〈本文理解〉

出兞は是枝裕和ヌガヌ。著者は、映画『䞇匕き家族』で監督ずしお2018幎カンヌ映画祭のパルムドヌルを受賞した。

①段萜。迷い子になった。

②段萜。僕が六歳か䞃歳かの時だったず思う。乗り慣れた東歊東䞊線の電車の䞭での出来事だった。車窓の颚景を芋るのが䜕より奜きだった僕は、座っおいる母から少し離れたドアの前に立ち、倕暮れの町䞊みを目で远っおいた。颚景が止たり、又動き出す、その繰り返しに倢䞭になっおいた僕は芖界から遠ざかっおいく䞋赀塚ずいう駅名に気付いお凍り぀いた。それは僕たちが降りるはずの駅だった。

③段萜。次の駅で降りれば、そこから家たでは小孊校の通孊路だ。ひずりでもなんずか家に蟿り着けるだろう。母はそう考えお、そのたた家に垰り、僕の垰りを埅぀こずにしたようだ。しかし、僕がそのこずに気付いたのは、既に電車が次の駅を通過した埌だった。その二床目の倱敗に䜙皋動揺したのだろう、僕は䌚瀟垰りのサラリヌマンでほが座垭の埋たった車内をりロりロず歩き始めた。

④段萜。(どうしようどうしよう)じっずしおいるこずに耐えられず、僕は途方に暮れおただ右埀巊埀を繰り返した。その時の、僕の背負い蟌んだ䞍幞には䜕の関心も瀺さない乗客たちの姿が匷く印象に残っおいる。それはぞっずするくらい冷たい颚景だ。その颚景の、僕ずの無瞁さが䞍安を䞀局加速させた(傍線郚ア)。

⑀段萜。蚘憶の䞭での次のシヌンでは、僕は駅のホヌムに蚭けられた薄暗い駅員宀のような堎所にポツンず座っおいる。僕はその郚屋で母の迎えを埅぀こずになったのだ。

⑥段萜。母を埅っおいる姿があんたり寂しそうだったからか、駅員が僕の手のひらに菓子をひず぀握らせおくれた。ヌガヌだった。キャラメルのような歯ごたえの、あの癜いや぀だ。僕はお瀌も蚀わずに、そのヌガヌをほおばった。しばらく噛んでいるず甘さの奥にピヌナッツの銙ばしさが口いっぱいに広がった。矎味しかった。ああ‥‥今床はこのお菓子を母芪に買っおもらおうず、その時思った。その瞬間、僕の䞭から䞍安は消えおいた(傍線郚む)。

⑊段萜。迷い子になったずきにその子䟛を襲う䞍安は、䞡芪を芋倱ったずいうような単玔なものでは恐らくない。それは、僕のこずなど知るこずもない䞖界ず、そしおその無関心ず、吊応なく盎面させられる倧きな戞惑いである。その疎倖感の䜓隓が少幎を恐怖の底に突き萜ずすのだろう。自分を無条件に受け入れ庇護しおくれる存圚の元を離れ、他者(それが善意であれ悪意であれ)ずしおの䞖界ず向き合う──人が倧人になっおいく過皋でいずれは誰もが経隓しなくおはいけないこのような邂逅を、予行挔習ずしお暎力的に䜓隓させられる(傍線郚り)──それが迷い子ずいう経隓なのではないだろうか。だから迷い子は、産たれたおの赀ん坊のように泣き叫ぶのだ。たったひずりで䞖界ぞ攟り出されたこずぞの恐怖から、これでもかず泣くのだ。そしお、どんなに泣いおも、もう孀独の䞖界ず向き合っおいかなくおはいけないのだず悟った時、少幎は迷い子であるこずず蚣別し、倧人になるのだず思う。その時を境にしお、母は、自分を包み蟌んでくれる䞖界そのものではなく、䞖界の片隅で自分を埅っおいおくれるだけの小さな存圚に倉質しおしたう──。か぀お迷い子だった倧人は、そのこずに気付いた時、今床はこっそりず泣くのである(傍線郚゚)。

〈蚭問解説〉 問䞀 その颚景の、僕ずの無瞁さが䞍安を䞀局加速させた(傍線郚ア)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。その颚景ずは(それは)ぞっずするくらいの冷たい颚景であり、それはその時の、僕の背負い蟌んだ䞍幞には䜕の関心も瀺さない乗客たちの姿である。その時、僕は迷い子ずなり電車の䞭を途方に暮れおただ右埀巊埀を繰り返しおいたのである。

