問一「自分勝手」はいかなる点において擁護されるか。古今東西の思想家を一人取り上げて論じなさい。(400字内)

 

〈GV解答例・夏目漱石〉
日本では開国を機に西洋を模範とした近代化が図られたが、それを「皮相上滑り」の開化だと批判して「自己本位」の内発的開化を求めたのは、文豪夏目漱石である。ここでの自己本位は個人の主体性を表し、前提として他者の自己本位も同じく尊重されねばならぬが、個人主義の伝統が浅い日本ではそれがエゴイズムとして短絡される嫌いがあり、漱石も晩年は「則天去私」の境地に拠った。だが、自己本位を「自分勝手」と捉えてもなお、現代日本の文脈では十分の意義がある。日本では同質性が美徳として語られてきたし、学校や会社などの集団では同調圧力が強いとされる。たしかに国内外の急激な変化により社会の規範が揺らぎ、その中で他者をも顧みない「勝ち方」が称揚される向きもあるが、それさえ同調社会の反動だと考えられ、まずは各自が「自分勝手」に振る舞い、それを内省し、同じく「自分勝手」な他者との共存を模索するところから始めるべきではなかろうか。(400)

 

〈GV解答例・ニーチェ〉
19世紀、大衆社会の成立に抗してニーチェは「神は死んだ」と宣告した。個として自立せず群として行動する均質的な大衆の出現の背景に「心貧しき者」を幸いとする倒錯したキリスト教の「奴隷道徳」があり、それが人の活力を漲らせる「力への意志」を押しとどめると考えたからである。神の失効はニヒリズムをもたらすが、それをも積極的に引き受け、各人が価値を創造する「超人」として強く生きることを、ニーチェは説いたのである。この超人思想は、私たちを取り巻く秩序や道徳、常識に逆らって「自分勝手」に生きることを促すものである。キリスト教でさえ、初めイエスの革新的な思想が強いアレルギーをもたらしたが、やがて権力と結合して人の心を支配し、行動は自動化され、制度疲労を起こした。近代日本の歩みも隆盛と破局を繰り返してきたが、今また停滞期にある。この閉塞を破るとすれば、それは次世代の空気を読まない「自分勝手」な行動ではなかろうか。(400)

 

〈ChatGPTくんの解答〉
「自分勝手」が擁護される点としては、個人の自由と自己実現が挙げられる。ジョン・スチュアート・ミルの功利主義に基づく「自由論」によれば、個人は他者に害を与えない限り、その自由を最大限に追求する権利があるとされる。ミルは、個々人が独自の選択と行動を通じて自己を発展させることが、社会全体の幸福に寄与すると考えた。ここで「自分勝手」は、必ずしも他者を顧みない行為ではなく、自己の判断を尊重し、その結果として社会的・文化的進歩を促進する可能性を持つ行動として擁護される。

 

また、フリードリヒ・ニーチェも自己中心的な生き方を強調し、「超人」概念を通じて個人が従来の価値観に囚われず、独自の道を切り開くことを称賛した。彼にとって「自分勝手」であることは、他者の期待に縛られずに自己を超克し、自分自身の意志を具現化する手段とされた。このように、「自分勝手」は自由と自己実現の文脈で擁護され得る。

 

問二 よく生きるために友愛(友情)は必要か。アリストテレスの友愛に関する見解を踏まえて、自分の考えを論じなさい。(400字内)

〈GV解答例〉
アリストテレスは、幸福を人生の目的とし、その目的のために友愛が不可欠だとした。友愛には有用性・快楽・人柄に基づくものがあり、友を目的として扱う三つ目が理想だが、前二者も時間をおいて第三に接近しうるので否定はされない。広く深い友愛関係を築くことができれば、それにより自らの徳も磨かれるので結果的によく生きることが可能になる。彼の師の師たるソクラテスがポリスの法に従い毒杯を仰いで死に、彼自身「人間はポリス的動物である」と述べたように、ここでの友愛は同質性を前提としたポリスに限られる。現代はテクノロジーの発達により、グローバルに展開する政治・経済の影響から何人も逃れられない一方、身近な生活に限ればストレスのかかる人間関係をスキップし用を足せるようになりつつある。しかし今なおよく生きることを自己を超え出ることだと定義するなら、まだ見ぬ他者の苦難に共鳴し、友愛の精神により行為を選ぶべきではなかろうか。(400)

 

〈ChatGPTくんの答え〉
アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において、友愛(フィリア)を重要視し、人間の幸福(エウダイモニア)に不可欠な要素と述べた。彼によれば、友愛には3つの種類があり、善による友愛が最も高尚とされる。これは互いの徳を認め合い、善き行いを目指す関係だ。アリストテレスは人間が社会的存在であり、他者との関わりの中で自己を発展させ、徳を磨くことが幸福への道だと考えた。 私も友愛はよく生きるために必要だと考える。個々の成長や自己実現は、他者との相互作用によって促進される。友愛の中で、私たちは他者の視点を通じて自己を省察し、自己改善に努めることができる。また、互いに支え合うことで困難を乗り越え、精神的な安定を得ることができる。したがって、友愛は個人の成長と幸福を実現するために不可欠であり、アリストテレスの見解は現代においても意義深いものだ。