、いかに精巧なアンドロイドが出来上がったかは周知のところである。思うに、「こうした微細な動きというのは、顔かたちの似姿以上に、人間の「存在感」に直結している」(傍線部B)。じつは対面性を下支えしているのがこれなのかもしれない。
 
④段落。生物物理学者の柳田敏雄が指摘するように、生体はそもそも分子レベルでつねに「ゆらいで」いる。筋肉のなかではアクチンとミオシンが「ふらふらと動いている」のだという。この運動はいわゆる「熱ゆらぎ=ノイズ」で、生体はこれを積極的に利用している。だから僅かなエネルギー消費で済むというのが柳田の主張である。この「ゆらぎ」が肉眼で見える運動であるはずはないが、「対面的磁場の根底にこれがある」(傍線部C)と考えるのは、少なくとも想像力を刺激する仮定である。
 
⑤段落。ところで、石黒が作ったアンドロイドを見た人々の反応はどうだったのだろうか。人々はアンドロイドをどこまで人間に近いと感じたのかーーこの疑問を解くべく、石黒は「対面実験」なるものを行なっている。被験者をアンドロイドと向き合う形です坐らせ、アンドロイドにいくつかの短い質問をさせて、その間の被験者の目の動きを観察する。次に、アンドロイドを本物の人間や従来型のロボットで置き換えて同じ観察を行い、結果を比較する、というものである。…「(人間は)人と話しているときに、たいていはその人の目を見るが、じっと見続ける人はいない。しばらく見たら、必ず少し目をそらして、また目を見る。…この目をそらすという動作が出てくるのは、相手が人間で、互いに社会的な関係があるときだと言われている」(石黒)。
 
⑥段落。この実験で分かったのは、被験者は対面相手が従来型のロボットのときだけ目を反らさないということだった。一方、相手がアンドロイドなら目を反らした、つまり人間に対するときと同じ反応を示したのである。…われわれにとって興味ぶかいのは、人間はとモノを区別するにさいして、それと対面する人の目の動きが目安とされたということである。アンドロイド作りの成功度は、それが対面的磁場を成立させるか否かにかかっていると、いささか我田引水的に言っていいかもしれない。「成功したアンドロイドのまなざしに人はたじろぐ」(傍線部D)のである。
 
⑦段落。もう一点、これに関連して石黒が指摘していることで面白いのは、人間に酷似したアンドロイドに人は容易に触れることができないということである。…
 
⑧段落。触れることをためらわせるのは、いうまでもなく、対面的磁場に由来する倫理性である。人をモノのようには殴れない、モノのように性的オブジェとして扱っことはできないなどと言わしめる倫理性と同じものだ。「ここでも、生きた人間であることの証が、対面性とかかわる部分で考えられている」(傍線部E)。繰り返していうが、対面的磁場、すなわち倫理性の成立に、文字どおりの対面が必要であるわけではない。…しかし対面時には倫理性のハードルはより高い。対面相手を触るのは、背を向けている相手を触るよりむずかしいはずである。
 
⑨段落。石黒浩は…人間酷似型ロボット開発の果てに、人間との外面的な類似要素を最小限にまで切り詰めた「最低限の人間」、「ミニマルデザインのジェミノイド」に行き着いた。このことは示唆的である。あえて図式的にいえば、もともと「なぜロボットが人間に似ていてはいけないのか」という問題意識から出発した石黒は、「ここに来て、「なぜ(何から何まで)似ていなければいけないのか」という問題意識へと大きく舵を切ったように見える」(傍線部F)。
 
⑩段落。「テレノイド」と名づけられたこのミニマルロボットは、体長80センチほどで、赤子のような頭部をもつが、四肢は尻すぼみである。ポイントはやはり目である。「どうしても必要なのは目である。…遠隔機能をもたせるためには口も必要である。ただ、目が十分に人間らしければ、口は開閉することが明確にわかる程度でいいだろう」(石黒)。従来型のロボットに戻ったわけではもちろんない。そうではなく、〈人間〉を感じさせる最少の要素にイメージが純化されたのである。そしてそれは、結局のところ、対面性を実現すれば足りるということであったように私には思われる。
 