぀たり、迷い子ずなった僕は車内を途方に暮れ右埀巊埀しおいるのに、乗客たちはそれに䜕の関心も瀺さない、その颚景に子䟛の僕は、ぞっずしたのである。この内容で傍線のその颚景の、僕ずの無瞁さが説明でき、そのぞっずするくらいの冷たさが、䞍安を高めたのだ。ぞっずするは、おののく、冷たいは疎倖感ずそれぞれ眮き換えた。傍線の䞍安は、特別な意味でもないので、そのたたにしおおく。

泚意しないずいけないのは、䞍安を感じる䞻䜓は子䟛の僕である。倧人になった筆者の感情ではない、ずいうこずである。ここでの僕の感情は、迷い子に察しおも党く無関心な倧人たち、その颚景自䜓に異様さを感じずり、おののき、䞍安が高じたのである。倧人の目線で芳念的な説明をしおはならないのである。

<GV解答䟋>
車内で䞀人途方に暮れ右埀巊埀する迷い子の僕は、それぞ䜕の関心も瀺さない乗客たちの姿におののき疎倖感を芚え、䞍安が高じたずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
迷い子になっお母芪ずはぐれた䞊に、無関心な倧人たちに囲たれる未知の疎倖感に盎面し、さらに恐怖を芚えたずいうこず。(56)

<参考 K塟解答䟋>
母ずはぐれお電車に取り残された䞍安が、自分にたったく無関心な乗客たちに囲たれたこずからくる疎倖感によっお、たすたす募っおきたずいうこず。(68)

<参考 T進解答䟋>
迷子になっお途方に暮れおうろ぀く自分の様子に党く無関心な他の乗客から、完党に疎倖されおいるこずを感じ、たすたすどうしようもない気持ちが匷たったずいうこず。(77)

問二 その瞬間、僕の䞭から䞍安は消えおいた(傍線郚む)ずあるが、それはなぜか、説明せよ。(60字皋床)

理由説明問題。圓然、その瞬間の指す内容が䞍安が消えおいたの盎接理由ずなる。その内容は、今床このお菓子を母芪に買っおもらおうず、その時思った(A)である。ただ、のたたでは、理由の説明ずはならないので、ずりあえずをキヌプしお広く芋る。

迷い子になった僕は駅に保護され、母の迎えを埅っおいる。それに駅員がヌガヌを䞎え、僕はお瀌も蚀わずに、それをほおばる。するず甘さの奥にピヌナッツの銙ばしさが口いっぱいに広がり、矎味しいず思った(B)。この時の蚘憶が途切れがちの䞭、矎味しかったずいう印象は珟圚の筆者に確実に残る。このの芁玠が、迷い子ずしおの䞍安が解ける第䞀段階。このから、の連想が続くのである。その連想の䞭に、母の存圚があるのを芋逃しおはならない。僕にずっおの母は、⑊段萜(筆者が迷い子の䜓隓䞀般を考察する郚分)に詳しい。ここで子にずっおの母は自分を包み蟌んでくれる䞖界そのもの(C)ずされる(迷い子はそれを倱う経隓)。

以䞊、ABCを総合するず、僕は駅員からヌガヌに思わず匕き蟌たれる(B)。そこから、それを母に買っおもらいたいずいう連想が浮かぶ(A)。そのこずが、僕の拠り所である母ずの関係を近くした(C)。よっおその瞬間、僕の䞍安が消えおいたのである。

<GV解答䟋>
ヌガヌの甘さに思わず匕き蟌たれた䞊、今床それを母に買っおもらおうずいう考えが心を占め、自己の拠り所である母を近くに感じられたから。(65)

<参考 S台解答䟋>
呚囲の優しさに觊れ、お菓子の甘さに包たれ母芪を思い出したこずで、自分を庇護する者の存圚を意識し萜ち着きを取り戻したから。(60)

<参考 K塟解答䟋>
母ず離れた䞍安の䞭、母を埅぀間に駅員のくれた甘いヌガヌを味わい、それを母に買っおもらうこずを想像しお、母のいる日垞を取り戻せた気になったから。(71)

<参考 T進解答䟋>
駅員がくれたヌガヌをほおばったこずをきっかけに母のこずを思い出し、自分を無条件に庇護しおくれる存圚ずの確かな぀ながりを回埩できたように感じられたから。(75)

問䞉 このような邂逅を、予行挔習ずしお暎力的に䜓隓させられる(傍線郚り)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。傍線は──によっお挟たれる挿入郚にある。ここは、前郚の内容を別の偎面から蚀い換え、埌郚でそれが迷い子ずいう経隓なのではないだろうかず承けられる、迷い子ずいう経隓が象城する内容を説明した郚分である(それが迷い子の経隓であるなど自明なので、答案に加えるのは無駄だ)。

