目次

    1. 〈本文理解〉
    2. 〈蚭問解説〉問䞀 私は黙っお障子を閉めるこずにした(傍線郚ア)のはなぜか、考えられる理由を述べよ。(60字皋床)
    3.  問二 それたで自分の呚囲のみが仄かに明るいずだけしか感じられなかった埗䜓のしれない、暗い倧きな䞖界ずの、初めおの出逢いを果たす(傍線郚む)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)
    4. 問䞉 文䞭の短歌鬌なるこずのひずり鬌埅぀こずのひずりしんしんず菜の花畑なのはなのはな(傍線郚り)に衚珟された情景を、簡朔に説明せよ。(60字皋床)
    5. 問四 ずっず私はひずり遊びの䞖界の䜏人であった(傍線郚゚)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

〈本文理解〉

出兞は河野裕子ひずり遊び(『たったこれだけの家族』より)。筆者は歌人で本文䞭の短歌も筆者の自䜜である。

①②段萜。熱䞭、倢䞭、脇目もふらない懞呜さ、ずいうこずが奜きである。䞋の子が䞉歳、ハサミを䜿い始めたばかりの頃のこず。晩春の倕ぐれ時、四畳半の郚屋の䞭に新聞玙の切りくずが錯乱し、もう随分長いこず、シャキシャキずハサミを䜿う音ばかりがしおいた。䞋の子は、切りくずの䞭に埋たっお、指先だけでなく身䜓ごずハサミを䜿っおいた。道具ではなくお、ハサミが身䜓の䞀郚のようにも芋えた。自分のたおるハサミの音のリズムずいっしょに呌吞しながら、ただただ䞀心に玙を切っおいる。呌んでも振り向く様子ではなかった。熱䞭。胞を衝かれた。私は黙っお障子を閉めるこずにした(傍線郚ア)。倕飯は遅らせおいい。

③⑥段萜。このようなこずは、子䟛にずっおはあたりたえのこずではないだろうか。倧人たちは、子䟛の熱䞭しお遊ぶ姿にふず気づくこずがある。そしお胞を衝かれたりもする。しかし、ず私は思う。私自身の子䟛時代に范べれば、今の子䟛たちは、遊びぞの熱意が垌薄なように思われおならない。子䟛時代の遊びを思い出す。(äž­ç•¥)。より倚く思い出すのは、ひずり遊びのあれこれである。私が真に熱䞭しお遊んだのは、ひずり遊びの時だったからである。

⑊⑧段萜。おそらく子䟛は、ひずり遊びを通じお、それたでの自分の呚囲のみが仄かに明るいずだけしか感じられなかった埗䜓のしれない、暗い倧きな䞖界ずの、初めおの出䌚いを果たす(傍線郚む)のであろう。䞖界ずいうのが倧づかみに過ぎるなら、人間ず自然に関わる諞々の事物事象ずの、なたみの身䜓たるごずの感受の仕方ずいうこずである。その時の、鮮烈な傷のような痛みを䌎った印象は、生涯を通じお消えるこずはない。ひずり遊びずは、察象ぞの没頭なのであろうず思う。時間を忘れ、呚囲を忘れ、䞀枚の柿の葉をいじったり、雚あがりのなたあたたかい氎たたりを裞足でかきたわしたりするのが子䟛は奜きなのである。なぜかわからない。けれどそれらは䜕ず深い、他に范べようもないよろこびだったこずだろう。

鬌なるこずのひずり鬌埅぀こずのひずりしんしんず菜の花畑なのはなのはな(傍線郚り)

⑚段萜。菜の花畑でかくれんがをしたこずがあった。菜の花畑は子䟛の鬌には䜙りに広すぎた。䞃歳の子䟛の探玢胜力を超えおいた。私は鬌を埅っおいた。䜕十分も䜕時間も埅っおいた。埅぀こずにすら熱䞭できた子䟛時代。ゆっくりゆっくり動いおゆく時間に身を浞しおいるずいう識閟にすらのがらない充足感があったにちがいない。時代も倧どかに動く時間の䞭に呌吞しおいた。倧きな自然の䞭に、人間も生きおいられたのである。菜の花畑のむこうにれんげ畑、れんげ畑のむこうに麊畑があり、それらは遠くの山すそたで広がっおいるはずだった。

⑩段萜。子䟛時代が終わり、少女期が過ぎ、倧人になっおからも、ずっず私はひずり遊びの䞖界の䜏人であった(傍線郚゚)。䜕かひず぀のこずに熱䞭し、心の力を傟けおいないず、自分が䞍安で萜ち着かなかった。こうした私の性癖は、生き方の基本姿勢をも次第に決定しおいったようである。考え、蚈算しおいるより先に、ひたぶるに、䞀心に、暎力的に察象にぶ぀かっお行く。珟圚の私は、実人生よりも、歌䜜りの䞊で、はるかに匷く意識的に、このこずを実践しおいる。䞀銖の歌のために幟晚培倜しお励んだずしおも、よそ目には遊びずしか芋えないだろう。然り。䞀芋圹に立たないもの、無駄なもの、䜕でもないものの䞭に䟡倀を芋぀け出しそれに熱䞭する。ひずりあそびの本領である。

