今年度の全体像

昨年同様に多量の英文を処理しなければならないことに加えて、設問には様々な工夫が施されていた。設問は素直なものが多い印象であったが、語数増加に加え、一部大問の素材文で語彙レベルが上がり、選択肢の言い換えが巧妙化したことで、読解、解答の両方で時間がかかるため、テスト全体の難易度は上がった。

 

1.問題量
 昨年同様、ブログや広告などの日常的な素材から、物語文、論説文に至る多様な英文が出題された。設問、素材文を含めた英文の総語数は昨年から200語程度増加し、約6300語に上った。特に、第5問の物語文は約1000語と、単独の素材文として過去最長のワード数となり、受験者は処理に苦労しただろう。


 

2. 出題形式・設問分析
 問題形式は大問6つの構成で、設問数39、解答数49と昨年と変化はない。
 設問のほとんどは4〜5つの中から適切なものを1つ選ぶものであった。
特殊なものとして、①出来事の順を問うものが2題(第3問B、第5問)、②適切なものを複数選ぶ問題が3題(第5問、第6問AB)、③不適切なものを選ぶ問題が5題(第2問A B、第3問B、第4問、第6問B)、④推測を要する問題も5題(第2問A、第3問AB、第6問AB)、それぞれ出題された。

 

①、③に関しては素材文中の複数箇所を参照しなければならず、②は完全解答を求められるため、受験者への負担は大きい。④は手がかりとなる箇所を足場に、全体的な内容から容易に正解の選択肢を特定できるが、素材文の語数増加に伴い、まともに読むこと自体が難しくなりつつあるため、多くの受験者にとっては難問である。

 

今年度は、問題のリード文や添付されている表などから解答に必要な箇所を見つけやすい問題が多く、多くの設問は比較的「素直」であったと言える。しかし、たとえ対応箇所を特定しても、ほぼ全ての選択肢が素材文中の表現を巧妙に言い換えたものとなっている。それにより真偽の判定に時間を要し、素材文の語数増加とあわせて今年度の試験の難易度を上げる要因の1つとなった。

 

大問別分析

今年度の問題は、おそらく、来年度の新課程試験を意識し作問しているはず。特に、第4問と第6問Aの素材文、設問は来年度試験の試作問題を意識したであろう出題となっている。共通テストと言えば、ひたすら情報処理、つまり、単文レベルの情報を探す問題が多いのだが、新課程試験においては、文同士のつながり、段落単位での内容理解、複数段落にまたがる内容の相違点や共通点、文章全体の構成の理解など、センター試験で出題されていたような問題が、見た目を変えて復活するかもしれない。


 

第1問(配点10 設問数5)
A・Bともに日常的題材の素材からの出題。
Aは「語学学校の国際交流」についてのチラシ、で設問は2つとも解きやすい。Bは「ある町をめぐる3種類のツアー」についての配布資料を題材にした問題。全ての設問で資料全体に目を通さねばならず、解答に時間がかかる。特に、問3のthe newest placeを尋ねる問題では、資料中のlast fall 「昨秋」が見つけづらかったようである。

 

第2問(配点20 設問数10)
Aは「戦略ゲーム部」を紹介するチラシ、Bは「旅行保険」についてのレビューを題材にした問題であった。A、Bともに設問に必要な情報は見つけやすいが、ほぼ全ての選択肢が巧妙に言い換えられており、不適切なものを選ぶ問題、組み合わせを選ぶ問題も出題されていることで、解答には時間を要する。特にAの問3、問4ではチラシの中の表現が大幅に言い換えられているものが正解のため差がついたと思われる。

 

第3問(配点15 設問数5)
Aは「日本に滞在したイギリス人のブロブ」、Bは「仮想旅行」に関する学校新聞の記事が題材であった。A・Bともに物語調で読みやすく、設問も解きやすくかった。Bの問1に時系列を問う問題、問3に推測を要する問題だったが、内容が理解しやすいため苦労はしない。


 

第4問(配点16 設問数5)
「快適な教室環境を作るための手がかり」に関する記事と、大学の英語部のアンケート結果からの出題。設問は与えらたハンドアウトの空欄を埋めていく形式で、対応する箇所が探しやすいため解きやすい。

 

第5問(配点15 設問数5)
今年度の鬼門となった問題。昨年度より素材文の語数が300語増加して約1000語に達し、過去最長となった。その割に、同じ物語調の第3問と配点が同じため、やや「コスパ」の悪い問題に感じるのではないだろうか。
「卒業から20年後に再開した3人の友人」に関する物語文からの出題。昨年同様、英文に添付された資料の空欄を埋める問題であった。3人の登場人物のエピソードを1人ずつ紹介する形で展開しており、それぞれのエピソードが♦︎ ♦︎ ♦︎で区切られ、話題の転換が認識しやすいため、「時系列が乱れている」というほどのものではない。ただし、物語文に慣れていない人には特有の読みにくさを感じるようである。設問は5問とも、全体像を理解できておればそれほど難しいものではないので、ただただ時間との戦い。