 

問1「「動物」とはよくいったものだ」(傍線部A)とあるが、それはどういうことか、説明せよ。(3行)

内容説明問題。「Xを/「動物」とはよくいったものだ」のXが省略されている場合、このXは「動物」ということだろう。よって、傍線次文「(動物とは)みずから、ひとりでに動くももの」(Y)を繰り込んでで終わり、にした人は反省してほしい。これで出題者の作問意図を満たしたとは言えないのである。
①段落の冒頭では「生きている人間の身体はつねに動いている」(Z)とし、以下傍線部の前までその事例が具体的に説明される。ならば、「「動物」とはよくいったものだ」の「動物」は「人間」を念頭に置いたものだと言わねばならない。これを踏まえ「動物とは字義的に、みずからひとりでに動くもののことだから(Y)/身体がつねに動いている人間を(Z)/「動物」と形容することは/的を射た言い方だ(←よくいったものだ)」とまとめた。
 
 
〈GV解答例〉
動物とは、字義的に、みずからひとりでに動くもののことだから、身体がつねに動いている生きている人間を「動物」と形容することは的を射た言い方だということ。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
「動物」という言葉は、他者に動かされるのではなく、みずから、ひとりでに動くという動物の本質を端的に表現しているということ。(61)
 
〈参考 K塾解答例〉
動物とは他者に動かされるのではなく、ひとりでに動くもののことであり、生きている間つねに身体が動いている人間は、まさに「動物」と言えるということ。(72)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
生きている人間の身体は静止した状態に見えてもどこかが必ず動いているので、他者に動かされることなく自らひとりでに動くものを「動物」と名付けたのはいかにも適切だということ。(84)
 
 

問2「こうした繊細な動きというのは、顔かたちの似姿以上に、人間の「存在感」に直結している」(傍線部B)とあるが、それはどういうことか、具体的に説明せよ。(4行)

内容説明問題。「こうした繊細な動きというのは(X)/顔かたちの似姿以上に(Y)/人間の「存在感」に直結している(Z)」と要素に分けて、具体的に説明する。傍線部は③段落の後ろから2文目にあるが、これは②段落冒頭「(ロボット学者の石黒浩によると)人間に似たロボットを作ろうとするときに重要なのは(Z)/〈見かけ〉に劣らず(X)/〈動き〉なのだ(Y)(という)」と対応する。その冒頭文に続けて、石黒が「無意識的微小運動」と呼ぶ「何もしてないときの人間のかすかな動き」(a)のを埋め込んで精妙なアンドロイドを製作した経緯が述べられる。傍線部の「こうした」には先のaを繰り込み、「aを再現することの方が/顔かたちの似姿以上に(Y)/アンドロイドを本物の人間であるかのように感じさせる上で訴求効果が高い(Z)」などとまとめればよい。
 
だが、なぜそのX(a)と比較する上で、「顔かたちの似姿」が挙げられるのか。それについては、本文で改めて述べられない自明の事柄である(かといって全ての想定読者に自明の事柄が読み取れているとは限らないから設問になりうるのだが)。それが設問で問われている場合、その自明性に隠れたその表現の必然性を明示する必要がある。なぜ、「顔かたちの似姿」が一般に「人間の「存在感」に直結している」(Z)と考えられるのか。それは「顔かたち」こそ一般的に「人間を個的に識別する部位」(b)であるからである。このbをYの修飾に置いて、最終解答とした。
 
 
〈GV解答例〉
人間を個的に識別する部位にあたる顔かたちを似せること以上に、何もしていないときの人間のかすかな動きを再現することの方が、アンドロイドを本物の人間であるかのように感じさせる上で訴求効果が高いということ。(100)
 
〈参考 S台解答例〉
何もしていないときの人間のかすかな無意識の動きを再現したアンドロイドの微小動作は、人間の外見に似ている以上に、人間と対面したときに感じるような実在感に通じているということ。(86)
 
