【第1問】小問集合
全問とも基本を理解していれば解ける問題ではある。だが、問題文の条件の理解が不十分だと間違った解答をしてしまう。例年の第1問と比べるとじっくり考える問題や、計算量の多い問題もなく解きやすいように感じられる。
(1)ボイルシャルルの法則の基本的問題であるが、与えられる物理量を取り違えやすい。公式に代入するだけの問題こそ慎重に確認する必要がある。
(2)万有引力の式を作るだけの問題で立式は容易い。選択肢は一桁の整数なので有効数字に配慮しつつ手早く計算したい。
(3)平行な力の合成を行うが、モーメントのつりあいだけで考えると向きを間違えてしまいやすい。力を合成するとはどういうことか基本の理解が重要である。
(4)電子が電場や磁場からされる仕事について問われていることに気付かないと題意が把握出来ない。
(5)電子線ではあるが、X線と同じと書かれているのでブラッグの反射の条件を利用すればよい。原子分野なので苦手意識をもつ人も多いが、基本公式の問題であった。
【第2問】単振り子
単振り子についての問題である。微小角の振動を近似を用いて単振動に置き換えることは、教科書に載っている基本内容であるが、使っている文字が独特なので公式だけ覚えてその導出過程を理解していないと難しく感じるかもしれない。また問3、問4で問われいる内容は、物理に関する知識ではなく実験を行う際の注意点であった。問題文を慎重に読んでいかないと何について答えるべきかが分かりにくかっただろう。レーザーが出てくるが光についての考察ではなく、振り子が横切る時間を測定しているだけであった。その判断ができず飛ばしてしまった人もいたであろう。
【第3問】
A .熱力学
共通テストの試行調査でも扱われた交流電流による弦の振動の発生であるが、電流が磁場から受ける力の向き以外は弦の振動に関するものであった。表やグラフを利用して解答していくというよりも、弦を伝わる波の速さの公式を知っておりそれから得られる結果を確認する、という流れで解答した人が多いのではないかと思われる。表やグラフで得られる情報のみで判断するのは数学的な処理となるため、苦手な人には難しいだろう。
B.波動
2つの同位相の波源から出る平面波の干渉についての問題であった。グラフから波の要素を見つける、合成波の波形などは物理基礎の内容であった。問6ではいわゆる波を表す式が出てくるが、その導出が問われることはなくその式を利用して強め合う条件を求める問題となっていた。強め合うとはどういうことかの判断が出来れば解答を導けた。これを計算で無理に進めようとするのは難しいだろう。問題の誘導に的確に反応する必要がある。
【第4問】電磁気
磁場のある空間で平行なレールの上を導体棒を動かすという一見すると基本的な問題だが、前半ではコンデンサー後半はコイルの過渡現象についての問題であり難しい問題であった。
数式での処理は高校範囲では不可能であるが、自己誘導の式とグラフの接線との関係は微分の概念から導くものであり慣れていないと難しい。電磁誘導という現象について、深い理解が必要であり難しいと感じた人が多かったであろう。2次試験レベルの問題での演習をこなしている必要があった。
【全体概要】
新課程初年度であるが、物理には学習内容に大きな変化がないため共通テストにおいても例年通りと予想されていたが、実際その通りとなった。
難易度そのものは大きく変わったということは無いが、問題の設定を正しく理解出来なければ解答が難しい問題が多かった。落ち着いて問題文を読めば読み取れたことも、試験本番での緊張などで力を出し切れなかった人も多かっただろう。
共通テストのテーマである身近な現象に対する物理的考察という特色は薄かったように感じる。だが、実験する際の工夫や結果から得られる情報についての判断など、知識だけでは対応が難しい問題もあった。
また今回の選択肢について、次元の確認を行うことで消去出来るものがいくつかあった。これだけで正解は出せないが答えの確認は出来る、また全くわからないから勘で答えるという場合には正解の確率が高くなる。共通テストのような選択肢の問題で使えるテクニックである。
【今後の学習について】
これから物理の学習を始めるという人は、学習内容と自分の手の届く範囲、目に見える世界との関連性を意識して紐付けていって欲しい。万有引力と天体の運動、急ブレーキがかかった車の中、スマホのワイヤレス充電など私たちの身の周りには様々な物理現象が起こっており、その影響下で生活していることに気付くだろう。定性的に理解していることを、定量化して数式で表すことが出来ればさらに理解が深まり物理の勉強が楽しくなる。
来年の受験に向けてこれからスタートをする人は、共通テスト対策だからといって始めから過去問を解くだけの勉強をしてはいけない。そういった問題演習は模試などで時間を意識して行いたい。選択肢から正解を選ぶというのも立派なテクニックであるが、まずは自分の手を動かして頭で考えて答えに辿り着けるようにしたい。それを繰り返すことで自然と物理量の関係性や、次元の概念なども身についていくだろう。
数学・理科担当 砂川多津男