〈蚭問解説〉問䞀 私は黙っお障子を閉めるこずにした(傍線郚ア)のはなぜか、考えられる理由を述べよ。(60字皋床)

理由説明問題。通垞のなぜか、説明せよではなく、なぜか、考えられる理由を述べよず問うおいるこずに泚意したい。盎接的な蚘述から論理的な掚論を加えお、劥圓な理由を導け、ずいう芁求だろう。盎接的には、ひずり遊びに熱䞭する我が子の姿に(A)/胞を衝かれた(B)から(→障子を閉めた(G))ず理由を構成できる。に぀いおは、同②段萜の具䜓的な蚘述から自力で抜象しおもよいが、ひずり遊びを考察しおいる⑊⑧段萜に着目し、身䜓ごず(⑩)/察象に没頭し(⑧)/ひずり遊びをする我が子の姿に(A)ず説明する。

そのに胞を衝かれた(B)から障子を閉めた(G)には、ただ論理的な飛躍があるから、そこを論理的な掚論によっお埋めるこずが求められるのである。ポむントは぀。぀は、少なくずも、筆者は我が子のひずり遊びを邪魔したくなかった、継続させたいず思った、ずいうこず。だから倕飯は遅らせおいいず思い、障子を閉めたのである。もう぀は、なぜ継続させたいず思ったかずいうこずである。それは、筆者自身の幌少期の蚘憶から、子䟛にずっおひずり遊びはかけがえのない時間だずいうこずを知っおいたからである(⑥段)。以䞊より、→→自らの幌少期の経隓ず重ね→この貎重な時間を継続させたい→(G)、ずなる。

<GV解答䟋>
身䜓たるごず察象に没頭しひずり遊びをする我が子の姿に胞を衝かれ、自らの幌少期の経隓ず重ね、この貎重な時間を支揎したいず考えたから。(65)

<参考 S台解答䟋>
道具ず䞀䜓ずなっお熱䞭する子䟛の姿に、ひずり遊びがも぀貎重さを思い、倧人の自分が安易に介入すべきではないず考えたから。(59)

<参考 K塟解答䟋>
道具ず䞀䜓化しお遊ぶ子䟛の熱䞭ぶりは、倧人が芋過ごしがちな貎重なものであり、そのひたむきな姿に個人的な共感を芚え、それを劚げおはならないず思ったから。(75)

<参考 T進解答䟋>
我が子が道具ず䞀䜓化しお身䜓ごず倢䞭になっお遊んでいる姿に感動を芚え、倧人の自分が声をかけお邪魔をしないで、呌がうずしおいた食事も遅らせおいいず思ったから。(78w)

問二 それたで自分の呚囲のみが仄かに明るいずだけしか感じられなかった埗䜓のしれない、暗い倧きな䞖界ずの、初めおの出逢いを果たす(傍線郚む)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。ひずり遊びに぀いお考察しおいる⑊⑧段萜を芖野に入れ、比喩衚珟に泚意しながら、芁玠に分けお蚀い換える。それたで自分の呚囲のみが仄かに明るいずだけしか感じられなかった(A)/埗䜓のしれない、暗い倧きな䞖界ずの(B)/初めおの出䌚いを果たす(C)。に぀いおは、傍線次文人間ず自然に関わる諞々の事物事象ずの(B)/なたみの身䜓たるごずの感受(C)が蚀い換えずなっおいる。ひずり遊びがこれを可胜にするのである。さらに次の文より、は鮮烈な傷のような痛みを䌎った印象をもたらす。この比喩は䜕を意味するか。なたみの身䜓たるごずの感受であるゆえに、鮮烈な傷のような痛みを䌎うずいうこずだろう。ここでなたみの身䜓たるごずずいうのは、本文では考え、蚈算しおいるより先に(⑩)がヒントになるが、芁するに蚀語的な了解(オリ゚ンテヌション)がないたたに、事物事象ず盎に亀枉する、ずいうこずであろう。それは自分の呚囲のみが仄かに明るい(A)、ある意味自足した䞖界を開くものであるから、鮮烈な傷のような痛みを䌎った印象をもたらす、ずいうこずであろう。しかし、それは同時に他に范べようもないよろこび(⑧)なのでもある。以䞊の理解を解答に盛り蟌む。

<GV解答䟋>
ひずり遊びによっお自己をずりたく未知の事象を身䜓ごず感受し、それたでの自足した自己を切り裂き開いおいくこずに無䞊の喜びを埗るこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
子䟛は自己の領域を超えた向こう偎に、未知の事物や事象の巚倧な広がりが存圚するこずを、党身で鮮烈に感受するずいうこず。(58)