〈参考 K塾解答例〉
人間に似たロボットを作ろうとして人工筋肉を用いて実現させた、何もしていないときの人間に起こるかすかな動きは、外見的な類似性よりも、ロボットに人間らしさを与えるということ。(85)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
アンドロイドは人間に限りなく近いロボットを目指して作られるが、それが人間らしいかどうかを決めるのは、見かけが人間に似ているということよりも、何もしていないときの人間のかすかな動きをどれだけ再現できるかであるということ。(109)
 
 

問3「対面的磁場の根底にはこれがある」(傍線部C)とあるが、「これ」とは何か、説明せよ。(3行)

内容説明問題。「何か」という問いには、原則、名詞で答える。傍線部を含む一文で把握すると「この「ゆらぎ」が肉眼で見える運動であるはずないが(a)/対面的磁場の根底にこれがある(傍線部)/と考えるのは…想像力を刺激する仮定である(b)」となる。こう見ると、「これ」と対応するのは「この「ゆらぎ」」であることが分かる。ここから2文遡り、「この「ゆらぎ」」とは「熱ゆらぎ=ノイズ」(c)であり、それは「この運動」を承けるから、ここから④段冒頭の2文で筆者が準拠する柳田の説明「…生体は分子レベルでつねに「ゆらいで」いる/筋肉のなかではアクチンとミオシンが「ふらふらと動いている」…」(d)も踏まえることとなる。以上より「生体の筋肉中の分子が不断に揺れ動くことから表出する(d)/不可視の(a)/ノイズとしての熱ゆらぎ(c)」(X)と「これ」の中身はまとめられるが、まだ1行以上書くことのできるスペースが残る。
 
そこで、今度は傍線部自体とbを踏まえ、「これ」=Xに対する筆者の捉え方を付加的な情報として加え、「対面的磁場の根底にあると筆者が推測するもので→X」としてみる。ただ、「対面的磁場」(筆者の造語)をそのまま使うのも脳がないので、筆者の説明に従い(「対面的磁場に由来する倫理性/対面的磁場、すなわち倫理性の成立」(⑧))、「対面する人間に配慮することの根本要因にあると筆者が推測するもので→X」と書き換えておいた。
 
 
〈GV解答例〉
対面する人間に配慮することの根本要因であると筆者が推測するもので、生体の筋肉中の分子が不断に揺れ動くことから表出する、不可視のノイズとしての熱ゆらぎ。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
生体の筋肉のなかが分子レベルでつねにゆらぎを起こし、無意識的な微小動作として身体の表面に現れるノイズとしての熱ゆらぎのこと。(62)
 
〈参考 K塾解答例〉
肉眼では見えないが、生体はこれを積極的に活用して僅かなエネルギー消費で生存している、分子レベルでの生体のゆらぎ運動のこと。(61)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
肉眼では見えないが、筋肉がつねに分子レベルで動いていることによって、生体自体もつねにゆらぐように運動していること。(57)
 
 

問4「成功したアンドロイドのまなざしに人はたじろぐ」(傍線部D)とあるが、それはなぜか、理由を説明せよ。(3行)

理由説明問題。傍線部は⑥段末文にあり、「ところで(話題転換)」で始まる⑤段落からが解答根拠となる(⑦段落は「もう一点」で始まり、⑤⑥パートと⑦⑧パートが並列関係となっている)。このパートは石黒製作のアンドロイドの「対面実験」に準じて、筆者が論を展開する箇所である。その実験の結果で「被験者は対面相手が従来型のロボットのときだけ目を反らさない/相手がアンドロイドなら目を反らした、つまり人間に対するときと同じ反応をした」(X)という記述が直接の根拠となる。そして、この記述の前提には石黒からの引用「目をそらすという動作が出てくるのは、相手が人間で、互いに社会的な関係があるときだと言われている」(Y)があることを踏まえる。
 
