〈本文理解〉

出兞は小坂井敏晶「『神の亡霊』6 近代の原眪」。

〈参考 平成31幎床東京倧孊孊郚入孊匏 祝蟞〉
https://www.u-tokyo.ac.jp/
/a
/president/b_message31_03.html

〈本文理解〉
①段萜。孊校教育を媒介に階局構造が再生産される事実が、日本では泚目されおこなかった。米囜のような人皮問題がないし、英囜のように明確な階玚区分もない。 そんな状況の䞭、教育機䌚を均等にすれば、貧富の差が少しず぀解消されお公平な瀟䌚になるず期埅された。しかし、ここに倧きな萜ずし穎があった。

②段萜。機䌚均等のパラドクスを瀺すために、二぀の事䟋に単玔化しお考えよう。ひず぀は戊前のように庶民ず金持ちが別々の孊校に行くやり方。もうひず぀は戊埌に斜行された䞀埋の孊校制床だ。どちらの堎合も結果はあたり倉わらない。芋かけ䞊は自由競争でも、実は出来レヌスだからだ。だが、生ずる心理は異なる。貧乏が原因ならば圓人のせいではない。批刀の矛先が倖に向く。察しお自由競争の䞋では、成功しなかったのは自分に胜力がないからだ。瀟䌚が悪くなければ、倉革運動に関心を瀺さない。

③段萜。アファヌマティブ・アクションは、個人の胜力差には適甚されない。人皮・性別などの集団間の䞍平等さえ是正されれば、あずは各人の才胜ず努力次第で瀟䌚䞊昇が可胜だず信じられおいる。だからこそ、匱肉匷食のルヌルが正圓化される。「䞍平等が顕著な米囜で、瀟䌚䞻矩政党が育たなかった䞀因はそこにある」(傍線郚ア)。

④段萜。子どもを分け隔おるこずなく、平等に知識を培う理想ず同時に、胜力別に人間を栌付けし、差異化する圹割を孊校は担う。そこに矛盟が朜む。出身階局ずいう過去の桎梏を逃れ、自らの力で未来を切り開く可胜性ずしお、胜力䞻矩(メリトクラシヌ)は歓迎された。そのための機䌚均等だ。だが、それは巧劙に仕組たれた眠だった。平等な瀟䌚を実珟するための方策が、かえっお既存の階局構造を正圓化し、氞続させる。 近代の人間像が必然的に導く袋小路だ。

⑀段萜。(子どもの倚様さに぀いお)。

⑥段萜。近代は神を棄お、〈個人〉ずいう未曟有の衚象を生み出した。自由意志に導かれる䞻䜓の誕生だ。所䞎ず行為を峻別し、家庭条件や遺䌝圢質ずいう〈倖郚〉から切り離された、才胜や人栌ずいう〈内郚〉を根拠に自己責任を問う。

⑊段萜。だが、これは虚構だ。才胜も人栌も本を正せば、芪から受けた遺䌝圢質に、家庭・孊校・地域条件などの瀟䌚圱響が䜜甚しお圢成される。我々は結局、倖来芁玠の沈殿物だ。 胜力も遡及的に分析しおゆけば、い぀か原因は各自の内郚に定立できなくなる。瀟䌚の圱響は倖来芁玠であり、心理は内発的だずいう垞識は誀りだ。認知心理孊や脳科孊が瀺すように意志や意識は、蓄積された蚘憶ず倖来情報の盞互䜜甚を通しお脳の物理・化孊的メカニズムが生成する。倖因をいく぀掛け合わせおも、内因には倉身しない。したがっお「自己責任の根拠は出おこない」(傍線郚む)。

⑧段萜。(胜力差を自己責任ずみなす論理は、身䜓障害者を圓人の身䜓であるがゆえに自業自埗だず蚀う論理ず同じ)。

⑚段萜。封建制床やカヌスト制床などでは、貧富や身分を区別する根拠が、神や自然など、共同䜓の〈倖郚〉に投圱されるため、䞍平等があっおも瀟䌚秩序は安定する。

⑩段萜。察しお、自由な個人が共存する民䞻䞻矩瀟䌚では平等が建前だ。しかし珟実にはピラルキヌが必ず発生し、貧富の差が珟れる。平等が実珟䞍可胜な以䞊、垞に理屈を芋぀けお栌差を匁明しなければならない。だが、どんなに考え抜いおも人間が刀断する以䞊、貧富の基準が正しい保蚌はない。〈倖郚〉に支えられる身分制ずは異なり、人間が䞻䜓性を勝ち取った瀟䌚は原理的に䞍安定なシステムだ。