 

第6問(配点24 設問数9)
A、Bともに説明文を素材にした出題で、文章に添付された資料の空欄を埋めていく形式。
Aは「時間に対する認識」に関する文章が題材であった。段落単位の内容を問う問題が多く、取り組みやすい。問3、問4では本文中の第2段落、第3段落の主題である、異なる2つの時間認識を取り上げ、それぞれに対する本文中にはない新しい例を選ばせる問題であった(過去にもセンター試験で出題されたことがある)。今年度は全ての問いが段落単位での内容理解を促す問題で、新課程試験を意識して作問しているようである。
Bは「チリペッパー」に関する論説文からの出題。プレゼンテーションの資料中の空欄を埋める形式だった。やや語彙レベルが高いが、全体としては読みやすい。設問は、ワサビとの比較や、チリペッパーの利点と欠点、文章全体の結論を問うもので、総合的な読解力を要する問題であった。

 

対策

今年度も含め過去4回の英語リーディングの傾向を踏まえれば、1. 様々なテクストタイプの英文を素早く読み解く力と、2. 設問・選択肢に合わせた解答の際の臨機応変な対応力が求められている。

 

1. 読解のナチュラルスピードを上げる
 ①語彙力、構文を正確に把握する力は必須
 ②テクストタイプに合う読み方を身につける
 ③多読・多聴


 

①語彙力、構文把握能力
英文の意味を正確に把握する必要があるので、最低でも高校の教科書レベルの語彙力と、文法構造に則した正確な読み方をマスターしなければならない。試験では多量の英文を処理しなければならないので、返り読みせず、書かれている順に読んで理解できる読み方を身につけること。リスニングと並行してやると効率的に訓練できる。

 

②テクストタイプと読み方
広告や留学の案内、物語文、論説文・説明文では書かれている目的が異なるため、様々なタイプの英文に触れながら、タイプごとの読み方を身につける必要がある。

 

a. 広告・案内文(第1問、第2問、第4問など)は日常生活を想像すればわかるように、特定の情報を探して読むはず。試験において知りたい情報とは設問で問われていることに他ならないので、設問の要求に素早く答えるために、タイトルや見出しを手がかりに細かな情報を探す訓練をしよう。


 

b. 物語文(第3問、第5問)は、一文ずつ丁寧に読み進めながら、登場人物、場面と時系列、行動とそこから読み取れる感情などの理解・整理に努める。そして、読み終えた際に、物語のオチが読み取れているかがチェックポイントとなる。

 

厳しい言い方になるが、物語において飛ばし読みは通用しない。通例、単純な構文で書かれているし、共通テストに出題される物語は展開とオチが理解しやすいものしか出題されてない(これは今年度:2024年度でも変わらない)。したがって、丁寧に読んでも意外と時間はかからないで心配しなくても良い。ただし、小説の読解には多少の慣れが必要なため、センター試験の過去問などを利用して、一気に読んで内容を理解する訓練をしよう。


 

c. 論説文・説明文(第4問・第6問)では、特定の問題や物事に対する解説を目的としており、語彙・構文ともにやや難しく、英文全体の分量も多い傾向にある。しかし、語彙と構文がクリアできておれば、論理的にわかりやすく展開が単調なため、理解するのはそれほど難しくない。

 

この種の英文に対しては、英文全体のテーマと筆者の見解を把握し、そのサポート部分を段落ごとに整理しながら読み進める必要がある。練習としては、段落を1つ読むごとにその段落の要約を作る練習をするのが有効。センター試験の論説文問題には各段落の要旨を問う設問があるので、ぜひ活用しよう。

 

③多読・多聴
やみくもに量を重ねても効果は薄く、何より時間がかかる。上記の①・②と並行して、質を高めながら量もかせぐこと。

2.設問の要求を見抜き臨機応変な対応力を鍛える
今年度の試験が難化した主要因は、①大幅な語数増加、②選択肢の言い換えの巧妙化、③不適切なものを選択する問題の増加が挙げられる。いずれも受験者の貴重な時間を奪うための仕掛けである。

 

①・③→内容理解と情報検索を両立させよう
共通テストの設問は、素材文のテキストタイプに相応しい設問が用意されている。つまり、タイプごとの読み取りができていれば、設問で要求されていることが自ずとわかってしまうことが多い、ということになる。

 

②言い換えに慣れよう
ほぼすべての選択肢が素材文からの言い換えをベースに作られていることを前提としよう。有効な対策としては、何よりも語彙力を増強すること。次に、日常的に読む英文中の語句・表現の言い換えを意識的に探して、些細なものでも見つけられるようにしよう。さらに、共通テストやセンター試験の過去問題を通して、実際にどの程度の言い換えが施されているかを体感することも重要。解答に際しては間違いを含む選択肢を除外していく消去法も有効な手段となるので、それも合わせて練習しておくこと。