つまり「人間には対面する相手を人間だと感じた場合に限り相手の目から目を反らす習性がある」(Y)が根本理由(前提)、「アンドロイドでも人間らしさを感じるものならばその習性が働く」(X)が「成功したアンドロイドのまなざしに人はたじろぐ」(G)ことの直接理由となる。解答は「YのでXから(→G)」と構成する。
 
 
〈GV解答例〉
人間には対面する相手を人間だと感じた場合に限り相手の目から目を反らす習性があるので、アンドロイドでも人間らしさを感じるものならば、その習性が働くから。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
人間に酷似したアンドロイドのまなざしは、人間のような社会的な関係を意識させ、目をそらさせてしまうほど人間に似ていることに人は驚くから。(67)
 
〈参考 K塾解答例〉
何もしていないときの人間に起こるかすかな動きを実現できたアンドロイドが、それを前にした人間に、自分とそれとの間に社会的な関係が生じたと感じさせるから。(75)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
人間に近いアンドロイドと対面した人間は、アンドロイドとの間にも社会的関係があるように感じるために、その目を見ていると、人間の目を見続けられないのと同じ感覚になるから。(83)
 
 

問5「ここでも、生きた人間であることの証が、対面性とかかわる部分で考えられている」(傍線部E)とあるが、それはどういうことか、説明せよ。(6行)

内容説明問題。まず「ここでも」について、傍線部の前部を根拠に具体化する。並列の「も」は「ここ」(Y)の前に、もう一つ「生きた人間であることの証が〜」と言えるXがあることを示唆する。このXとYとの並列関係は、前問で指摘した⑤⑥パートと⑦⑧パートとの並列関係と対応する。これを踏まえると、「人間に酷似したアンドロイドに/容易に触れることができない(Y)」(⑦)に対し、Xは「その目を直視できない」ということになる。そしてYであることの原因を、⑧段冒頭で「(いうまでもなく)対面的磁場に由来する倫理性」とするわけだが、これはXの原因に当てはめてもだろう(「目をそらす動作が出てくるのは…社会的な関係があるとき」(⑤石黒の引用)、「アンドロイド作りの成功度は…対面的磁場を成立させるか否かにかかっている」(⑥))。以上より解答の前半部を「人間に酷似したアンドロイドに対し/その目を着信できないのと同様(X)/容易に触れることができないのも(Y)/対面的磁場に由来する倫理性が働くからである」とまとめる。
 
これで長い解答(6行)の前半部ができた。そこで「対面性(に由来する倫理性)」(P)についての指摘ができたわけだから、ここから「生きた人間であることの証」(Q)につないだらよい(「生きた人間」というのは、傍線前文の例より、触れる(触れない)対象についてであることを確認したい)。これについては傍線部の後部「対面的磁場、すなわち倫理性の成立に、文字どおりの対面が必要であるわけではない(a)/しかし対面時には倫理性のハードルはより高い(b)」を参照し具体化すればよい。すなわち「倫理性の成立には対面性は必須の条件ではないが(a)/対面に際してはその基準は高まる(b)」、よって「対面で触れることへのためらいこそが(P)/対象の人間らしさを裏づけるものだ(Q)」とし、先述の解答前半から続けるとよい。
 
 
〈GV解答例〉
人間に酷似したアンドロイドに対し、その目を直視できないのと同様、容易に触れることができないのも、対面的磁場に由来する倫理性が働くからである。倫理性の成立に対面性は必須の条件ではないが、対面に際してはその基準が高まるので、対面で触れることへのためらいこそが、対象の人間らしさを裏づけるものだということ。(150)
 
〈参考 S台解答例〉
相手の目を直視し続けることができず目をそらすことと同じように、相手の身体に触れることをためらうという行為もまた、相手との間に社会的関係を感じとらせるという対面的磁場に由来する倫理性によるものであることは、人間が生きていることの証明になっているということ。(127)
 
