問一「「対話」は現代社会の問題を解決するために無効である!」という主張に対して、古今東西の思想家を一人取り上げて論ぜよ。(400字内)
〈GV解答例・ソクラテス〉
価値観の多様化が進む現代、人には各々の「正しさ」があり、それを一つの考えで統べるのは不可能であり独善に傾く、という見方がある。だが、対話を無効化する言説は、多様性を擁護しているかに見え、その実現状の力関係に基づく不公正を容認し、資金力に勝る勢力の多数派形成を許す欺瞞であり、避け難い利害対立は弾圧、戦争、テロといった暴力で決着を図るという帰結を導く。ソクラテスの登場した紀元前5世紀ギリシアのアテネは直接民主制の成熟期にあたり、価値の相対性を前提として、議論の形式で聴衆を説得する弁論術を教えるソフィストが力を得ていた。対してソクラテスは、共同体で共有される真・善・美といった普遍的価値があるとし、それを知らないことの自覚において自分はソフィストよりも真理に近いという無知の知を説いた。加えて、問答法により他者との対話を重ねながら協働で真理の条件を吟味し、独善に陥らない普遍的価値を追究したのである。(400)
〈GV解答例・ハーバーマス〉
価値観の多様化が進む現代、人には各々の「正しさ」があり、それを一つの考えで統べるのは不可能であり独善に傾く、という見方がある。だが、対話を無効化する言説は、多様性を擁護しているかに見え、その実現状の力関係に基づく不公正を容認し、資金力に勝る勢力の多数派形成を許す欺瞞であり、避け難い利害対立は弾圧、戦争、テロといった暴力で決着を図るという帰結を導く。ナチス支配下の大衆心理を批判的に検討したフランクフルト学派の第二世代にあたるハーバーマスは、ホルクハイマーらの指摘した自然や社会を支配する手段に成り下がった道具的理性に対話的理性を対置して理性の復権を図った。つまり、多様な存在が対話を重ねて合意を目指す協働性のうちに理性本来の力が発揮され合理性が顕現する。ただ、この「コミュニケーション的合理性」は対話の過程の中で少しずつ現れるものだから、公正な議論の場としての公共圏が維持されねばならないのである。(400)
〈ChatGPTくんの答え・ソクラテス〉
「対話」が現代社会の問題解決に無効であるとする主張に対して、ソクラテスの哲学が反論を提供します。ソクラテスは古代ギリシアにおいて「無知の知」を重視し、対話を通じて真理に到達することを探求しました。彼は一方的な教示ではなく、対話による問いかけを通じて人々の無知を自覚させ、自己認識を深めることを重視しました。この方法は「ソクラテス式問答法」として知られ、思考の深まりと自己批判的な態度を促進します。 現代社会の複雑な問題は一元的な解決策を持たず、多様な視点と理解を必要とします。対話は、異なる立場や価値観を持つ人々が互いに理解し合い、共通の基盤を築くための手段です。ソクラテスの考えに基づけば、対話は単なる情報交換ではなく、真の理解と変革を生む過程であり、現代の課題にも有効なアプローチであるといえます。対話が無効とされる主張は、対話の深さとその可能性を過小評価していると言えるでしょう。
〈ChatGPTくんの答え・アーレント〉
「対話」が現代社会の問題解決に無効であるとする主張に対し、ハンナ・アーレントの思想が反論を提供します。アーレントは政治哲学者であり、「公共性」や「行動」に関する理論を展開しました。彼女は、真の政治的行動とは対話を通じて行われるものであり、それが公共の場での意思形成や判断を可能にすると考えました。対話は、個々人が異なる視点を持ち寄り、共通の世界を構築するための不可欠な手段です。 現代社会の問題は、しばしば異なる価値観や利益の対立から生じますが、アーレントは、対話によって人々が共通の現実を共有し、協力して解決策を見つけることができると主張します。彼女の思想では、対話を通じた相互理解と合意形成こそが、民主主義社会の基盤をなすものです。したがって、対話を無効とする主張は、問題の根本的な解決を妨げるものであり、アーレントの視点からは支持できないといえます。
問二 ヘレニズム時代の三大思潮であるストア主義、エピクロス主義、そして懐疑主義の類似点と相違点を説明せよ。(400字以内)
〈GV解答例〉
紀元前4世紀アレクサンドロス大王の東方遠征によりギリシア文化とオリエント文化の融合が進む。これを契機に、ポリス的特殊性を乗り越え、世界市民としての思想の普遍性を志向したのがヘレニズム思想に共通する大前提である。そのため三大思潮とも個人主義に立脚し、その内面的充足感を目的とする。一方で、社会との関わりには消極的であり、一般的ゆえに思想的濃度は薄く、ストア派の自然法思想への影響などを除き、後世への影響も強くない。相違点としては、「自然に従って生きる」すなわち自然のロゴスに従うことで情動を抑えたアパテイアを目指し、禁欲主義を是としたストア主義に対し、エピクロス主義は「隠れて生きる」すなわち社会生活から離れて自足的に生きることで心の平安であるアタラクシアを目指し、精神面での快楽主義を是とした。懐疑主義は、前二者のように個人の生き方を規範化せず、あらゆる断定を避けることでアタラクシアを保とうとした。(400)
〈ChatGPTくんの答え〉
ヘレニズム時代の三大思潮、ストア主義、エピクロス主義、懐疑主義は、いずれも人間の幸福を追求する哲学であり、個々の内面的な平安を重視している点で共通している。しかし、各学派のアプローチには大きな違いがある。ストア主義は、理性に従い自然に一致した生き方をすることで、感情に支配されない不動心を保つことを目指す。一方、エピクロス主義は快楽を最大の善とし、特に精神的な快楽を追求し、苦痛のない平穏な状態「アタラクシア」を得ることを目標とする。懐疑主義は、確実な知識の存在を疑い、判断を保留することで精神の安定を保とうとする。このように、ストア主義とエピクロス主義は積極的に理想の生き方を求めるのに対し、懐疑主義は判断を留保することで安定を得ようとする点で異なる。