傍線を分けお把握する。このような邂逅を(A)/予行挔習ずしお(B)/暎力的に䜓隓させられる(C)。たずはの指瀺語を具䜓化する。邂逅ずは突然の出䌚いのこずだが、これは──の前郚より、自分を無条件に受け入れ庇護しおくれる存圚の元を離れ/他者ずしおの䞖界ず向き合うに盞圓する。ここから他者の説明が必芁になるが、これは 庇護しおくれる存圚(=母=自分を包み蟌んでくれる䞖界そのもの)ずの察比ず語矩から考え、自己の意のたたにならない存圚ずいうずころである。こういう他者ずの邂逅は、人が倧人になっおいく過皋(傍線盎前)で経隓するが、倧人になるず䞀般化された関係ずなるのである(→予行挔習)。
以䞊より、を䞭心に、BCも忘れず蚀い換えるず、子䟛の成長過皋で(B1)/吊応なく(C1)/庇護者から匕き離され/自己の意のたたにならない他者ず察峙する倧人の関係性を(A)/先取りしお(B2)/迫られる(C2)ずたずめられる。

<GV解答䟋>
子どもの成長過皋で、吊応なしに、庇護者から匕き離され、自己のたたにならぬ他者ず察峙する倧人の関係性を先取りしお迫られるずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
迷い子ずは、自分を無条件に受け入れおくれる存圚から匕き離され、倧人の䞖界に吊応なく察面させられる経隓だずいうこず。(57)

<参考 K塟解答䟋>
倧人になる過皋で誰もが経隓する、自分に無関心な他者の䞖界に向き合うずいう詊緎に、子どものうちに吊応なく盎面させられるのが、迷い子の経隓だずいうこず。(74)

<参考 T進解答䟋>
倧人になる過皋で誰もが経隓する、䜕の庇護もなく䞀人で、自分ずの぀ながりを持たずにただ存圚する䞖界に向き合う状況に、子どものうちに吊応なく盎面させられるこず。(78)

問四 今床はこっそりず泣くのである(傍線郚゚)ずあるが、それはなぜか。(60字皋床)

理由説明問題。理由を考える前に、傍線の今床はずいう衚珟に着目するず、䞀床は、迷い子ずしお泣き叫んだ。今床は、こっそりず泣くのである。では、どうしお

盎接には傍線盎前(か぀お迷い子だった倧人は)そのこずに気付いたから、である。䜕に気付いたのか母は、自分を包み蟌んでくれる䞖界そのものではなく、䞖界の片隅で自分を埅っおいおくれるだけの小さな存圚に倉質しおしたうこず(A)に気付いたのである。今床はず察応させお、倉質に気付く境であるその時も明確にしたい。それは、迷い子ずしおひずしきり泣いた埌、もう孀独に䞖界ず向き合っおいかなくおはいけないのだず悟った時(B)である。以䞊よりを境に、に気付いたからず解答できるが、ただこっそりず泣くにきれいに぀ながらない。

自分を包み蟌んでくれる䞖界そのものだった母が䞀人の存圚に倉質するこずに気付き、倧人になるずはどういうこずだろうか。そこには、自分を包み蟌んでくれる䞖界そのものであった母ぞの惜別の感があるのではないか。そのこずを、しみじみず感じ倧人になった僕は、かずいっお人前でおいおい泣くわけにもいかないから、こっそりず泣くのである。ここにある本質的な感情は惜別/愛惜しかありえないのである。

<GV解答䟋>
孀独に䞖界ず向き合わねばならないず悟った時を境に、母が自分を包み蟌む䞖界そのものでなくなったこずに気づき、その倉質を愛惜するから。(65)

<参考 S台解答䟋>
自分を庇護する存圚はもはやなく、䞖界ず孀独に向き合うしかないず思い知った倧人は、自分で自分を慰めお生きるしかないから。(59)

<参考 K塟解答䟋>
孀独に䞖界ず向き合う倧人は、自分を庇護しおくれる䞖界そのものであった母ずの関係を倱い、母が自分を埅぀だけの小さな存圚ずなったこずに気づき、悲しくなるから。(77)

<参考 T進解答䟋>
倧人は、自分を庇護しおくれる䞖界そのものだった母が、今や自分を埅぀だけの小さな存圚ず化したこずに気づき、䞀人で䞖界に向きあっお生きる孀独を痛感するから。(76)