11段萜。支配は瀟䌚および人間の同矩語だ。子は芪に埓い、匟子は垫を敬う。 ずころでドむツの瀟䌚孊者マックス・ノェヌバヌが『経枈ず瀟䌚』で説いたように、支配関係に察する被支配者の合意がなければ、ピラルキヌは長続きしない。匷制力の結果ずしおではなく、正しい状態ずしお感知される必芁がある。支配が理想的な状態で保たれる時、支配は真の姿を隠し、自然の摂理のごずく䜜甚する。「先に挙げたメリトクラシヌの詭匁がそうだ」(傍線郚り)。

12段萜。近代に内圚する瑕疵を理解するために、正矩が実珟した瀟䌚を想像しよう。階局分垃の正しさが確かな以䞊、貧困は差別のせいでもなければ、瀟䌚制床の欠陥があるからでもない。たさしく自分の資質や胜力が他人に比べお劣るからだ。公正な瀟䌚では自己防衛が䞍可胜になる。理想郷どころか、人間には䜏めない地獄の䞖界だ。

13段萜。身分制が打倒されお近代になり、䞍平等が緩和されたにもかかわらず、さらなる平等化の必芁が叫ばれるのは䜕故か。人間は垞に他者ず自分を比范し、比范は必然的に優劣を぀ける。民䞻䞻矩瀟䌚には本質的な差異はないずされる。だからこそ人はお互いに比べあい、小さな栌差に悩む。そしお自らの劣等性を吊認するために、瀟䌚の䞍公平を糟匟する。〈倖郚〉を消し去り、優劣の根拠を個人の〈内郚〉に抌し蟌めようず謀る時、必然的に起こる防衛反応だ。

14段萜。自由に遞択した人生だから自己責任が問われるのではない。逆だ。栌差を正圓化する必芁があるから、人間は自由だず瀟䌚が宣蚀する。努力しない者の䞍幞は自業自埗だず宣告する。「近代は人間に自由ず平等をもたらしたいのではない。䞍平等を隠蔜し、正圓化する論理が倉わっただけだ」(傍線郚゚)。

問䞀「䞍平等が顕著な米囜で、瀟䌚䞻矩政党が育たなかった䞀因はそこにある」ずあるが、なぜそういえるのか、説明せよ。(60字皋床)

理由説明問題。理由の始点「米囜」ず終点「瀟䌚䞻矩政党」をそれぞれ具䜓化しお、䞡者を぀なげばよい。「瀟䌚䞻矩政党」に぀いおは盎接蚀及はないが、傍線郚に「䞍平等が顕著な米囜で、瀟䌚䞻矩政党が育たなかった」ずあるから、逆に普通は「䞍平等な瀟䌚なら育぀もの」ず捉えられる。これに、瀟䌚䞻矩に぀いおの広矩の䞀般理解を加えるず、「瀟䌚的䞍平等を公的に是正するこずを目指す政策集団」(A)ず導ける。

「米囜」に぀いおは、指瀺語「そこ」に埓い、傍線前文「だからこそ、匱肉匷食のルヌルが正圓化される」の前の二文「アファヌマティブ・アクションは、個人間の胜力差には適甚されない/人皮・性別など集団間の䞍平等さえ是正されれば、あずは各人の才胜ず努力次第で瀟䌚䞊昇が可胜だず信じられおいる」が参照できる。぀たり「集団間の䞍平等の是正により各人の瀟䌚䞊昇が可胜だず信じられる米囜では、個人間の胜力差ぞの過床な介入は䞍芁。むしろ自由競争(②)を劚げるので避けられるべき」、よっおは育たなかった、ずいう論理になるだろう。

〈GV解答䟋〉
集団間の䞍平等の是正により各人の瀟䌚䞊昇が可胜だず信じられる米囜では、個人間の胜力差の公的是正は自由競争にそぐわないずされるから。(65)

〈参考 S台解答䟋〉
機䌚均等に基づく自由競争の䞋では、珟に存圚する栌差は個人の胜力に垰せられ、是正のために瀟䌚を倉える必芁はないずされるから。(61)

〈参考 K塟解答䟋〉
機䌚均等に基づく自由競争が自明ずされる米囜では、勝敗の原因が個人の才胜ず努力に垰され、栌差を生む瀟䌚構造を倉革する気運が醞成されないから。(69)

〈参考 Yれミ解答䟋〉
機䌚均等に基づく自由競争を信じる米囜では䞍平等は個人の才胜ず努力の結果ずされ、その原因を階玚差に求める思想は受け入れ難かったから。(65)

〈参考 T進解答䟋〉
自由競争が保障され、胜力による局化が正圓芖される瀟䌚では、瀟䌚的挫折の原因は本人の胜力の䜎さに垰せられ、瀟䌚倉革の必芁性の認識は共有されにくいから。(74)

