傾向と対策

① 史料・図表・リード文の情報と必要な歴史的知識を発見し、その組み合わせにより正答を導かせる問題が顕著である。
② ひねりの入った時代整序問題が第6問以外の各大問に設けられた他、時期の特定が必要な問題が顕著である。

 

こうした傾向は、以下の小問形式の分布とも対応している。

 

A. 正答組み合わせ問題→21問(67点)  
 A-1. abcd型→7問(23点)  
 A-2. XY型→5問(15点)  
 A-3. XY-abcd型→4問(13点)  
 A-4. 空欄補充型→5問(16点)

B. 正文・誤文単純選択問題→6問(18点)  
 B-1. 正文選択型→4問(12点)  
 B-2. 誤文選択型→2問(6点)

C. 時代整序問題→5問(15点) 

 

従来のセンター試験ではB形式が大半を占めていたが、共通テストではA形式が6割以上を占め、A形式の問題に①の傾向が対応している。またC形式においても、文化史や史料の並び替え、事象の特定が必要なものなど、質的にも特色が見られる。

 

こうした傾向を踏まえ、今後次のような対策を心がけなければならないだろう。 
① 基礎的な知識の習得が必要なのはもちろんだが、分野(政治・外交・経済・社会・文化)を横断する歴史的な視野を身につけること。 
② 前近代においては半世紀単位、近代においては10年単位を目安として時代ごとの特徴をつかみ、歴史的展開の必然性を理解すること。 
③ 古文書を抵抗なく読みこなす能力、複数の資料から必要な情報を抽出する能力を、日頃の学びの実践の中で磨いておくこと。

 

 概して、歴史を知識の暗記として捉える学習には限界があるようだ。知識を先人が与えた結果としてのみ捉えるのではなく、先人と同じく歴史考究の場に身をおき、歴史的な知を確定する作業のミニチュアを、学習者にも再体験させようという願いが見てとれる。

 

〈大問別講評〉

第1問(テーマ史「印刷の歴史」18点)
問1は傍線部の事象が「恵美押勝(藤原仲麻呂)の乱」を指すと把握した上で、その時期を特定する問題。問2は時代整序問題。Ⅰが「三浦の乱(1510)」、II が「文禄・慶長の役(1592,97)」、Ⅲ が「応永の外寇(1419)」であると特定する必要がある。問3古文書の読み取りだが、注を参考にすれば難しくない。問4は活字印刷術の伝来と『吾妻鏡』についての基本的な知識。問5は『蘭学階梯』の著者、天保の改革で処罰された人情本作家についての基本的な知識。基本的な知識は組み合わせで問われる。問6は明治の出版についての史料の読み取りと知識問題の組み合わせ。

 

第2問(古代史「日本古代の食物」16点)
問1は弥生土器の「甕」と「甑」を写真と脚注により見分け、それについての説明の正誤を答える問題。問2は「調」の品目「塩」の納入の説明ついて、古文書と表によりその正誤を判断する問題。問3は時代整序問題。Ⅰ「高松塚古墳壁画」、Ⅱ「寝殿造」、Ⅲ「鳥毛立女屏風」がそれぞれどの時代の文化に属するか特定する必要がある。問4は古文書と写真、それについての対話の情報から誤文を選ぶ問題。明確な誤りがあり容易。問5は「平城京跡出土木簡」『日本三代実録』『枕草子』、それぞれの時代と対応する説明を選ぶ問題。延喜年間(10C初)成立の『日本三大実録』と「伴善男(→866応天門の変)」「藤原陳忠(→強欲な受領、10C後)」との前後関係を見抜きたい。

 

第3問(中世史「中世社会の特色」16点)
問1は時代整序問題。各文が「承久の乱(1221)」「室町幕府による京都市政権の把握(14C後半)」「悪党の発生(13C後半)」を指していることを把握する必要がある。問2は「永仁の徳政令」の基本的な理解に加え、史料2が「永仁の徳政令」の「読み換え」であることを見抜く必要があった。すなわち元の持ち主への「返還」を求める規定を「返還の拒否」の根拠としているのである。問3は『神皇正統記』の著者と『菟玖波集』の編者についての基本的な知識。問4は分国法について、X「家臣が領国外の武士と結びつくことを警戒」、Y「家臣同士が自ら武力で争うことを禁止」という規定の元になる史料を選ぶ問題。問5は「実力を行使して問題を解決しようとする事例」を選ぶ。容易。

 

第4問(近世史「近世の輸出入品と社会・経済との関係」16点)
問1は「木綿」の国産化に至る過程、「銀」の輸出について。問2は時代整序問題。「ポルトガル船の来航禁止(1639)」に至る経緯として、「キリスト教の禁止」→「ヨーロッパ船の寄港地を長崎と平戸に限定」→「島原・天草一揆」と並べる。始めの2つが紛らわしいが、「禁教」に対して「貿易」については、当初その利益面から寛容だったことを踏まえるとよい。問3は「俵物の輸出」についての基本的な事柄。問4は「砂糖」について史料から読み解く問題。問5も史料の読み取り。史料にある綿業の専業化(19C前)が、「定免法(→享保の改革18C前)」の時期とズレることは事前の知識より導く必要がある。

 

第5問(近代史「明治はじめて物語」12点)
問1は貿易開始に「兵庫」が含まれないことと、史料読み取りの組み合わせ。問2はグラフの読み取りと、「改税約書(1866)」についての基本的な知識の組み合わせ。問3は「国立銀行条例」とその改正について、知識と史料を組み合わせて解く。問4は「フェノロサ」「政教社」「民法」「太陽暦」についての基本的な理解を問う。

 

第6問(近現代史「第一次・第二次世界大戦後の日本と国際社会」22点)
問1はワシントン会議について、X「調印された条約の一部」、Y「破棄された条約の一部」にあたる史料をそれぞれ選ぶ問題。問2は「パリ不戦条約」に調印した内閣(→田中義一内閣)の行った政策についての正誤問題。問3は満州事変勃発後の方針について、史料から満蒙の中国からの引き離しを企図しながら、国際社会(特に米英)との深刻な対立も避けようとする矛盾した姿勢を読み取る必要がある。問4は満州事変以降の「独伊との連携」「近衛声明」「日ソ中立條約」「対米関係」についての基礎的な理解を問う。問5は占領期における社会・文化についての誤文選択。容易。問6は時代整序問題。「MSA協定(1954)」→「安保改定(1960)」→「沖縄返還協定(1971)」と並べる。近現代の時代整序は狭い間隔で問われるので、歴史的な事柄と因果の正確な理解はもちろん、主な年号も暗記しておきたい。問7はサンフランシスコ講和会議への各国の対応(調印せず、出席せず、招待されず)と戦後日中関係についての基本的な理解が問われている。