〈参考 K塾解答例〉
人間のかすかな動きを実現できたアンドロイドが、それに対面した人間の目をそらさせるばかりか、人間が触れることまでもためらわせるところからわかるように、目の前の対象がモノではなく本物の人間かどうかを判定する根拠が、対面する人間とそれの間に社会的な関係や倫理性が生じたかどうかで考えられているということ。(149)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
人間に近いアンドロイドと対面した人間は、その目を直視し続けられないのと同様、容易に触れることもできない。このことが示しているのは、人間が目の前の存在を生きた人間と感じる条件に対面性が関係しているということだが、その対面性の根底には、身体の微細な動きの感知があり、それが、相手をモノのように扱ってはならないという倫理性を生んでいるということ。(170)
 
 

問6「ここに来て、「なぜ(何から何まで)似ていなければいけないのか」という問題意識へと大きく舵を切ったように見える」(傍線部F)とあるが、それはどういう「問題意識」なのか、具体的に説明せよ。(4行)

内容説明問題。ここで問われているのは、(筆者が推察するところの)石黒の「問題意識(issue)」なわけだから、それに対する石黒の解答(solution)まで加えるのは悪手である。「〜という問題意識(Y)/へと大きく舵を切った」という表現を踏まえると、その前の問題意識(X)との対比で、Yを具体化するのが、本問の主眼である。
 
そこでX「なぜロボットが人間に似ていてはいけないのか」とY「なぜ(何から何まで)似ていなければいけないのか」のそれぞれ意味するところはどういうことか。Xについては、②段落「ロボット学者の石黒浩によると/人間に似たロボットを作ろうとするときに重要なのは〈見かけ〉に劣らず/〈動き〉なのだという」が手がかりになる。すなわち、ここでの「似ていてはいけない」というのは〈見かけ〉のことを指している。〈見かけ〉よりも「動き〉という認識を元に石黒は「無意識的微小運動」(③)を実現したアンドロイドを制作する。そしてそのアンドロイドに「対面実験」(⑤)を施し、対面した人間と石黒製作のアンドロイドからは被験者が目をそらすという結果を得たのだった(⑥)。人間であることを(アンドロイドが人間らしくあることを)担保するのは対面性(筆者の言うところの「対面的磁場」)。ならば「人間との外面的な類似要素を最小限にまで切り詰めた「最低限の人間」」(⑨)には、〈見かけ〉は似ている必要はない(X)から転じて逆に、〈見かけ〉の何と何だけが必要か、これがYに対応する問題意識(issue)であろう。
 
その問題意識に対する石黒の解決は最終⑩段落に述べられるように「目と、開閉がわかる程度の口」。その後に続けて筆者は「そしてそれは、結局のところ、対面性を実現すれば足りるということであったように私には思われる」と述べ、「対面性」というキーワードを確認し、本文を締めている。以上の考察より、あくまで筆者の推察するところの石黒の問題意識なので、この「対面性」というワードを中心に繰り込んで解答したい。「人間に限りなく近いロボットを作ろうとする中で対面性こそが人間らしさを担保するという認識に至った石黒による(X)/ロボットでその対面性を実現するためには最低限、人間のどの部位を残す必要があるのかという問題意識(Y)」とまとめた。
 
 
〈GV解答例〉
人間に限りなく近いロボットを作ろうとする中で対面性こそが人間らしさを担保するという認識に至った石黒よる、ロボットでその対面性を実現するためには最低限、人間のどの部位を残す必要があるのかという問題意識。(100)
 
〈参考 S台解答例〉
アンドロイドを人間らしくするには、容姿などすべてを真似る必要はなく、人間を感じさせる最小の要素である目や口を人間に似せ、対面性を実現すれば足りるのではないかという問題意識。(86)
 
〈参考 K塾解答例〉
対面的な状況においてロボットが人間らしく見えるには、〈人間〉を感じさせる最小の要素である目の動きがあればよいのではないかという、人間に似たロボットを作ろうとしてきた石黒の問題意識。(90)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
アンドロイドに人間らしさをもたせるには、外面的な類似性を限りなく追求する必要はなく、十分に人間らしい目と最低限の口といった、人間らしさを感じさせる最小の要素によって、対面する人間に社会的関係や倫理性があると思わせるだけでよいのではないかという問題意識。(126)