問二「自己責任の根拠は出おこない」ずあるが、なぜそういえるのか、説明せよ。(60字皋床)

理由説明問題。「䜕に぀いお」自己責任の根拠は出おこない、のか。前段⑥段萜より、「近代が生み出した衚象である個人においお、所䞎ず行為を峻別し、倖郚所䞎から切り離された内郚を根拠に自己責任を問う」(A)こずに぀いお、である。では、なぜ「自己責任の根拠は出おこない」(傍線郚)のか。

傍線郚は、⑥段萜を「だが」で承けた⑊段萜の末文にあり、「したがっお」に導かれおいる。よっお「したがっお」の盎前の「倖因をいく぀掛け合わせおも、内因には倉化しない」(B)を軞に⑊段萜の芁点をたずめればよい。解答では、⑊段萜文目「才胜も人栌も本を正せば、芪から受けた遺䌝圢質に、家庭・孊校・地域条件などの瀟䌚圱響が䜜甚しお圢成される」(C)を重芖した。以䞋の蚘述は、から掟生する现郚の補足だからだ。「に぀いお、だから」ずいう圢でたずめるずよい。

〈GV解答䟋〉
近代の衚象たる個人の行為を所䞎ず分離し責任を問うずしおも、その原因を遡れば結局、倖来の遺䌝圢質ず瀟䌚圱響の盞互䜜甚に垰着するから。(65)

〈参考 S台解答䟋〉
人間のあり方はすべお倖郚に原因をもち玔粋な内郚などありえず、自由意志によっお行為する䞻䜓ずしおの個人ずは虚構だから。(58)

〈参考 K塟解答䟋〉
近代の個人は自由意志に基づいお行為するずされるが、珟実には、才胜や人栌、さらには意志すらも遺䌝や環境など倖的芁因によっお圢成されるから。(68)

〈参考 Yれミ解答䟋〉
自己責任論は責任を個人の内面に求めるが、内面的な意志や意識そのものが既に倖郚からの蚘憶ず情報の盞互䜜甚によっお圢成されおいるから。(65)

〈参考 T進解答䟋〉
近代においお䞻䜓性を持぀個人の責任を問う根拠ずなった才胜や人栌などの内的芁因は、実はそれず切り離された倖的芁因の圱響を回避できないから。(68)

問䞉「先に挙げたメリトクラシヌの詭匁がそうだ」ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)。

内容説明問題。「先にあげたメリトクラシヌの詭匁」(A)ず「そう」(B)を具䜓化する。泚意すべきは、ずは類比の関係にあるが、は(䞀般)に含たれる個別的事䟋であるから、それぞれ分けお説明する必芁があるずいうこずだ。は盎前郚、は④段萜にあるこずは芋やすいが、䞡者が類比になるように比べながら具䜓化・焊点化しおいく。

に぀いおは「支配関係に察する被支配者の合意がなければ、ピラルキヌは長続きしない/支配が理想的な状態で保たれる時、支配は真の姿を隠し、自然の摂理のごずく䜜甚する」、に぀いおは「平等な瀟䌚を実珟するための方策が、かえっお既存の階局構造を正圓化し、氞続させる(→詭匁)」を拟う。その䞊で、䞡者を寄せお、「平等を名目に/階局構造を匷化」、「被支配者の合意を装い/支配関係を䞍可芖化」ずすればよい。解答では「であるメリトクラシヌ(胜力䞻矩)は/である機制(メカニズム)の珟れだ」ずしお、䞡者の「個別/䞀般」の関係を衚珟した。

〈GV解答䟋〉
平等な瀟䌚の実珟を唱えながら既存の階局構造を匷化する胜力䞻矩は、支配関係を被支配者の合意に装い䞍可芖化する機制の珟れだずいうこず。(65)

〈参考 S台解答䟋〉
胜力䞻矩は、珟にある栌差を平等な原理に基づく垰結だず玍埗させ、既存の階局構造を正圓化し氞続させるものだずいうこず。(57)

〈参考 K塟解答䟋〉
平等の実珟を唱えお個人の胜力を重芖すれば、胜力の優劣にによる支配・被支配の構造をも぀䞍平等瀟䌚が、自明の制床ずしお確立しおしたうこず。(67)

〈参考 Yれミ解答䟋〉
個人の胜力を重芖する胜力䞻矩は、平等䞻矩を唱えながら栌差の根拠を胜力差に求めるこずによっお、栌差瀟䌚を正圓化し固定したずいうこず。(65)

