こんにちは、GV国語科の大岩です。今回は、前回まで(上のリンク先)に引き続き、センター国語より古文の解説をなるべく簡潔に行います。
出典は本居宣長『石上私淑言』。本居は国学の大成者で、舶来の理屈の体系である「漢意」にとらわれず、「もののあはれ」に代表される日本的な自然に即した「真心」を回復することを説く。今回は、江戸時代の文章なので、平安朝のものと比較すると現代語に近いが、久しぶりの「歌論」からの出題だったので、論理的に筋道を追い主張をつかむ姿勢が求められた。
一般に、古文の読解においても、一文を正確に解釈する力とともに、全文の大意を素早くつかむ力が求められる。大意をつかむ上での着眼点は以下の通り。
①場面を把握する。②「を・に・ば・ど・が」などに着目し意味のまとまりを把握する。③「主一述」を中心に文の骨格をつかむ。④述部(敬語表現も含む)との関係で主語や目的語などの省略部を補う。⑤文意を転じる付属語(助動詞・助詞)や心情・判断を表す形容表現に着目する。
それでは本文。前書きにあるように筆者は自身の見解を問答体の形式で展開する。まず冒頭の問い「恋の歌の世に多きはいかに」(傍線部A)。これに対する答えの要点は「歌は恋をむね(=本旨)とすることを知るべし」。なぜかというと「恋はよろづのあはれにすぐれて深く人の心にしみて、いみじく堪へがたきわざなるゆゑなり」。(②段落)
次の問い、世の中では「身の栄えを願ひ宝を求むる心(a)」などが「あながちにわりなく」(傍線部ア)見られるようだが、どうしてそれらは歌に詠まないのか。
これに対する答え。まず「情と欲のわきまへ」(傍線部B)がある。一般に欲(aと対応)は情の一種だが、特に人を「あはれ」「かなし」「うし」「つらし」と思う類いを情という。「いかにもあれ」(傍線部イ)「歌は情の方より出で来るものなり」。情の方が物に感じやすく「あはれ」も深いからである。(④段落前半)
生きとし生けるものは、情をまぬがれない。まして人はすぐれて「物のあはれ」を知るものであるから、「あはれ」にたえぬ思いを歌にするのである。(④段落後半)
「さはあれども」心弱きを恥じる「後の世のならはし」で情を我慢することが多くなった。「されど」歌のみは「上つ代」の心ばえを失わず、人の心の真実をありのままに詠みあげる。(⑤段落)
まれに「酒を讚(ほ)めたる歌」の例もあり、「詩」(=漢詩)ではそうした例も多いが、「歌」(=和歌)では「心づきなく憎く」まで思わずにはおれず「さらになつかしからず」(傍線部ウ)。欲は汚い思いで「あはれ」でないからである。それなのに「人の国」(=中国)では情を恥じ隠し、汚い欲を「いみじき」ものと漢詩に詠むのはどうしたことか、おかしなことだ。(⑥段落)(以上、本文に即した理解)
問一(語句の意味問題)
一般に古語は、現代語に比較して広い事象をカバーする。現代語は、その広い事象を分節して細かく表現したものである。したがって、古語の解釈においては、その中心的なイメージをつかんでおいて、それを広げて文脈にふさわしい訳語を当てはめる必要がある。
(ア)「あながちなり」は「強ちなり」と表記し、「強引なさま」捉えようによっては「一途で熱心なさま」に転じる。「わりなし」は「理なし」と表記し「理屈にそわないさま」転じて「どうにもならない」ともなる。この組み合わせから①。
(イ)「いかにもあれ」の「あれ」は命令形の放任法。「~であっても(かまわない)」というニュアンスになる。よって③。(例)玉の緒よ絶えなば絶えね
(ウ)「さらに~打消」で「全く~ない」。「なつかし」は古今異義語で「心ひかれるさま」。よって⑤。
問二(文法問題、品詞分解)
「身/に/しむ/ばかり/細やかに/は/あら/ね/ば/に/や」と品詞分解できる。ポイントは「細やかに」が形容動詞の連用形。「ね」は打消「ず」の已然形。「に/や」の後には「あら/む」が省略されており「に…あり」の形で「に」は断定「なり」の連用形。これより③「仮定条件」(←未然形+ば)が誤りで、「確定条件」(←已然形+ば)が正しい。
問三(傍線部Aの問いに対する答え、要約)
Aを訳した上で(→恋の歌が世に多いのはどういうことか)、該当箇所を探し、その内容に沿う選択肢を選ぶ。②段落から「歌は恋をむねとする」「恋は~心にしみて~堪へがたき~ゆゑ」をピック。「恋は心にしみてどうしようもないから、歌の主題となる」となり、②が正解。
問四(傍線部Bと恋の関係についての見解、要約)
Bを訳し(→情と欲の区別)、恋との関係を述べた部分をピックする。④段落前半からポイントをまとめると「人の思いは全て情で、欲もその一部」「財宝を求めるのは欲」「恋の思いは、欲から出るが、特に情に深く関わる」。これらにより、正解は③。
問五(情と欲の、時代による違いと歌との関係についての見解、傍線なし要約)
設問の誘導に乗り、該当箇所は⑤段落。ポイントをまとめると「後世では、情を出すのを恥じるゆえに、欲より浅く見なされがち」「しかし、歌においては、上代のままで、情をありのまま詠んで恥じることはない」。これらにより、正解は④。
問六(歌と詩の「物のあはれ」との関係についての見解、傍線なし要約)
設問の誘導に乗り、該当箇所は⑥段落と④段落後半。ポイントは、⑥段落より「歌において、欲は詠まれることもあるが、一般に汚いものとされる」「詩において、情は隠され、欲を良いものとみなす」、④段落後半より「生きとし生けるものは情からまぬがれない」「(まして)人は『物のあはれ』を知るものであり、それを歌にするものだ」。これらにより、正解は④。
以上です。たぶん次は漢文をやります。今日も長いことお付き合いいただき、ありがとうございました。(^^;
沖縄 大学受験予備校グレイトヴォヤージュ
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