<参考 K塟解答䟋>
今たでは自己の呚囲を挠然ず感じおいただけだったが、諞々の事情を身䜓党䜓で痛切に感受し、それに没入するこずで、鮮やかな印象がもたらされるずいうこず。(73)

<参考 T進解答䟋>
自分の呚囲の小さな䞖界の向こう偎にあっお未知であった人間や自然に関わる事物や事象の真のあり方を、鮮烈な印象を䌎い぀぀、初めお身䜓党䜓で感受するずいうこず。(77w)

問䞉 文䞭の短歌鬌なるこずのひずり鬌埅぀こずのひずりしんしんず菜の花畑なのはなのはな(傍線郚り)に衚珟された情景を、簡朔に説明せよ。(60字皋床)

短歌により衚珟された情景を問う。情景ずは、文字どおり情ず景であり、倖的・客芳的な察象物を超えお心に展開する䞻芳的な颚景をさす。短歌ず盎埌の⑚段萜を行き来しながら、情景を浮かび䞊がらせる。短歌の構造をずるず、鬌なるこずずひずり鬌埅぀こずが䞊列でひずりしんしんず(→ひっそり静かな様)にかかり、それが菜の花畑なのはなのはなにかかる。⑚段萜から景的な郚分を敎理するず、菜の花畑で/かくれんがをする/鬌がいお/隠れる私(ほか)がいる。そこに加わる情的な郚分は、子䟛には広すぎる空間/菜の花畑は山すそたで広がるはず/䜕時間も熱䞭しお埅぀/ゆっくり動く時間に身を浞す/識閟(意識)にものがらない充足感。この情の郚分に短歌のしんしんずずいう芁玠を足し、客芳的な景→䞻芳的な情ずいう圢で(景が情の前提である)、情に重きを眮いおたずめるずよい。

<GV解答䟋>
菜の花畑でかくれんがをする子䟛は、鬌も埅぀偎も、際限のない空間ず悠久の時間に自己を浞し䞀䜓化しお、ひずりの充足感にあるずいう情景。(65)

<参考 S台解答䟋>
かくれんがの鬌も隠れる子䟛も菜の花に埋もれおひずり充ち足り、誰も芋えずにただ菜の花だけが広がっおいる畑の情景。(55)

<参考 K塟解答䟋>
広い菜の花畑で、かくれんがの鬌はひずり倢䞭になっお隠れおいる子䟛を探し、隠れる偎は芋぀けられるこずをひずり埅぀䞭で、時間だけがゆったりず過ぎおいく情景。(76w)

<参考 T進解答䟋>
かくれんがをしながら、それぞれがすべきこずに䞀人で没頭しお、ゆったりず時が流れる䞭で無意識な充足感を抱いおいる、子䟛たちを包み蟌む、広倧な菜の花畑の様子。(77w)

問四 ずっず私はひずり遊びの䞖界の䜏人であった(傍線郚゚)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。内容的に独立しおいる⑩段萜(倧人のひずり遊び)党域を芖野に眮いお、芁玠を具䜓化する。たず、ずっず(であった)ずは、倧人になっおも(継続しおいる)(A)ずいうこずだが、それは傍線埌文より、䜕かひず぀のこずに熱䞭しないず/萜ち着かない/性癖(B)によるのであった。
次に、ひずり遊びの䞖界の䜏人を具䜓化する。これは、もちろん子䟛のそれず違い、倧人のひずり遊びであり、それは歌䜜り(C)の䞊で実践される。その姿勢は、ひたぶるに、䞀心に、暎力的に察象にぶ぀かっお行く(D)もので、䜕でもないものに䟡倀を芋぀け出しそれに熱䞭する(E)(=ひずり遊びの本領)ものである。に぀いおは、これたで繰り返し述べられおいる内容で、察象に没頭するず簡朔に衚す。に぀いおは新たな芁玠だが、これも䟡倀を創出するず簡略化しに続ける。以䞊、によっお解答を構成する。

<GV解答䟋>
䞀事に専心しないず萜ち着かぬ性癖から、倧人ずなった今も䜜歌の䞭で、察象に没頭しお䟡倀を創出するひずり遊びを実践しおいるずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
筆者にずっお歌䜜りは、䜕でもないものに䟡倀を芋぀けお熱䞭するこずで、䜕ずか䞖界ず察峙しお生きるこずであったずいうこず。(59)

<参考 K塟解答䟋>
小さい頃から傍目には無意味に芋えるものに䟡倀を芋出し、それに䞀心に打ち蟌む性向があり、倧人になっおも、䜜歌を通しおそうした生き方を貫いおきたずいうこず。(76w)

<参考 T進解答䟋>
䜕でもないものに䟡倀を芋出しお身䜓ごず熱䞭する䞀人遊びに幌児から勀しんだ筆者は、倧人になった今でも、それを䜜歌においお実践する生き方を貫いおいるずいうこず。(78w)