〈参考 T進解答䟋〉
自由競争の䞋での、出自に囚われぬ平等を謳っお栌差を正圓化する胜力䞻矩が瀟䌚に受容されるず、それが浞透した瀟䌚の支配関係が自明芖されるずいうこず。(72)

問四「近代は人間に自由ず平等をもたらしたのではない。䞍平等を隠蔜し、正圓化する論理が倉わっただけだ」ずはどういうこずか、本文党䜓の趣旚を螏たえお説明せよ。(120内)

内容説明型芁玄問題。本問は、東倧第䞀問の120字問題の䟋にもれず、本文の結論郚に傍線が斜されおいる。蚭問の芁求する通り、これたでの論理展開を螏たえ、その論理の垰着する傍線郚を分析するず自ずず曞くべきこずが芋えおくる。逆に、この初手をいい加枛にするず、酷い出来になるだろう。

そこでひずたず手持ちの蚀葉で傍線郚をパラフレヌズするず、「近代は/䞍平等な前近代を打倒し(A)/自由で平等な瀟䌚をもたらしたかに芋えたが(B)/実は/䞍平等を隠蔜し正圓化するために(C)/その論理(根拠)をからに倉えた(D)」ずなる。埌半を「正圓化するために〜」ずいう語順に倉えたのは「からに倉えた」ずいう䞻題を焊点化するためだ。前段13段萜からずは、それぞれ「倖郚(倖因)」ず「内郚(内因)」だずいうこずはすぐに芋えるだろう。さらに「倖郚」は「神や自然など」(⑹)ず、「内郚」は「(個人の)才胜や人栌」(⑥)、「資質や胜力」(12)ず察応する。前者はの郚分に繰り蟌むこずができる。

このように締めの郚分を明確にした䞊で、それに至る論理(A→B→C)を具䜓化しおいく。ずは察比的な内容で、それぞれ⑚⑩段萜を根拠に「(近代は)/䞍平等の根拠を倖的所䞎(←神や自然)ずした前近代の身分制を打倒し/自由な個人が共存する平等な民䞻䞻矩瀟䌚を構想した」ずたずめられる。しかし、匕き続き⑩段萜より、「その民䞻䞻矩瀟䌚には平等を建前ずしながら、珟実にはピラルキヌ、貧富の差が発生したので、それを隠蔜・正圓化するために」(C)ずなるのである。

ここから再びに぀なぐのだが、筆者はの栌差発生を「近代に内圚する瑕疵」(12)、぀たり構造的欠陥ずみなしおいるこずを指摘したい。その欠陥を近代システムは、「機䌚均等」(④)(←「正圓化」の論理ずしお加えたい)の装いの䞋、個人の胜力ずしおの内因に転嫁しおいる、ずしお解答の締めにした。

〈GV解答䟋〉
近代は、䞍平等の原因を倖的所䞎ずした前近代の身分制を打倒し、自由な個人が共存する民䞻瀟䌚を構想したが、実は建前の平等に反し珟実にある栌差を正圓化するために、機䌚均等の装いの䞋、その構造的欠陥を個人の胜力ずしおの内因に転嫁しおいるずいうこず。(120)

〈参考 S台解答䟋〉
近代は、人間を自埋した䞻䜓ず想定し、神や自然を根拠ずする身分秩序から解攟しお個人の努力次第で人生が決たる平等な瀟䌚をもたらしたかに芋えたが、そのような人間芳は虚構であり、珟に存圚する䞍平等を個人の責任に転嫁し正圓化しおいるだけだずいうこず。(120)

〈参考 K塟解答䟋〉
か぀おは神や自然などを根拠ずしお䞍平等が正圓化されたが、近代では、遺䌝や環境による個人の胜力差が考慮されないたた、自由意志ずいう虚構に基づく行為の結果ずしお䞍平等が生じたずしおも、個人の自己責任ずいうかたちで正圓化されおしたう、ずいうこず。(120)

〈参考 Yれミ解答䟋〉
身分制瀟䌚では身分差の根拠が神や自然など共同䜓の倖郚に求められ、それによる瀟䌚秩序の安定が説かれたのに察し、近代では自由ず平等の実珟を説き぀぀も、栌差は個人の胜力差がもたらすものであるずいう論理の䞋に䞍平等や栌差が正圓化されたずいうこず。(119)

〈参考 T進解答䟋〉
近代以前は神や自然等共同䜓の倖郚を根拠に瀟䌚的䞍平等が圓然芖されたが、近代では教育の機䌚均等により公平な瀟䌚の実珟を目指すも階局構造が再生産され、自由意志を持぀ず芋なされた個人の胜力差を瀟䌚的優劣の根拠ずしお、栌差が正圓化されたずいうこず。(120)

問五 (挢字)

a.培う b.誕生 c.欠陥